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*****


 

 翌日の早朝。

 アルマがたくを終えたところで、バァンと勢いよくとびらが開かれた。


「おはようアルマ! よくねむれたかしら?」

「ク、クラウディア様、おはようございます」

「今日も朝からキュートだわ。そうそう、せっかくだから二人でデートしたらどうかと思って迎えにきたのよ。お互いのこと、全然知らないでしょう?」

「今からですか!?」


 突然の提案にまどうアルマをよそに、クラウディアは善は急げとばかりにその手をにぎりしめると、すぐさまコンラートの部屋へと向かう。

 中ではネクタイをした彼がすでに仕事を始めていたが、突然の伯母の訪問に、無言のまま大きく目を見張った。


「おはようコンラート! まあ、もう仕事をしているの? なのもいいけれど、まずはあなたの婚約者と親しくなるのが大切ではなくて?」

「クラウディア様、あの、私は別に今でなくても」

「ほら、早くコートを持って! 行くわよ!」


 執事長が薄手のがいとうわたしたのと同時に、左腕にアルマ、右腕にコンラートをかかえたクラウディアが玄関ホールへととっしんする。行ってらっしゃーいと元気に背中を押され、二人はあっという間に邸から追い出された。


(きゅ、急すぎない……?)


 恐る恐るり返るが、クラウディアが玄関扉の前でにこにことおうちしており、とても戻れるふんではない。


(まあ昨日はほとんど話せなかったし……どんな人かを知るチャンスよね)


 アルマは気を取り直すと、改めてとなりに立つコンラートを見上げる。

 こんな早朝だというのに身支度はかんぺきに整っており、どの角度から観察してもいちすきもない。すると視線に気づいたのか、コンラートがにらみ返してきた。


「……なにか?」

「えっ!? あ、いえ、綺麗なお顔だなあと思いまして」

「アルマとしてはなおな気持ちを口にしただけなのだが、コンラートはいっしゅんはなじろんだようにまゆを寄せると、ふいっとアルマに背を向けてしまった。


(な、何か気にさわるようなこと言った!?)


 気難しい公爵閣下という単語が頭をよぎり、アルマは必死にばんかいはかる。


「あ、あー、あの、良ければお庭を案内していただけませんか?」

「…………」

「すごく広いですよね。ゆっくり見てみたいなあ、なんて」


 アルマの提案に、コンラートはようやく少しだけこちらを振り返った。

 その直後、さっさと庭園の方に歩き出してしまう。


(な、なんとか言ってほしいんですけど!?)


 読めない行動にまどいながらも、アルマはすぐに彼のあとを追う。

 話題作りに、近くにあった花を適当にした。


「綺麗な薔薇ですね。なんていう名前なんですか?」

「分からない」

「そ、そうですか……」


(会話が続かん……)


 その後もアルマはあれそれと庭園の美しさをめるのだが、コンラートには何一つとしてひびいていないらしく、すたすたと足を進めていく。

 かと思えば、何もないところでじっと立ち止まっていることもあり、アルマはいよいよ彼のきょどうが理解できなくなっていた。


(まるで犬の散歩……? この場合、どっちが犬なの……?)


 おまけに足早に歩き続けたせいか、背中のあせが一気に冷え、アルマはぶるるっとぶるいする。たまらず「くしゅん」とくしゃみをしたところで、五歩先を進んでいたコンラートがくるりときびすを返し、ずんずんとアルマの前に接近してきた。


「す、すみません、あの」

「…………」


 すると彼は突然、着ていた外套をぎ始めた。

 近くで目にする彼の体は、服の上からでも分かるほどしっかりしており、アルマはついドキドキしてしまう。


(もしかして、私に―― )


 だがコンラートは外套を広げたところで、不自然にびしっとこうちょくした。


「……コ、コンラート様?」

「…………」


 彼は心なしか顔色を悪くすると、何故かそのまま外套をわきに抱えてしまう。

 面食らったアルマは、ついに「は?」と口に出してしまった。


(いったい何がしたかったのよ!?)


 こうして庭をぐるりと一周したあと、二人はやっと玄関前に戻ってきた。執事長が迎えに出て、コンラートは一人さっさと邸の中へ入っていく。

その背中を見送りながら、アルマは「ははーん」とうでを組んだ。


「なるほど、これはめんどくさいわ……」

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