1-4
(終わった―― )
修道女となった自身が
さらにあろうことか、コンラートがずんずんとこちらに歩み
(えっ!? なに!? いつもは無視するのに、どうして今日に限ってこっち来るのよ!?)
逃げる間もなく、四阿のすぐ前にコンラートが立つ。
「……本当か?」
「えっ……と、その……」
「ちょっとでも仲良くなれたらいいなって」
「えっ?」
(そっち!?)
まさかの切り出しに、アルマは思わず顔を上げる。
「俺は……君が来てくれて
「ちょっ、ちょっと待ってください!? ……嬉しかった?」
「ああ」
「えーと、つまりそれは、私に多少なりとも好感を持っていると?」
身も
だがすぐに
(そっ、そんなの気づくわけないでしょーっ!! それならもう少し、態度か言葉で示しなさいよーっ! 虫だってもう少し分かりやすい求愛行動とるわよー!?)
内心で
「初めて一緒に庭を散歩した時、私が顔を見ただけで
「あれは……君があんまりまじまじと見つめてくるから」
「歩く時もずっと距離を取ってらしたし」
「会ってすぐなのに、隣につくのは失礼だと思ったんだ。でも君を置いていくわけにもいかないし……」
「……。あの時外套を脱いだのは……」
「君が寒そうだったから着せようと思って。ただ―― 」
「ただ?」
「……緊張して、ものすごく汗をかいていたんだ。だから、君に不快な思いをさせてしまうかもと、
だがついに「あははっ」と
「そんなの全然気にしませんよ」
「しかし―― 」
「それより話しかけても答えてもらえないほうが、よっぽど嫌だったんですけど?」
「す、すまない。その、嬉しいとか楽しいとか、感情を表すのがあまり得意じゃなくて……。それに俺は、人を怒らせてしまうことが多いから……。だから君に
(そういえば……)
アルマが話しかけた際、コンラートは動きを止めて、何やら険しい顔つきをしていることが多かった。もう少しゆっくり彼の言葉を待っていれば、本当の気持ちが聞けたのかもしれない。
(私も、知らないうちに焦っていたのかも……)
どうやらお互いに誤解していたようだと分かり、なんともいえない空気が流れる。
会話の糸口を探そうとしたアルマは、ふとコンラートが持っていた手帳に目を向けた。
「あの、その手帳、何を書いているんですか?」
「! これは、その」
彼の返事を待つより早く、アルマはひょいと
そこには実物をそっくり写し取ったかのような見事な薔薇の絵と、それについての情報がびっしりと書き込まれていた。
「これって、私が前に名前を聞いた……」
「……あれから
「あの、別に私、正解が知りたかったわけじゃないですよ?」
「そうなのか?」
「なんていう品種だろうねーとか、綺麗だねーとか。コンラート様とただおしゃべりしたかっただけなんです。……でも、わざわざ調べてくださったんですね」
その場しのぎでしかなかった、どうでもいい話題。
でもコンラートは「アルマが興味を持っている」と
(真面目というか、不器用というか……)
やがてコンラートはしごく
「アルマ、さっき言っていたとおり、君が好きでここに来たわけではないことは分かっている。俺の態度で不安にさせていたことも」
「あ、ええと、あれはその」
「でも俺は―― 君と結婚したい」
今度はアルマが
「ど、どうしてそんな、急に……」
「君が言ったんだろう。言いたいことがあるなら言えと」
「い、言いましたけどぉ……」
(
いたたまれなくなっているアルマに気づかぬまま、コンラートは
「もちろん、形だけ結婚するのは簡単だ。でも俺は
「うわあああ、ご、ごめんなさい! も、もういいです! 十分です!」
「しかし―― 」
「わ、私も! そう思ってましたから!」
両手のひらを彼の方に向け、アルマは必死に答える。
コンラートはぱちくりと
「君も?」
「出来るなら『好きな人と結婚したい』と思うのは、当然じゃないですか……」
「……そう、だな」
二人の間にあった見えない
星空の下、こちらを見つめるコンラートの青い瞳がとても美しかった。
「……じゃあ明日から、もっとちゃんとお話ししてください」
「ああ」
「好きなものとか、嫌いなものとかも教えてください。私、何も知らないので」
「努力する」
「あと家庭教師をつけてほしいです。公爵家のこと、ちゃんと勉強したくて」
「すぐ手配しよう」
「それから庭の散歩も! できれば毎日! 花の名前はいつでもいいので……」
「……分かった」
その時、コンラートが初めて
それを見たアルマもまた、つられて顔をほころばせる。
(なんだ……この人、ちゃんと笑えるんじゃない)
君と結婚したい。
コンラートのその言葉を、アルマは胸の中で何度も
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます