第一〇話 とりあえずのエピローグ
第三六目 のんびりした朝?
翌朝。目覚めるとちょうど日の出だった。どうやらいつもの体調に戻れたようだ。
なお新たな服の着替えが出現していた。前にあったものと全く同じ色と形のものだ。
トレーニングの後、風呂に入るとともに今まで着ていた服を洗濯して、新たな服を着る。
ビスケットを数枚食べ、少しゆっくりしていると八時近くなったので、部屋の外へ。
ほぼ同時にサイヤンもエイラも部屋から出てきた。昨日と同じだ。
「さて、それじゃ食事を兼ねて説明としようか」
昨日も使った部屋へ。
「今日の朝食はこんな感じですけれど、宜しいでしょうか」
焼いた塩漬け肉、野菜スープ、大麦サラダ、パン。微妙に主食がダブっている気がするが悪くない朝食だ。
ただ何処か既視感があったりもするのだけれど気のせいだろうか。
「十分だ。ありがとう。これ全部作ったのか?」
エイラは頷く。
「ええ。作り方は概ね理解しました。基本は野菜の場合、柔らかくなるまで熱を加える。肉は中の脂が出てくる程度まで。味付けは基本的に少なめの塩。
パンもこのタイプならほぼ問題無く焼けるよう、捏ねる作業と気泡を入れる作業、焼く作業全てあわせて魔法化しました。今後は小麦粉と塩、バターがあれば呪文一つで作れます」
「エイラって流石だよな」
思わず俺の口から出てしまった言葉にサイヤンは頷いた。
「ああ。普通はそんなことに魔法創造なんて使わない。というかそもそも魔法創造なんて使えないな、常人は」
その通りだ。魔法創造、新しい魔法を作る魔法は難解でかつ必要魔力が大き過ぎる。使える人間はほとんどいない。学園の魔法専科の教授でもダニエル主任教授以外は使えなかった筈だ。
「大した事はありません。天授のおかげですから。私の天授『魔操』は魔力と魔法を操る能力。体内の魔力が無くても周辺の魔力を集めれば問題ありませんし、効果をイメージ出来ればどのような事であっても魔法として起動可能ですから」
えっ! つまり、それは……
三秒くらいの沈黙の後。
「つまりエイラの天授を使えば、自分の魔力に関係なく魔法を使える。しかもどんな魔法でも効果さえイメージ出来れば起動可能。そういう事でいいのか」
「ええ、その通りです」
「何でもありじゃないかそれって!」
確かにサイヤンが言う通りだ。何というか……
「そうでもありません。例えば完全な魔法禁止領域では操作できる魔力がありませんので何も出来なくなります。
どんな場所でも起動可能で英雄級の自爆魔法でも耐えるアラダの『蓄力』。
魔法禁止領域でも古代魔法を起動可能で古代遺跡をほぼ自由に扱えるサイヤンの『瞭然』。
こちらの方が、ある意味よっぽど何でもありではないでしょうか」
うーん。言い返そうと思えば言い返せる。例えば俺の『蓄力』は通常の魔法が一切使えなくなる。それに無敵という訳でなく、例えば『破断』のような剣技の天授持ち相手とは相性が悪い。
ただその辺はお互い言い分があるだろう。こういう事はだいたい相手の方がよく見えるのだ。
なんて思ったところでサイヤンがため息をついた。
「なるほどな。これが貴重な存在という事か」
何だ、そう言おうとして俺は気付く。
「神の台詞か」
「ああ」
サイヤンは頷いた。
「確かに戦力的には貴重だろうさ。こっちの能力を知っていて対策的な部隊を当てない限り大抵の英雄級に勝てるし、勝てなくても逃げることは出来る。
おまけにどの国の影響下にもなくて、その気になればその中の一人は直接操作可能。神にとってはこれほど使いやすい駒はないだろう、きっと」
「それで待遇が良くなるなら、それはそれでいいのでは?」
エイラの言葉にサイヤンはうえっという表情になる。
「そりゃそうかもしれないけれどさ。操られる方にしてみればたまったもんじゃない。いつやられるかとびくびくものだ。
さて、それはそれとして、朝食をいただこう。神から受け取った情報は食べながら話すからさ」
サイヤンはそう言ってパンを手に取りバターをたっぷり塗りつける。
俺もとりあえず大麦サラダをいただく。悪くない。何処か既視感ある味だけれど。
「旨いな、これ」
「良かったです。実は別棟一日目にアラダが作ったメニューにパンを加えただけですけれど」
あっ、確かに。言われてみればそうだった気がする。
「一回出しただけで作り方まで理解したのか」
「それ以降に教わった料理の作り方と、あの時に入っていた材料から推理して作りました。実は一人で暇な時、収納している食材を使ってパン作りの魔法を構築したり料理を作ったりしていましたから。
他にここで食べた料理や学校の食堂等に出ていた料理も再現の研究をしています。ただまだ満足できる出来のものは数少ないです」
これは料理が趣味になったと捉えていいのだろうか。それともあくまで自分達で生きていく為の試行錯誤なのだろうか。
「参考までに一つ聞かせてほしいんだけれどさ。満足できる出来のものは数少ないという事は、失敗した食材を大量廃棄したという事じゃないよな」
サイヤンがおそるおそるという感じで尋ねる。
「流石に食材が勿体ないのでそれはやりません。研究のために調理確認魔法を作りました。食材と調味料、加工方法と順序を指定してどんな結果になるのか、脳裏で再現できる魔法です」
「……それはそれでとんでもないけれどな。エイラにしかできないという意味で。まあ食材が無駄にならなければいいとしようか」
やはり三人の中ではエイラが一番とんでもない気がする。言わないけれど。
「さて、それじゃ神からの情報を話すとしよう。あの遺跡の北東にある道から北へ三〇長延行ったところにスローリンという街がある」
まずは最寄りの街の位置と名前がわかった。
サイヤンの説明は更に続く。
「スローリンはあの地図ではボニート連合の領域内だが国内扱いじゃない。六カ国の外、辺土と呼ばれる地域に含まれる。この辺は雨が少なくて麦や一般的な作物が生育できないからさ。六カ国的な価値観では支配に適さない地域なんだ」
なるほど。
「なら逃げるにはちょうどいいな。サイヤンが好きな小麦粉系の食物が食べられなくなるだけで」
「ある程度の交易がボニート連合内とあるから心配いらない。それなりに産物もある。放牧による畜産品だのこの辺の主食であるライムギやきび、さらにはデーツだの多肉植物系だのとかさ」
「つまり小麦粉は手に入るという事ですか」
エイラの言葉にサイヤンは頷いた。
「ああ。代用品としてライムギ粉やきび粉なんてのもあるらしい。だから問題は小麦とか食料じゃない」
つまり別に問題があるという事だな。そう俺は理解する。
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