第15話 魔獣の決意

タハラ・レイン視点


「やけに弱くなかったか」



「それに一匹でもなかったね」



タハラとレイン達のチームはすでに魔獣の討伐を

完了させていた。



村を襲撃した魔獣と、それと同系統で小柄な個体が

7匹絶命して地面に転がっている。



この魔獣はシルバーウルフという種族であり

戦闘力に関してはかなり高いタイプだ。



特に成長した成体ともなればもう少し苦戦すると

思っていたのだが、予想以上に動きが鈍く

簡単に倒せてしまった。



「・・・・・・このちっこい奴らは、子分かな」



「わからん。でもそれにしては」



タハラはまさかなと思いながら、倒したシルバーウルフの

遺体を調べ始めた。


足で遺体をひっくり返すと、シルバーウルフに棒はついていない。

コイツはメスであるみたいだ。



さらによく見てみると、このシルバーウルフの生殖器

付近の毛には血が付着していた。


血は生殖器の内部からでたようだった。

すでに固まっているため、今の戦闘でついた物ではない。



メスで、生殖器内部からの出血。

こいつ、出産したのか!!



タハラは理解した。

周りにいたちっこい奴らはガキであり、

俺たちが村に到着した時点で数を増やしていたのだ。



「レイン、急いで村に戻るぞ」



「え、なに?」



「説明はあと!!けっこうヤバいかもしれん」



シルバーウルフは

繁殖をあまりしないかわりに一度に産む数が多い。

だいたい20匹前後だ。



そして子どもは生まれてすぐに独立して動けてしまう。

ここには7匹しかいなかった。

となると残りは



タハラは全身に力を込めて大地を蹴った。

たのむ、まにあってくれよと心に唱えながら。






エマ視点。


「ルーナさん!! ルーナさん!!」



吹き飛ばされてしまった彼女の元に行き、体を揺すった。

ルーナさんは意識がないく、血を吐いていた。



外傷はそこまでひどくはなさそうだが、

内臓がやられているのかもしれない。



村の人達を守る防御魔法はわたしが居なくても

しばらくの間は機能してくれる。



能力的には小さな魔獣たちでは破ることはできない。

でも、問題はルーナさんをやった巨大なやつだ。



そいつは、こちらを警戒するように見つめている。

低いうなり声を上げながら威嚇しているのだ。



ルーナさんを回復する時間が確保できるから都合がいい。

あとあの魔獣はAと呼ぼう。



「う、うう」



回復魔法を当てるとルーナさんは意識を取り戻してくれた。

ただ自力で動けるような状態ではなさそうだった。



「動かないでください、まだ傷が」



「あたしのことはいいから、村の人を」



確かに、こんな状況では動けないルーナさんを守るというのは

さらに不利になる行為なのだろう。



でも、でもだ。

見捨てたくなんてない。

最後まで諦めたくない。



それが良くない選択であったとしても

わたしはその選択を選びたかった。



ルーナさんを背中に背負う。

そして魔力を込めて魔法の詠唱を始める。



「戦闘は久しぶりです」



やることは2つだ。

Aの注意をわたしに引きつけながら、

ルーナさんを防御魔法の内側に入れる。



いけるか?

やるしかない。



みんなが助かるにはやるしかないのだ。







魔獣視点


魔獣には共食いという行為がある。



魔獣が魔獣を喰らうことで、その血肉や魔力を

吸収し、より強力な個体へと成長を遂げる。



それが共食いだ。



Aと呼称された個体も、共食いをおこなった存在だった。

一番最初に、母の胎内から外界へと旅だち、

次に出てきた兄弟姉妹を数匹殺して喰らった。



体はみるみると大きくなり、

身体能力は大幅に強化された。



シルバーウルフは、一番強い個体が、群れの長になるという

習性がある。正真正銘、出産で弱体化した母すら越え

彼が現在の長だった。



Aは共食いにより知能も強化されていた。

その知能で作戦をたてて、人間を罠にはめたのだ。



母を囮にして戦力を分断し、共に生まれた兄弟姉妹を

おとりにして敵の隙を突くという作戦。



作戦は上手くいき、状況はシルバーウルフ側に傾いていた。



この作戦のせいで群れの数は半分になってしまった。

だがその犠牲を払うだけの価値はあった。



より強力な魔獣を喰らうための前座として、

ここに住む人間達を喰えるからだ。



状態が万全であれば、一回り強力な個体であっても

いくらでも隙をついて食い殺すこともできる。



それに群れの長が強くなれば、群れはさらに発展できる。

いくらでも替えがきく存在は死んでも問題はないのだ。



ほんとうは、追加の戦力が来る前に村を襲えるのが一番だった。

たがAほどの知能を持たぬ母にはそのような判断は不可能であり、

それに出産やら、共食いやらで時間もかかってしまったため、このような状況にならざるおえなかったという

事情もあった。



だが、まあいい。

終わりがよければ良いのだ。



分断した片方が帰ってくる前に食事を済ましてしまおう。



そう思い、Aはさっき吹き飛ばした

人間の元に向かった。



すでに吹き飛ばした人間の元には

別の人間が駆けつけていた。



その姿を見たい瞬間に、Aの本能は前進に

警告を発した。



逃げろと、



あきらかに異質な気配を感じていた。

コイツは危険だ。

逃げた方がいい。



だがそうはいかなかった。



群れを犠牲にした以上、獲物を一匹も取れなければ大損害だ。

だから戦う以外の選択肢はなかった。



人間に向かってAは吠えた。

だが人間はびくともしない。

ジッとこちらを見つめていた。



いいぞ。

こちらを見ている間に兄弟達で周りを囲んで

逃げ道をなくしてしまえ。



そして一斉に襲いかかれば、ひとたまりもなかろう。



だが戦場とは想定道理に進まないものだ。

一瞬、暗闇が照らされたと思うと、

人間を中心に円を描くように炎が表れる。



これはまずいと、Aは反射的に後ろに跳躍した。

反応が遅れた兄弟達が炎に次々とのみこまれていき、

苦しみの絶叫が空に響いた。



ははは、ははははは



Aは内心笑っていた。

とても笑えるような状況ではないはずなのだが、

とても興奮し、体は力に満ちあふれていた。



より強力なやつを喰らえば、

それだけつよくなることができる。



目の前のコイツはとんでも強者だ。

喰らえば、さらなる強みが目指せる。



自分よりも何倍も大きい獲物を狩るのが

シルバーウルフの狩りなのだ。



体こそ小さいが、目の前の人間は大きな獲物だ。

Aはこの人間を殺し、喰らうことを決めたのだった。






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