第9話 マンチーニ家攻防戦④ —実力差—
「そら、そら!」
「くっ……!」
ソフィはディエゴの拳を、何とか受け流した。
いや、何とか受け流す
「どうしたどうした! 威勢が良いのは口だけか。俺の速すぎる攻撃に、手も足も出ないようだな!」
ディエゴが右、左、とリズム良く拳を繰り出してくる。
顔面や腹は隙だらけだが、防御に手いっぱいなソフィとエドアルドに反撃する余裕などないと、本気で思っているのだろう。
ここまできて、ソフィは確信した。
——この男は、弱い。
エドアルドと目を合わせた。頷きあう。
彼も、同じことを思っていたようだ。
「しょせん、貴様らは平民。たとえ二人がかりでも、貴族である俺に勝てる道理など——へぶっ⁉︎」
意気揚々と騒ぐディエゴの腹に、エドアルドの蹴りが入る。
その巨体は呆気なく吹っ飛び、地面に数度バウンドした。
「が、はっ……!」
ディエゴが血を吐く。
「まさか、反撃をくらうはずがないとでも思ってたのか? だとしたら、マジでおめでたいヤツだな」
エドアルドが鼻で笑った。
ディエゴが慌てた所作で立ち上がった。
巨体に似合わぬ素早さだ。
もちろん、固有魔術の
「ふ、ふん! たまたま当たっただけで調子に乗るな!」
ディエゴがエドアルドに向かっていく。
「しょせん、貴様らは俺の攻撃には対応できな——はっ?」
エドアルドに
隙だらけの腹を、ソフィは思い切り蹴飛ばした。
「うぐっ……!」
ディエゴが再び地面に転がる。
「あんまり俺らを舐めんじゃねえぞ」
エドアルドが、ディエゴを見下ろした。
「たしかに、速さは戦いにおいて重要なファクターだが、それがすべてじゃねえ。速いだけのヤツなんて、慣れちまえば怖くも何ともねえんだよ。お前みたいな固有魔術頼みの素人なら、なおさらだ」
「このっ……!」
ディエゴが目を怒らせる。
エドアルドは、口調こそ悪いが性格は悪くない。
こんなにも挑発しているのは、それが有効な相手だからだろう。
……それでいうと、やはり性格は悪いのかもしれない。
「ソフィ。あんた今、失礼なこと考えていただろ」
「まさか」
そして、あえてディエゴを無視してエドアルドと笑い合ってみせる自分も、相応に性悪なのだろう。
しかし、敵に目の前で談笑されているにも関わらず、ディエゴは笑みを浮かべた。
——
そうではなかった。
「そうか。貴様ら、禁術を使ったな?」
「はっ?」
素の疑問の声が漏れる。
「禁術? 何のことです?」
「ふん、誤魔化す気か」
ディエゴが勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「防戦一方で手も足も出ていなかった平民の貴様らが、貴族である俺の攻撃にいきなり対応し始めた。それを可能にするものなど、禁術しかなかろう。大方、先程APDを操作していたときに発動させていたのだろう?」
ソフィとエドアルドは、同時にため息を吐いた。
「自信満々だったので、なにか裏があるのかと思いましたが……」
「ただ弱すぎただけみてえだな。けど、仕方ねえよ。実力差がありすぎると、相手の実力を把握するのは難しいからな」
「ですね」
ソフィとエドアルドは、小さく笑い声を上げた。
「フン、卑怯者どもが——」
煽り返そうとするディエゴを、エドアルドの【
◇ ◇ ◇
「くそっ! はぁ、はぁ……」
ディエゴは、荒い息を吐いていた。
「いつになったら効果が切れるのだ、ヤツらの禁術は……!」
何度やられても、ディエゴはソフィたちが禁術を使っていることを疑わなかった。
貴族である自分が平民に負けるなど、普通ではあり得ない。
本気でそう信じ込んでいたからだ。
禁術は、一瞬の火力は凄まじいが、反動も大きい。
タイムリミットが来るまで耐えれば良い、とディエゴは思っていた。
しかし、そのタイムリミットが訪れることはない。
ソフィとエドアルドは、ただ様子見のために制御していた力を解放しただけで、禁術など使っていないのだから。
「そろそろ現実を見ろよ。今の俺らとお前の差は、ただの実力差だ」
「フン。現実を見るべきは貴様らのほうであろう。禁術を使って勝ったとて——なっ⁉︎」
ディエゴの目の前で、弾が曲がった。
「【
ディエゴは、慌てて背後から迫ってくる魔力の塊に対処した。
意識を正面の二人に戻した瞬間、顔面に衝撃を覚える。
体が壁にめり込んだ。
「がはっ……!」
地面に血だまりができる。
それが自分のものであると理解するのに、少し時間がかかった。
「さて、と。そろそろ終わりにするか」
「ええ」
エドアルドとソフィの目つきが鋭くなる。
殺されるかもしれない——。
生存本能に根付いたその恐怖は、ディエゴに最後のプライドをがなぐり捨てさせた。
相手は禁術を使っているのだから、勝てなくても仕方がないだろう。
心の中で言い訳をして、ディエゴは叫んだ。
「——ヴァレリオ!」
◇ ◇ ◇
「ヴァレリオ!」
ディエゴの突然の叫び。
ソフィとエドアルドは、サーナたちと交戦しているマンチーニ家騎士団長を見た。
彼は後方に跳び、サーナたちから距離をとった。
その指がAPDをすべる。
しかし、攻撃は来ない。
陽動——!
ソフィは慌ててディエゴに視線を戻し——、
絶句した。
いつの間にか、女性がディエゴに抱えられ、剣を首元に突き立てられていた。
「……フラ⁉︎」
「そ、ソフィ……!」
手足を縄で縛られて震えているその女性は、ソフィの幼馴染のフランチェスカだった。
目には、怯えと涙が浮かんでいる。
これは一体——⁉︎
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