第10話 お買い物
「タハラちゃん、言われたもの届けに来たわよ」
「ありがとうおばちゃん」
お昼頃、タハラの家に来客があった。
事前にタハラが来るからと伝えてくれていたため驚きはしなかったが、
内心はとても不安だ。
おそろくだけどギルバートさん達はわたしの事をいま
必死に探しているわけで。
もし顔を見られて、タハラの家にこんな子がいたわよ
などと話されてしまえば、見つかるのが早まるのではないのか。
今は誰であったも疑いの目で見てしまうのだ。
「好きなの、選んでね。
この家にあるやつだけじゃ足りないものも多いでしょ」
「安心しろ、優等生。この人は俺が頼んで必要なものをここまで売りにきてくれただけだ。
口も堅いから聞かれても何も言わんよ。それに外に出て買いに行くよりも安全だぜ」
タハラは不安そうにしているわたしを
安心させるように言った。
たしかに、言われてみればそうだ。
生活にはいろいろとものがいる。
でもタハラに女性用のものを買ってきて貰うのはさすがに厳しいだろう。
かといって自分が外に出て買ってくるなんて余計不可能なわけで。
一番いいのが信頼できる人に家まで売りに来て貰うということか。
朝からお昼までの間にタハラが誰かと話している様子はなかった。
昨日わたしがベッドに入っている間に、必要になるからと手配してくれていたのだろうか。
ほんとうに、タハラは頭がまわる。
すごくありがたい。
「わかった、じゃあいろいろと」
品揃えは移動販売だから店舗並みではないが
ほしいと思っていたものは軒並み揃っていた。
服やら道具やらその他もろもろを
選ばせて貰った。
わたしが物を選んでる間、
タハラとおばさんと言われた人は話をしていた。
しばらくは普通に話していたのだが、途中急におばさんが
タハラの背中をバンバンと叩いたりして驚いたが
二人の表情をみるに、ケンカではないらしかった。
「その、ありがとうございました」
「いいのいいの、お礼ならその隣の坊やにいいな。
じゃあタハラ、頑張るんだよ」
「坊やって・・・。あとだから違うって。うん、じゃあまた」
そう言い残すとおばさんは帰っていった。
「タハラ、ほんとうに助かったよ」
「いいよ、さすがに服装もひどすぎだし。
選んだんだろ。早く着替えてこい」
「うん。あとなの話をしていたの?」
「それは、な、内緒だ。優等生には関係ない」
「え~なに、なに。気になる」
「うるさい、少なくともお前を不利にする話じゃないから安心しろ」
タハラはそう言うとサッサと着替えろと手をシッシッとやってくる。
「は~い」
これ以上質問しても答えてくれそうになかったので、
追求は辞めて指示に従った。
売りに来てくれたおばさんのおかげで生活面での不安はおおきく減ってくれた。
ひとつ大きな問題をのぞいては。
残っている問題、それはお金だ。
昨日から全部タハラに負担して貰ってばかりだった。
この生活用品もタハラ持ちになっているし、部屋や食事の分の負担も払えていない。
かといってわたしのお金は両親やギルバートさんが管理しているせいで
今すぐに払うことができなかった。
なにか仕事でも引き受けて、お金を手に入れたい。
それでせめてお礼の分は無理でもわたしの負担分くらいは
自分で稼ぎたかった。
何かできる仕事はなにだろうか?
タハラに相談してみよう。
「ねえ、タハラ」
「うん?どうした」
「なにか人手が足りていない仕事とか知らない?
いつまでもここでダラダラしていたくはないの」
「仕事か、う~ん」
タハラが頭をひねった。
「顔は見られない方がいいんだろ?
そうなると室内で出来る仕事か、顔を隠して
いてもできるやつに限定されるな」
「仕事の内容は何でも大丈夫なんだけどね」
魔法の得意不得意はないから、どんな仕事で
あってもこなせる自身はあった。
でも、タハラのいうとおり、できる仕事は限定されてしまうから
どういしたものか。
二人でう~んとしばらく悩んでいると
タハラが
「もうめんどくせえから俺の職場に来るか?
優等生の実力なら能力的には問題ないし。
訳ありの奴多いから仮面かぶってても、まあなんとかなるだろ」
意外な提案だった。
そういえばタハラがどんな仕事をしているのかわたしはまったく知らない。
でも条件が合うならばこの際なんでもよかった。
「いいのじゃあ、お願い」
両手を合わせてタハラに頼み込む。
「確認を取るからすこしまて。
人手不足だから通るだろうけど」
この後タハラが職場に確認を取ると
明日面接に来てほしいという返事が返ってきた。
面接の結果にもよるけどなんとか希望は見え始めたようだった。
小話
タハラとおばちゃんの会話内容
「いいかい、タハラちゃん。事情は詳しく聞かないけど
タハラちゃんを頼りにしてきた女の子を手荒にしちゃあだめだよ」
「いわれなくても分かってるよ」
「そうかい?それならいいけど。
頼られて嬉しいからって調子に乗りすぎないようにね。
へまこいて恥ずかしい姿を彼女にみせちまうからさ」
「いちいちうるさいよ」
タハラは気まずそうに
顔を横に向けた。
「なんだい、図星かい。
ほうんとうに坊やはわかりやすいねえ」
おばちゃんはからかうように
タハラの背中をバンバンと叩いた。
「クソばばあめ」
「ははは、なにをいまさら」
タハラはお返しかと言うように暴言を吐いた。
そしておばあちゃんの笑い声が部屋に響く。
おばあちゃんは知っているのだ。
タハラが短い暴言を吐いているときは
余裕がない証拠であり、まともな反論を思いつけなかったときの
ささやかな抵抗であるということを。
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