第18話 奇妙な関係

ルーナ視点



「ああもう、あたしのバカバカバカ」



皆が寝静まった夜、

ルーナは1人、ベッドの上でモンモンと過ごしていた。



復興が完了し、むらのみなさんとお別れをしてから

一週間がたつ。



その一週間の間にも何度か依頼は舞い込んできており、

ルーナはエーマと一緒にこなしていた。



連携は上手くいっている。会話も必要な情報を

過不足なく交換できるくらいにはできている。

だから依頼は何の問題もなく達成ができていた。



でもしかし、ひとつだけ出来ていないことがあるのだ。



それは、ありがとうという感謝の言葉を伝える事。

ルーナはどうしてもすることができなかった。



エーマの実力については、魔獣との戦闘によってはっきりとした。

彼女はとてつもない才能の持ち主だ。

それにとてもおひとよしの性格でもある。



ルーナが負傷したときも、危険を承知で助けにきてくれて、

自分がケガをしてまで頑張ってくれたのだ。



そんな人が悪いわけなどない。

そんなことはもう誰かにいわれなくても

十分理解していた。



「わかってんだ、わかってはいるんだよ」



にも関わらず、感情というものは複雑で

面倒くさい物で、未だにエーマを認めたくないという

気持ちが心の中に残っている。



タハラさんの隣を、奪われたくなんてなかった。

ルーナがどれだけ努力しようとも手に入れられないであろう

才能をもっていることに嫉妬もした。



・・・・・・でも、それは個人的な感情であり、

エーマが何かイヤなことをしたわけではない。



意地悪なのはわたしのこころで、

彼女に非は一切ないのだ。



せめて、ありがとうけは伝えたい。

伝えなくちゃいけない。



あれだけ体をはって助けていただいた

命の恩人に、感謝を伝えないなどルーナのプライドが赦しはしない。



でも、やっぱいいたくない。



「どうすりゃいいんだよ!!もう!!」



ルーナはベッドの上で暴れながら一夜を過ごした。

もうこの一週間は同じように夜を過ごしてしまっている。

さすがに、これ以上伸ばすわけにはいかなかった。



どんどんとあの日のことは過去の出来事になっていってしまう。

だから、一刻もはやく伝える必要があった。



今日こそ言おう。そう誓いながら

いつもと同じように職場に行くと、

先にタハラさんとエーマがいた。



2人はいつも時間を合わせているのかと思えるくらい

同時にやってきている。

そして2人で対等に話している姿をみてしまうと、

どうしてもモヤモヤが心のなかに生まれてしまう。



うらやましい。



「おはようございます」



「ルーナさん。おはようございます」



「おはよう」



扉を開けると2人がこちらをむいて挨拶をかえしてくれた。

ルーナは一直線にエーマの元に向かった。



「あ、あの、エーマ」



勇気を振り絞って彼女に声をかけた。



「はい?なんですかルーナさん」



エーマは首をかしげる。

すこしびっくりしているようだった。

それもそうだ。ルーナの方から話しかけた回数はすごく少ないから。



ありがとう、といわなければ。



「あ」



「あ?」



なぜか言葉が出てこない。

あから次の言葉が喉の奥に引っ込んでしまって

取り出せないのだ。



「あああああ」



あ、という単語だけが喉から出てきてしまう。

まてまてまてまて、これだと変な人だって。



なんでこんなことに苦戦しているんだ。

あ、り、が、と、う。



たった五文字だ。5文字を声にだせば

いいだけんだ。



「どうかしましたか?」



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」



もやは声ではなかった。

どこからどうみても絶叫である。

いや、この場合はどこからどう聞いてもだろうか?




・・・そんなことは今はどうでもいい。



「やっぱ無理いいいいいいいいい」



ルーナは全力で外へと走り出した。

扉を蹴飛ばし、逃げ出してしまった。



「ええ!!」



エーマは驚き、おもわず声を上げた。



「ええ!?。えええええ!?」



状況が飲み込めずエーマはうろたえた。

当然の反応だった。



「な、なんだったのかな?」



「さ、さあ?」



残された2人は困惑した。

普段のルーナからは考えられもしない

奇妙な行動であったためだ。



結局、ルーナは言葉で伝えることを諦めて

手紙で伝える事にした。



なんども文章を校正し、不慣れなペンを使って

お礼の言葉をかいてエーマの道具入れに忍ばせた。





次の日、置いてあった手紙がなくっなっていた。

エーマから何か言われるかなとルーナは一日中そわそわしていたが

特にそんなことはなかった。



いつも通りの、最低限の会話だけだ。



帰り際、すこしショックを受けながら帰宅の準備をしていると

ルーナの道具箱に、手紙が入っていることに気がついた。



帰って読んでみると、エーマからルーナ宛てへのものだった。

手紙への感謝が綴られていた。



嬉しくなって、ルーナはまた手紙をかいて

エーマの道具箱に入れた。



こうしてエーマとルーナの間には

毎日会うにもかかわらずほとんど直接はなすことはないが、

定期的に手紙のやりとりはしているという

関係ができあがるのだった。

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わたし、もう我慢しませんから 不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ) @tadanoniwatori

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