第8話 逃走先で
タハラ視点
深夜、タハラはコンコンという何かが叩かれる音で目を覚ました。
(ひと?んなわけねえか)
外はいま豪雨である。風もつよいためとてもではないが
こんな状況で訪れてくる奴がいるとは思えない。
たぶん風でとばされた何かがぶつかったのだろうと勝手に納得し
寝直そうとした。
たが、また何かがトントンと叩かれる音がした。
今度は前よりも少し強くだ。
音がするのは玄関の扉の方からだった。
明らかに人為的な音だ。
誰かが玄関前に来ているのだ
「マジかよ。誰だよこんな状況で」
来客の予定などありはしなかった。
あったとしてもこんな夜遅くに、しかも荒れた天気の時に
会うことなどしない。
誰だ、とタハラは玄関の前にいるであろう人物を警戒した。
こんな状況で来ているということは緊急の用事である可能性が高い。
だが仕事関連の緊急なら家に訪れるよりも前に連絡が入るはずだ。
と、なれば仕事仲間じゃない。
タハラはヤバい奴でないでくれよ、と心に唱えながら玄関の扉を開けた。
「あ、えっと、その、ひ、ひさしぶり」
「はあ!! 優等生!!!」
タハラは驚きの声を上げた。
玄関の先には、一人の女子がいたのだ。
この豪雨の中を進んできたのか着ている服はタップリと水分を含み
体はカタカタと震えている。
異常な光景だ。一瞬脳みそが理解を拒む。
だが彼女をいまのままほおっておいたら不味いと思い
再び頭を動かし始めた。
「おいおい、びしょ濡れじゃねえか。まず風呂入れ、風邪引くぞ」
「・・・・・・・ごめん。おじゃまします」
「いいから、はやくはいってこい」
タハラはそのままエマをお風呂場まで案内した。
(あれは寝間着か?とりあえず普段着じゃなさそうだし。
足も裸足じぁねえかよ。)
家の中にポタポタと水滴を垂らしながら案内されたお風呂場へ向かうエマをみて
タハラはそう心のなかでとなえた。
なにかあったことは明白だった。
声のトーンも魔法学校時代の記憶よりも低い。
これは予想外の一日になりそうだと
タハラは心配そうにエマを見つめるのだった。
エマ視点
蛇口をひねると暖かいシャワーが出てきた。
寒い外を長時間移動してきたせいで芯から冷えた体を
暖めてくれる。
「・・・・・・はあ、生き返る」
なんとか無事にたどり着くことが出来てホッとしてきた。
最初はタハラの家の玄関の扉を叩いても何の反応もなかったので
お終いだと絶望したものだ。
もう一度今度は少し強めに叩いたら、すぐ電気がついて出てきてくれたから助かったものの
これでタハラが居なかった場合ほんとうに危なかったと思う。
他の所にいくにしても体が持たなかっただろう。
予測があたってくれた。よかった。
「おい、優等生。着替え置いとくぞ。ちなみに女用なんてないから
俺のだけど文句言うなよ」
「うん、ありがと」
優等生とはわたしの魔法学校時代のあだ名だ。あだ名といっても使っているのはタハラくらいだけど。
加えて、ほんとうに出会ってすぐに付けられたものを今現在まで使われているのだ。
学生時代はすこしムズムズしたけど、今も彼の対応が変わっていなくて安心した。
あだ名のはなしからも分かるとうりタハラは魔法学校時代の同級生だ。
6歳から入って18歳で卒業するまで、なんだかんだ勉強したりいがみ合ったりしたから
12年ものつきあいになる。
腐れ縁に近い関係だ。
そしてほんねで話し合える存在でもある。
タハラの家は山奥にあり、かれはそこに一人で暮らしていた。
ここから離れるつもりはないと行っていたから、絶対にいてくれるという確信があったのだ。
屋敷からもかなり距離が離れているし、人もあまり住んでいないから雨の中を移動しているところ
も見られにくい。
彼なら入れてくれるという信頼もあった。
まあ、一番の理由がそれなのだか。
十分からだが暖まったのでシャワーを止めて、お風呂を出た。
タハラが用意してくれていたバスタオルで体をふいて、服を着た。
彼のいったとおり、男用の服なのでわたしにはぶかぶかだった。
上の服は袖から手がでないし、ズボンも手で持っていないと勝手に脱げてしまう。
身長差があるからしかたない。服をかしてもらえるだけで十分だった。
ズボンが落ちないように注意しながら彼がいるリビングまで
よいしょよいしょと向かう。
「ありがとう、たすかった」
「そりゃよかった・・・。さすがにでかいか」
「ううん、貸してもらえて十分」
「そうか。優等生、お湯とコーヒーどっちがいい」
「う~ん、コーヒーで」
「OK。できるまで少しかかる。座って待ってな」
タハラに促されるとおりにリビングの真ん中に置いてあるテーブルの前に座った。
椅子ではなく座るようのカーペットが置いてあるタイプだった。
ぼ~と部屋を見回す。
綺麗に整理された部屋だった。
家自体も新しいというわけではないが、手入れや補修がきちんとされており
古くささは感じない。とても温かみのある家だった。
「寒くないか?一応温度は上げたけど、遠慮なくいえ」
タハラが二つカップをもって来て、ひとつをわたしの前に置いてくれた。
カップの中にはコーヒーが入っていていい匂いが部屋の中に充満する。
「タハラ、急にごめん」
「いいさ。びっくりしたが、迷惑じゃないし」
コーヒーを一口飲む。
コーヒーなどあまりのんだことがなかったが、
とてもおいしかった。
「使ってない部屋があるから、寝るときはそこを使え。
あと欲しいものがあったら遠慮なく言えよ」
「ありがと」
さっきからわたし、ありがとうと、ごめんしか言っていない気がする。
タハラにしてもらっているばかりだから当然だけど自分の語彙力の
なさがイヤになる。
・・・少し眠くなってきた。
コーヒーにはカフェインが含まれているからのんだら
眠れなくなるはずのに。
それだけ疲れていたのかも知れない。
「眠そうだな。今日はもう寝とけ」
「うん、そうする」
「あと、お前が来たことは誰がきても言わないでいてやる。
みんな追い払ってやるよ。だから安心して寝な」
タハラがにやりと笑いながら言ってくれた。
たぶんタハラはわたしに何かあったということに気づいている。
気づいた上でこの言葉をかけてくれているのだ。
感謝してもしきれないくらいだった。
「・・・・・・おやすみ」
「へい、おやすみ」
安心したせいが今まで感じていなかった疲労がズンと
体にのしかかってくる。体が重い。そして頭も霧がかかったみたいだ。
ベッドに入るとすぐに眠気がやってきた。
屋敷よりも少し硬めだけど、こっとのほうがわたしは好きだった。
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