第16話 決着
「しっかりつかまっててください」
「う、うん」
ルーナさんに背中にしがみつくように指示をした。
すでに私たちを囲もうとしていた魔獣達は焼き払った。
でも肝心なAには寸前で気づかれてしまい、避けられたようだ。
反応速度が段違いのようだ。
それに他の魔獣をつかって包囲しようとしたところをみるに
たぶん頭もいい可能性がたかい。
全員が助かるためには
ルーナさんを背負いながらかつ
村のみなさんを守りながら戦う必要がある。
Aは味方が全滅したにもかかわらず、戦いを続行する
つもりのようだった。
姿勢を低くし、いつでも行動を起こせるようにしている。
おちつけ、おちつくんだ。
とりあえず、時間はこちらの味方だ。
タハラ達が異変に気づき、戻ってくれば私たちの勝ちなのだ。
無理に勝つ必要はない。
時間を稼げばそれでいい。
魔獣は遠距離攻撃をもたない。
それにたいしてこちらには豊富な遠距離攻撃があるのだから
撃ち続けて近づけさせなければ危険はない。
「ファイヤーボルト」
詠唱を唱えるとわたしの周りにたくさんの炎の矢が出現した。
数発をAに向かって放つ。
ファイヤーボルトは威力よりも速度に秀でた魔法だ。
にも関わらずAは素早く移動し、すべてをよけてしまった。
「速い」
Aの速度は異常だった。
目に魔力を込めて動体視力を上げることで
やっと追うことができる速度。
それが縦横無尽に動きながら接近しようとしてくるのは
恐怖でしかない。
「それなら」
先ほどとは比べほどのならない量のファイヤーボルトを生成し
生成された途端に放った。
戦闘とは自分の得意の押しつけあいだ。
魔法学校の戦闘講義ではそう習った。
私の得意は遠距離魔法と膨大な魔力量。
相手は速度と近距離攻撃。
ならば、避けることしか出来ないほどの弾幕を
投射し続ける。
小細工なんてする余地がない正攻法。
攻略できるものなら攻略してみろ。
大量の魔法がAに向かって発射されていく。
「すごい」
背中でリーシャさんが言った。
Aもさすがに大量の魔法の前では回避に専念せざるおえず、
ただ逃げまわっている。
魔力にはまだまだ余裕がある。
いける、みんなを助けられる。
油断はだめだと思い、
わたしはAのほうを見つめ直した。
Aと目が合った。
するとAは意図的に目をそらすように別の方向を見た。
視線の先は村の皆さんがいる、避難場所。
防御魔法が貼ってはあるが、コイツには無力だ。
・・・・・・まさか
心臓がドクンと跳ねた。
わたしに近づけない。
ならば、別の所にいけばいいのだ。
コイツは村人を狙うつもりだ。
Aは避難所に向けて走り出した。
まずい、村の皆さん達が!!
「させるか!!」
魔法の発射位置を変え、避難所へのルートを妨害するように放つ。
いかせはしない。
複数の魔法がAの進む方向に
吸い込まれるように飛んでいく。
その状況を見てAは笑った。
ニヤリと人間が笑うように、口角をあげたのだ
Aはその身体能力を駆使し、一気に方向を変えて
全力で跳躍をした。
しまった。わたしははめられたのだ。
コイツの狙いは最初から私だ
わたしだったのだ。
Aの牙がわたしの体を切り裂こうと迫ってくる。
狙いは首だ。一撃で命を刈り取れる場所。
避けられない。
反射的に左手で首を守った。
左手に何十もの魔力防御を張る。
Aの牙がわたしの左腕を襲った。
「あああああああああああああ」
たくさん施した魔力防御がいとも簡単に破られいき
牙が肉を裂き、骨を砕いた。
パキパキと音を立てながら左腕がきしむ。
痛い、痛い、痛い。
振り払おうと残った左手でAの首元を押すがびくともしなかった。
興奮したAの生暖かい息が体にかかる。
グルルルといううなり声が恐怖を煽った。
「エーマ!!」
ルーナさんの悲鳴なような呼びかけが聞こえたが
答えている余裕なんてない。
「離れろ!!」
右手に魔力を込めて、
再びAの首にたたきつけた。
そして超至近距離で魔法を放つ。
グアアア
Aの首元が爆発してAは思わず口を離した。
間髪入れず追撃として残ったファイヤーボルトをAにたたき込む。
魔法が爆発して地面をえぐる。
砂埃がまい、お互いの視界を奪った。
砂埃がはれてくると、
Aの姿が見えた。
首元に大きな傷をつくり、
体中が焼け焦げている。
あれだけの魔法をたたき込んだにもかかわらず
まだ動けるようだった。
それに対し、わたしの左手はだらんと垂れ下がっている。
感覚はなくなっている。痛みも熱へと変わり、いまはただ熱かった。
「は、は、は、は」
呼吸が途切れ途切れになってしまう。
左腕の回復に回している余裕なんてない。
次でAは確実に仕留めに来る
Aは姿勢を低くして、再び襲う体制をとった。
わたしも対抗して魔法を詠唱したくさんの
火の槍を用意する。
一瞬静寂がおとずれた。
勝負は一瞬。
すべての集中力をお互いが前方の敵に向けた。
そう、すべての集中力を前方に。
だからAは反応が遅れた。
瞬間、Aの体制が崩れた。
なにが起こったのか分からなかった。
Aの懐に誰かがいる。
そして何かが宙を舞っている。
よく見てみると、それはAの右前足だった。
「てめえ、よくもやってくれたな」
「タハラ!!」
「タハラさん!!」
タハラが間に合ってくれたのだ。
Aは予想外の襲撃にもかかわらず、瞬時に判断を下し
タハラを殺そうと噛みついた。
右前足を失ったあのできる最大の攻撃だ。
だがAの口はAの思うようにタハラを切り裂くことができなかった。
下顎がダランとさがり、上顎のみがタハラの肩の上に乗った。
タハラが口の筋肉を切り裂いたのだ。
そのせいでAはもう、自慢の噛みつきをもうできない。
「近づかれた時点で、てめえの負けだよ」
タハラはそのまま両手の剣でAを切り裂いた。
Aの血が斬られた勢いで噴水のように空へと噴射される。
そして雨になって大地に降り注いだ。
「・・・・・・みんな、無事?」
血の雨で体を濡らしながら、タハラは質問する。
どこからどうみても殺人鬼だ。
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