第4話

家に着くと私の姿が見えなくて心配していた母が慌てて私に駆け寄る。



「トナ!!」


T「ごめん…王宮に入ったらもう町も歩けなくなるから…自分の生まれ育った町を目に焼き付けたくて…」



私がそう言えば母は無言のまま涙を流し、私を抱きしめた。



家へ入り母が用意してくれた最後の食事を食欲もないのに無理に喉へと通していく。



すると、王宮からの遣いが私を迎えにきた。



母は少し怯えた顔をして私の手をギュッと握り全てを諦めた私は荷物を持って家の外に出る。



*「こちらへ…」



私は籠に乗せられると母は泣きながら私を見守る。



「トナ…身体に気をつけるのよ…」


T「お母様もね…」



少ない別れの言葉さえも遮るように動き出す籠の中で私は過ぎゆく町並を見つめていた。



橋を渡るともうこの町には戻れないんだろう…


何故か私はそう全てを悟った。



ふと向こう岸に掛かる橋に目をやれば、そこにはコハクの姿があり、思わず私は目を疑う。



コハクは手を振るわけでもなく何かを叫ぶわけでもなく…ただ、ボッーっと私の乗る籠を見つめていて…



私はそんなコハクから目を離す事が出来ず、静かに涙を流した。



王宮に着くとすぐに身を清めかのように、お風呂に沢山の遣いの人と共に入れられ、身体を隅々までチェックされるように洗われた。



私はお世話をされているはずなのに…なぜか気分はまるで奴隷になったかのような気持ちで、そっと心を閉ざすかように瞳を閉じた。



綺麗な部屋に通されるととても美しい衣服を身に纏わされた。



鏡に映る姿は自分なのに、まるで知らない誰かのようにも見えて…



生きてるのにまるで、死んだような気持ちだった。



「はじめましてトナ様のお付きをさせて頂くジラと申します…。」


T「よろしくお願いします…」


「トナ様どうか心穏やかにお過ごし下さい…お辛いことがあれば私におっしゃってください。私はあなた様の味方ですよ。」


T「ありがとうございます…」


私はジラを信じていいのかまだ分からず、半信半疑のまま言われた通り王様の待つ部屋へと通された。



恐る恐るついて行くと、煌びやかな装飾を施された部屋の中に異様な存在感を放つ王様が座っていた。



私がその場に座り、頭を下げると王様は言った。



「良く来たな。」



私は王様の横に案内され、少し距離を置き座るとグイッと手を握られた。



「恐るな…私はそなたの味方だ。」



そう言った王様はニヤッと笑い私は微かな恐怖感を覚えた。



王様との食事を終えた私は自分の部屋とされる場所に通されると、ジラが私の部屋前で監視する。



「私はこちらにいますので中でゆっくりとお過ごし下さい。」



私はその言葉に少し驚くと同時に、そういう場所に来てしまったんだと自分で自分を言い聞かせ窓から見える空を見上げる。



T「コハク…会いたいよ…」



空に舞う2匹の蝶達は数日前までの私たちのようにゆらゆらと楽しそうに舞っている。



もう…この想いは断ち切らないと…



私はそう自分に言い聞かせるように下唇をキュッと噛んだ。


つづく


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