わたし、もう我慢しませんから

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

第1話 はじまり

「君は、僕のいうことを聞いていればいいんだよ」



多くの装飾で彩られた部屋で、ギルバートさんはわたしにゆっくりと言い放った。



とても優しい声ではあった。

そしてきっとギルバートさんからしてみれば相手のことを思いやった言葉でもあったのだろう。



「・・・・・・・・・はい」



だがわたしはそんな言葉を好きになることはできていない。

たくさん思うことはあった。言いたいこともあった。

喉まで出かかった言葉を飲み干して、なんとか返事をする。



わたしが我慢すればいい。

そうすれば、すべてまるく収まるのだから。



この家は、この家族は地獄だ。

それが、わたしの出した結論。



真綿でゆっくりと首を絞められるように

わたしの首に巻き付いた何かを、ゆっくりとこの家と家族は絞めていく。



まだ、ひと思いに殺すくらいの勢いで締めてくれたのならば、どれほどよかったことか。

意味のない妄想だと理解していても、何度もおなじことを考えずにはいられなかった。






初めてギルバートさんと出会った時のことは、今でも

鮮明に思い出すことが出来る。



魔法学校の卒業までもう少しという時期に

急に両親が言い出したのがギルバートさんとの関係のはじまりだった。



「エマ、おまえはアヴェーヌ家の嫁にいくことになった」



「え?、何の話?」



「アヴェーヌ家から直々に申し出があったんだ。

次男のギルバート殿とだ。家柄も魔力量も申し分ない。

だから受けることにした」



話が飲み込めず混乱するわたし。

だが父は気にもとめてくれなかった。



「な、なにいってるの。わたしは宮廷魔道師に」



「あのね、エマ。これはあなたのためなのよ。

そんな職につくよりも、とてもすばらしいことなの」



母がたしなめるようにわたしに言う。



「で、でも」



「エマ、宮廷魔道師なんてものはいつでもなれる。

だが婚姻は違う。年をとったり、状況が変われば

これ以上、良い条件のものはこなくなる」



「そうよ、だから、お願い。いい子だから、あんまり困らせないでよ」



こんな理不尽なことがあるだろうか。

結論が決まっている話し合い。



すでに私が婚姻をすることは確定しているようだった。

はじめからわたしの意見を聞くきなどはないみたいだ。



「・・・・・わかった。わかったよ」



「よし、いい子だ」



こうしてわたしは両親の要求をのむことになった。



抵抗しようと思えばすることもできたのかもしれない。



でも今回の提案を断っても、これから何回も同じような提案が

くりかえしわたしのもとにやってくるはずだ。



そのたびに圧力をかけられる姿を想像するととても息苦しかった。

それに断って両親を困らせたくはないという気持ちにも負けてしまった。



私が我慢すれば、二人を困らせなくてすむのだから。

そう心に言い聞かせて、自分を納得させる。



それに、父の言う婚姻の時期の話に反論できなかったという理由もある。

わたしの宮廷魔道師になりたいという夢は魔法学校を卒業していれば

いつでも叶えることができるのだ。



ならば期限が決まっている、両親の提案を受け入れた方が

よいのではないかとおもってしまった。



それからはトントン拍子で事は進んでいった。



すぐにギルバートさんと会うことが決まり

動きづらくて重い正装を着せられて、

顔や髪にはたくさん何かを塗られ

部屋で待たされた。



はじめての経験で体がカタカタと震えてしまう



ちゃんとしゃべれるだろうか。

不安でいっぱいだった。



音がして、部屋の扉が開く。

青年が入ってきた。



「は、はじめまして。エマと言います」



「ギルバートです。よろしくおねがいします」



これが初めての出会いだった。


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