第2話 貴族にとって
貴族にとって婚姻はとても重要な儀式だ。
貴族の地位を決めるのは、その貴族が保有する魔力量である。
そして魔力量は生まれつき決まってしまっているため、必然的に
誰と結婚し、どのような子どもを産むのかということを考えなくてはいけない。
魔力量が多い人同士が結婚すれば、
その子どもも魔力量が多くなる可能性が高い。
だから貴族は可能な限り魔力の多い婚姻相手を探すし、逆にいってしまえば魔力量がすくなければ
それ相応の相手しかみつけれことができず、その家自体の存亡に直結してしまう。
「エマ、おまえはわたしたちの希望なのだ」
「そうよ、うちにきてくれて本当にありがとね」
両親と手をつなぎながら、のんびりと外を歩いた記憶がよみがえる。
幼少期、両親はよくこんなふうにわたしに言ってくれていた。
両親は、貴族の中では魔力量が少ない方であり、非常に苦労をしたのだ。
だから、二人とは比較にならないほど膨大な魔力がわたしにあると気づいたときは
とても喜んだらしい。
わたしはその話をきいて、とても嬉しかったことを覚えている。
両親のことが大好きだった。
だからわたしはわたしの大好きな人達を笑顔にさせてあげられる存在なのだと
自覚できたことが、このうえなく幸福だったのだ。
あくまで、両親の目に入っているのが、わたしのもつ魔力量であり
わたし自身ではないということにも気がつかずに。
そんな両親だから、よくわたしの代わりに話してくれることが多かった。
誰かに何か、わたしが聞かれたら
わたしのかわりに両親が答えを言った。
「あらぁ?エマちゃん、おおきくなったねぇ」
「ええ、もう今年から学校にいく年齢よ」
「まあ、そうなの。ちなみにどこに通うことになっているの?」
「それは当然、魔法学校よ。この子は将来、宮廷魔道師になるつもりだから」
母と親戚との会話を聞いて
はじめて、わたしの将来が宮廷魔道師であるのだということを知った。
自分が将来なにになりたいのか、などということは考えたこともなかった。
とくにこれになりたいという強く思うものもなかったから、
お母さんがわたしの将来を決めてしまっても、不満があるわけではない。
不満どころか、宮廷魔道師を目指せば、お母さんを喜ばせてあげることができると
知ることができた。
目標がしっかりと決まっていれば、何をどのくらい頑張ればいいのかが
はっきりもするから、ありがたい。
そんな思考回路をえて、わたしの夢は宮廷魔道師になっていた。
まだわたしが小さな頃はそれで問題はなかった。
わたし自身が、お母さんとお父さんの喜ぶ姿がみたいと思って、
その欲求にしたがって二人の言うことを聞くという選択をしていたから。
でも、少しずつ成長していくにつれて、
そんな生活が上手く回っていかなくなっていく。
自我が芽生えてきたからだ。
魔法学校でわたしは多くのことを学んだ。
わたしとは全くちがう環境、価値観で生きてきた
人達とも一緒にすごした。
そんな生活をしていくことで、ちょっとずつ自分が何者なのか、
自分が他人と比べてどうなのかが分かってくる。
そうすると
お母さんを喜ばせたいという理由で目指していた宮廷魔道師が、
だんだんと自分の能力を生かすためにや、困っているひとをたくさん助けたいからなどといった
自分のためにと変わっていった。
だからイヤだった。
母や父が、わたしに代わって話をしてしまうことに。
「エマちゃん、また表彰されてましたね。
ほんとうに、優秀で。うちの子にもみならってほしいわぁ」
「いえいえ、それほどでも。
まだまだ足りないって頑張ってますよ」
「そうなの!! すごいわねぇ」
わたしが思ってもいないことを、お母さんはあたかもわたしが思っているかのような口ぶりで
誰かに言う。
そしてそんな話を信じた誰かは、わたしをそう言う目で見てくるのだ。
多くの人が、知らないわたしをわたしに押しつけてくる。
すごく迷惑だった。
勝手に作り上げられたイメージと矛盾しないように
わたしはイメージにあった行動をしなくてはいけないから。
でもそれと同時に
両親の言葉を否定したくないという感情も大きかった。
確かに、両親の言葉に違和感を覚えてはいる。
でもその違和感を飲み込むことが子どもの役割だとかんがえていた。
大人は大変なのだ。
魔法学校に通うために両親は多額のお金をだしてくれている。
今、お金で困ることがないのは両親が頑張ってお金を稼いでいてくれるからだ。
学生であるわたしは、まだお金を稼ぐごとができない。
だから、そのかわりに学業や親に喜んで貰うことに労力を費やすことが
子どものお仕事なのだ。
両親を困らせたり、不機嫌にすることは、このお仕事を放棄することだから
それはいけないことだと思い必死に耐えた。
ギルバートさんとの顔合わせもいつもと同じようにわたしが話す機会はほとんどなかった。
ギルバートさんとは最初にかわした
はじめましてと、よろしくおねがいします
だけが唯一のキャッチボールだ。
それ以外は基本的に親同士の会話であって、
たまあにくる両親の、「そうだな」という確認的な言葉を
機械的に返す作業だった。
わたしとギルバートさんはただ黙って
両親の会話に耳を向けていたり、
お互いの顔を見つめていたりしただけだった。
ギルバートさんの顔を見つめる。
彼も緊張しているのか、ジッと真顔でこちらを見つめていた。
向こうから見たら同じようにわたしは見えているのかもしれない。
彼もわたしと同じように思っているのだろうか?
同じ悩みを持っているのかもしれない。
そう思うと少しだけ、彼に親しみがわいてきた。
それが彼の第一印象だった。
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