第3話
空が漆黒の暗闇から薄紫色に赤らみ始めた頃
一睡もできずにいた私はそんな空を見上げ、出来ることなら永遠に太陽が昇らなければいいとさえ思った。
しかし残酷にも太陽が昇り始め、私はまだ眠る静かな町を目に焼き付けておこうと母を起こさないように外へ出た。
いつもは人で溢れ騒がしい町には誰一人いなくて静まり返っている。
みんなが心地よい夢を見ている間に私は覚悟を決めて王宮に行かないといけないのだと思うと、なぜあの時、王様と出会ってしまったのだろう…と自分の運命を悔やんだ。
気付けばコハクと昨日訪れた紫陽花畑に足が向かっていて、そこに人影が見えた。
まさか…
そう思った私はその背中を見つけ走り出し…
私は声をかけた。
T「コハク…」
するとその大きな背中は震えながらゆっくりと振り返り…
コハクの目からは涙が溢れ出していて悲痛に顔を歪めていた。
思わず私はコハクをギュッと抱きしめる。
T「ごめん…ごめんね…」
愛しいコハクの匂いと心地よい温もり…
忘れたくない…
離れたくなんかない…
この関係が永遠だと思っていた私達の愛は残酷にも王様のあのひと言で終わりを迎えた。
K「ダメです…こんな事誰かに見られたら…俺だけじゃなくトナ様まで危ない立場になってしまう。」
コハクは震える声で私に敬語を使い私の腕を解く。
生まれてはじめてコハクに敬語を使われた私は出来てしまったコハクとの距離に胸が痛み震える声で言った。
T「コハク…一緒に…死のう…」
そう呟くとコハクのビー玉のような目はさらに大きくなり涙が止めどなく溢れ出す。
K「俺はあなたと夫婦になり…あなたとのお子が欲しかった…でも…あなたはもう王様のもの…それでも俺はあなたには生きて欲しい…あなたと夫婦になれなくてもあなたとの子を抱けなくても…あなたには生きて欲しい。例え俺が死んでも。」
その痛みが溢れる言葉に私の身体が震えるほど涙が溢れ出す。
T「…コハク…お願い…最後に…抱いて…」
私がそう言うとコハクは少し驚いた顔をして…
ギュッと下唇を噛むと私を自分の元に引き寄せ接吻をした。
きっとこの行為は王様にバレてしまえば終わり。
コハクも私もきっと命はないだろ…
それを知りながらもお互いに手を止める事なく素肌を感じ息を荒げ、手を動かすのはもう二度とお互いを感じる事が出来ない定めだと知っているから。
私は何度も何度もコハクの頬に触れ、コハクは涙をこぼしながら私を抱いた。
コハクの肩にもたれ掛かると私の乱れた襟ぐりを無言のままそっと直す。
太陽が高くなり人々が動き始める頃…
私達は言葉を交わすわけでもなく無言のまま唇を重ね合わせ…
私はコハク1人を紫陽花畑に置いて…
コハクの元を去った。
つづく
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