スペード-判断

「僕が子供の頃、夢見ていた、

 未来のゲームはこんなはずじゃ、

 なかったんだけどな」

 博士は、モニターで、

 ゲームのプレイ動画を見ながら、

 呟いた。


「うおっ、すっげ、俺、

 銃弾を避けれんのかよ。

 マジ神、見える、見えるぞー」

「ひゅー、全員皆殺しだ、

 このゲームなら、俺は、

 なんでも出来るぜー」


「楽しそうにプレイなさっていますね」

 私は博士に声をかける。

 声をかけられたことに、

 博士は驚いたようだった。

 博士は私のことを、

 自分の命令通りに動く、

 モブの助手A、

 くらいにしか思っていないのだろう。

「このゲーム、知ってる?」

「博士の論文を元にした技術を使っている、

 とか?」

「そう、人間がさ、

 銃弾を知覚して、

 実際に体を動かして、

 回避することなんか、

 本当じゃ、できっこないんだよ。

 プレイヤーの当たり判定に、

 弾が当たると予測された時、

 プログラムによって、

 自動的に座標が書き換えられ、

 避ける、と思う、

 避けよう、と体を動かす、

 避けた、と知覚する。

 この一連の認知行動の電気信号を、

 脳に送ることによって、

 あたかも、自分の自由意志によって、

 認識し、

 行動し、

 避けた、

 と錯覚させる。

 人がゲームをプレイしているんじゃない、

 ゲームが人をプレイしているんだ。

 昔のRPGのように、

 スクリプト通りに動く村人と、

 何が違うというんだ。

 ゲームはもう、終わった。

 ゲームオーバーだ」

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