第11話

コハクサイド



トナが王宮に行ってから色んな噂を耳にした。



トナと王様は愛し合う運命のような2人だ…



その結果2人はすぐに子宝に恵まれ…



2人はとても幸せに暮らしている。



そんな噂を聞くたびに俺とトナが過ごした時間はまるで幻だったのではないかと思うほど儚く思えた。



あの時は綺麗に咲いていた紫陽花の花も今は枯れ落ちた。



それはまるで俺の心と同じように。



なのに全てを忘れることのできない俺は、最後にトナと愛し合ったこの場所に毎晩のように訪れた。



そこに行けばトナの温もりを感じられるような気がしたから。



ゆっくりと一望できる町並みを見ていると…



一角が橙色に染まり俺の心が動揺する。



確か…あそこは…王宮…



嘘だろ…



気づいた時には俺は走りだしていた。



俺なんかが行って何の意味があるのだろう…



いや、意味なんて今の俺にはいらない。



ただ、愛する人があの場で苦しんでいるかも知れない。



そう思ったら居ても立ってもいれらかったんだ。



息を切らし走っても王宮には永遠につかないのではないかと思うほど遠く感じた。



思わず俺は膝に手をつき息を切らし、顎から汗を流していると目の前から炎に照らされる人影が見えた。



それはどこか見覚えがあり俺は目を凝らしじっと見つめる。



K「…まさか…トナ…!?」



俺はまた、走りだすとはっきりとトナの顔が見え、トナも俺に気づくとトナは俺の胸に飛び込んできた。



K「トナ……」


T「…ぅう…コハク…あ…会いたかったよ…」


K「俺も会いたかった…」



トナをしっかりと抱きしめ直し、息を吸い込むと懐かしい大好きなトナの匂いが煙の臭いに紛れて香る。



K「でもどうしてここに?1人で火事から逃げてきたの?」



俺がそう問いかけるとトナはゆっくりと俺から離れ首を横に振る。



T「ううん…あの火事は…王様が私を逃すために火を付けたの。私は夢中で王宮からここまで逃げてきた…コハクを愛してるから…」



ずっと待っていた愛しい人…



ずっと待っていたその言葉に俺の涙が溢れ出す。



俺は自然と微かに膨らんだお腹に手を伸ばした。



T「信じてくれないかもしれないけど…この子は…王様の子じゃない…コハクの子だよ?王様は私を側室としてそばに置きながら手を出さなかった…私は…コハク以外の人とは…」



そこまで言いかけたトナをまた、抱きしめ俺はトナに嗚咽混じりに伝えた。



K「信じるよ…信じるに決まってるじゃないか…こんなに愛してるんだから…」



T「コハク…ありがとう…」



そうしてトナは俺の涙を指で拭うと、優しく俺の唇にそっと口付けた。



つづく

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