第17話 復興

「お~い、こっち建材がたりないから、

すこし持ってきてくれ」



「は~い」



あの魔獣の戦いから、三日の月日が過ぎた。



私たちは今、村の復興のお手伝いをしている最中だ。



魔獣は倒し、村の皆さんはケガもなかったけれど

魔獣に対しての恐怖が残っていたり、村にある家屋や施設、

畑、水田などはかなり荒らされてしまった。



そのような状況を見ておいて、魔獣を倒したからもう帰りますと

いって居なくなってしまうのもイヤだよねという話になり、復興の

お手伝いをすることになったのだ。




「お、おい嬢ちゃん、そんな量ひとりでもてるのか」



「問題ないです、ふん!!」




ルーナさんは復興のお手伝いにとても積極的に関わっていた。

魔獣が討伐された後、すぐに数名が増援として来てくれて、彼女はきちんとした治療をうけた

ため、体の傷は完治している。



とはいっても、傷は治っても治癒による反動で倦怠感などがでることも多いため、

無理をしていないか心配だった。



彼女曰く、あたしのミスで村の人々を危険にさらしたから

その贖罪がしたいとの事だったが、一番体を張っていたのはルーナさんだから

罪悪感を持たなくていいのにとは思う。



まあ、自分で抱いた感情は、他人になにを言われても処理しきれない

部分もあるから、無茶をしないかぎりは尊重したほうがいいのかもしれないけど。




タハラから軽く聞いた話だと、今回の相手であった魔獣は

シルバーウルフという種族だったらしい。



本来ならシルバーウルフの戦闘力は一匹ではそこまで高くはなく、

集団で脅威になるタイプの魔獣だ。



ただたまに、群れからはぐれた個体が急激に成長し、

強い個体になることがあるらしい。



それが本来、依頼でたのまれていた母狼だったわけだ。



そしてそんなシルバーウルフの中から、

母を超えるAという存在が生まれてきてしまったのが

今回の依頼がややこしくなった原因であった。



特にAの戦闘力は異常で種族としての域を超えていたから

村に侵入されたのは、わたしが思っていたよりも

かなり深刻な状況だったみたいだ。



確かに強かったもんな、あいつ。

速いし、固いし、攻撃力高いし、頭も良かったし。



できれば、もうあんなやつとは会いたくはない。



「みなさん!! 食事ができましたよ。

少し早いけどごはんにしましょう」




簡易的につくった小屋からたくさんの握り飯がでてきた。

ここら一帯の主食はお米だ。



おのおの作業を中断して村の中央にあつまりはじめる。

わたしもお腹がちょうどすいてきたから、おじゃまするとしよう。





わたしは未だに人前で仮面を外すことはできていない。

だからご飯を食べるときはみんなとは離れて食べるようにしていた。



村のみなさんには奇妙に思われてしまうのではないかと不安だったが

事情があることを説明したら、理解をしてくれていろいろ配慮して貰っている。



とてもありがたかった。



仮面を外しておにぎりを頬張る。

すこし濃いめにお塩が振られていて

おいしかった。



「よお、おつかれさん」



「あ、タハラ。おつかれさま」



おにぎりを頬張っていると、

タハラがおにぎりを抱えてやって来た。



タハラは村の復興のお手伝いではなく

魔獣の遺体の回収や森に残っていた残党と巣の

処理を行っていた。



帰ってきたということはそれらの作業が一段落

したということなのだろう。



「隣いいか」



「いいよ、ここ空いてる」



タハラがわたしの横に座る。



「腕はもう大丈夫なの?」



「うん、もうばっちり。力仕事も

バリバリやれるよ」



わたしは左腕をタハラに見せて、力こぶをつくって見せた。

まあ、力こぶができるほど筋肉はないし、ふくで見えないんですけどね。



Aによって負傷した腕は自分で治癒魔法をかけることで

傷も残らず治ってくれた。



でもかなりダメージはあったらしく、丸一日は上手く動かせなかった。

今はもう負傷する前と同じように動かせるようになったからもう問題はない。



「それはよかった。でもよ学生時代からも思っていたが、

やっぱバケモノだよな」



「人のことバケモノとかひどくない?」



「ルーナからも聞いたが無茶しすぎだ。

にも関わらずピンピンしてる。普通なら治療か、戦闘かのどっちか

だけでもヘロヘロになっちまうんだぞ」



「魔力量だけは自慢だからね」




わたしは、任務の最初で村のみなさんの治療に魔力を使い、守るための

防御魔法を使い、Aとの戦闘のために使い、自分の治療のためにもつかっている。



でもまだ魔力が余っているのはおかしいという意味なのだろう。

昔から、量だけは自慢できるのだ。




「・・・・なあ、優等生」



タハラがさっきまでの口調とうって変わって

気まずそうに語りかけてくる。



「うん?なに?」



急にどうしたのだろうか?



「その、悪かった。いきなりこんな任務になってしまって。

ケガまでさせてしまった」



タハラからは笑顔が消えて真面目な顔になっていた。

緊張からか、両手を合わせてせわしなく指を動かしている。



今回の件について、かなり思い詰めているようだった。



「気にしてないよ。あんなやつがいるなんて誰も分からなかったんだし。

タハラが悪いわけじゃないでしょ」



「だが・・・」



「ケガくらい覚悟してるよ。それにこれはわたしの判断ミスが原因だし。

あとね、この言い方は適切ではないかもだけど、いま結構満足してるんだ」



ほんねだった。

確かに初めてのお仕事がとてもハードなものになってしまったことには

驚きはした。ケガも痛かったし、村の皆さんの悲鳴などを聞くのも辛かった。



でも、この仕事をやらない方が良かったとはいっさい思っていない。

大変だったけど、それ以上に困っている人を助けることができた喜び

のほうが大きいのだ。



「・・・・・・・・・そうか。すまん」



「ふふ、だから謝らないで大丈夫だよ」




この喜びを得られているのは、タハラが仕事を紹介してくれたおかげだ。

謝罪なんてとんでもない。こちらから感謝がしたい。

あのお屋敷にいたら、わたしはこんな感情を得ることもできなかったのだから。



「ねえ、お父さん、僕ね、こんなに大きな石をね、運べたんだよ」



「そうか、それはすごいな。力持ちさんだなぁ」



「もう、無理だけはしすぎないでよ。お父さんもですよ」



村のみなさんの会話が聞こえてきた。

家族が一緒になって食事を囲み、たのしそうに団らんをしている。



この家族の笑顔を守ることができたのだ。

それ以上の報酬など想像もできないよ。



ただそんな喜びとは裏はらに

すこし胸がチクチクした。



今、両親はどうしているだろうか。

ギルバートさんは私が逃げたことを伝えているとしたら、

たぶん必死になってわたしのことを探しているのかもしれない。



・・・・・・今、仕事をしてみて嬉しいという感情をいだいている。

でも、その感情は両親やギルバートさんたちを欺いて、傷つけて

逃走してきた結果、得られたものなのだ。



わたしは、両親の笑顔を壊したのだと思うと

なんともいえない苦しみが私の胸を襲うのだった。




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