第三四目 作戦
「ついでにバタラが今まで使用した遺跡の機能や古代魔法、古代遺物の使用歴も確認してきた。
遺跡の機能で使用歴があるのは今話した監視・移動機能の他に、
○ 二級神札授与
○ 記憶消去・再配置機能
の二つだけ。
二級神札というのは僕達が使用している神札より少しだけ出来る事が少ない神札だ。具体的に言うと神力や魔力の配分を変えるといった重要な決定を行う事が出来ない。
バタラも王子だから僕達と同じ権限を取れる筈だろう。そう思ったんだけれど、どうやら書き換えた人格の方で制限がかかったようだ。
あと記憶消去・再配置というのはいわゆる『祝福の洗礼』の事さ」
「つまりあの魔力禁止措置は遺跡の機能では無い。そういう事ですね」
エイラの言葉にサイヤンは頷く。
「その通り。そっちは遺跡の機能でも古代遺物でもない魔術の術式。僕達が出現しそうな遺跡の東側広場周辺に魔術式を描いた楔を打ち込んでいるようだ」
「魔力封印術式ですか。魔術式を描いた楔を複数使って領域を指定し、魔法に必要な魔力を排除する。
古代魔法で私達が入れるよう、すぐに起動できる状態にして待ち構えていたのでしょう。入った時点で呪文を唱え起動した。だから入った直後は魔法を使用出来たのでしょう」
エイラは知っていたようだ。ちなみに俺は知らない。つまり授業に出てくるような一般的な方法では無い。
「知っていたか。僕は此処で調べて初めて知った。古代魔法も起動には周辺の魔力が必要だからさ、魔力を奪われては起動できない」
なるほど。
「つまりあの広場に出たらダッシュして領域外に出ないと、こちらは移動魔法すら使えない訳か」
「そういう事さ。ついでに言うと僕達が逃げた後、バタラの部下が追加で魔術楔を打ち込んでいるようだ。僕達が逃げた地点の周囲を広く囲むようにさ。
だから僕達が逃げた地点は移動魔法的には覚えているけれど移動出来ない。遠視魔法で確認しようと思って見てみたけれど見えなくなっている。
そしてあの広場だけは術式を起動していない。ただし入ったらすぐ起動できるようにはしているだろうね。さっきのようにさ」
「いえ」
エイラがふっと微笑んだ。
「広場以外に移動出来ない、という訳ではないようです。私の移動魔法なら、ぎりぎりですが範囲外に出る事が出来ます」
「えっ」
サイヤンが妙な感じに息を詰まらせた。
「ちょっと待ってくれ。移動出来るのか!? エイラは」
エイラは頷く。
「私は行った事がある場所から概ね一〇〇延程度でしたら遠隔魔法の視点を飛ばす事が出来ます。
実際に視点を飛ばしてみたところ、周囲を確認する事は出来ました。こちらへ飛んだ地点から一〇〇延東北東側へは視点を飛ばせます」
なるほど。
「遺跡の機能を使って移動した範囲外だから、そこまで楔を打てなかった訳か」
更にサイヤンが付け加える。
「まさかそこまでの範囲まで移動可能とは思わなかったんだろうな、バタラも」
「そのようです。ですからパラミス国の遺跡に入る事は出来なくとも脱出する事は可能です。サイヤンにはこちらで待っていただく事になりますが」
なるほど。俺にもわかった。
俺達の目的はパラミスにある遺跡に入る事ではない。この近くへと脱出する事。そう考えれば答は簡単に出る。
「エイラとアラダで移動して、魔法禁止措置を起動してあとは走って逃げる訳か」
「ええ。遺跡の通路から一〇〇延以上離れられないなら、最初の数秒だけ攻撃を防げば何とかなるでしょう。ですので広域魔法禁止措置を使用出来て移動魔法を使える私と、通常の攻撃なら避ける事が可能で高速で走れるアラダ、二名で行くのが最適です」
「まあそうだな。なら早速地形その他を確認しようか。どっちへ逃げればいいか、何処まで逃げればいいかを調べる為に」
サイヤンは紙とペンとを取り出す。
◇◇◇
作戦を決めた後、入口近くのホールへ移動。
最適な装備を選択する為に、エイラが収納していた装備類を全部出して貰った。
「ホールで正解だったな。部屋では全部出し切れなかっただろ、これは」
サイヤンの言う通りだ。
鎧だけでも重プレートアーマー、チェーンメイル、革&プレートの偵察兵用、音が出にくい特殊部隊用革鎧と揃っている。
武器も俺用の突撃槍の他、長槍から長剣、片手剣、投擲用短剣、投槍……
「確かにそうだな。それにしてもあの脱出時にこれだけ持ってきたのか。何というか流石だな。売れば一財産になりそうだ」
「場所を覚えていれば大抵の事は可能です。あの別棟も内部からなら転送魔法の取り寄せが使えますから」
エイラは何でも無い事のように言っている。しかし多分それは彼女だから出来るだけだ。サイヤンだって魔法士全体の中から見て出来る方なのだから。
「それじゃ今回の装備を決めさせて貰うぞ」
今回はエイラは自分の足で走る必要はない。俺が抱えて走った方が速いから。
そして俺が天授を起動した状態なら、人間を一人抱えて走るなど造作も無い事だ。例えその一人が人間が装備できる限度まで重装備をしたとしても。
魔法禁止措置下で出来る遠距離攻撃と言えば弓矢か投槍。それに対する防護ならば……
一〇分後。
「本当にこれだけ装備していいのですか」
エイラは不安気な感じで言う。
チェーンメイル、頭から腕から足首まで一式。手には手甲、足は鉄板で防護したブーツ。重量級フル装備だ。
「ああ。矢や投槍ならプレートメールよりチェーンメールの方が安心だから」
「いえ、問題は重量なのですが」
「移動魔法で何か問題は出るか?」
「いえ、魔法的には問題ありません」
「なら大丈夫だ」
魔法禁止措置の影響下の遠距離攻撃はそんなものだ。そして俺も避けるようにする。
しかし運が悪くてなんて事は何時だってありうるのだ。だからエイラは重武装が正解。
なお俺は軽装、というか神官服そのまま。
今回は蓄力を起動して全力で走るつもりだ。だから余分な装備はない方がいい。それに蓄力起動中の俺は下手な鎧より頑丈だ。
「それじゃさっさと行ってくるとしよう」
俺はエイラを抱きかかえる。後ろだと万が一矢が当たったりするとまずいので前に。
「……理由はわかるのですが、何か変な気分になりそうです」
言いたい事はわかる。しかし作戦上仕方ない。
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