第九話 脱出

第三三目 追跡方法

「まずはこの遺跡に入って正面、ホールの先に行ってみましょう」


 確かに構造的にはそっち側がこの建物のメインだろう。正面だし通路も広いように見えたから。

 遺跡外壁に沿った周回路に出て円の四分の一を描きつつゆっくり坂を上っていく。程なく正面入口があるホールに出た。


 こちらから見ると進めるのはこの先前に外壁内側に沿って上っていく通路、そして左側のホールの続き。

 俺達は左側へ曲がって、そして歩いて行く。


 ホールは幅一〇延位で奥行きも入口から一〇延位。そしてその先に壁があった。いかにも何処かに入口が出現しそうな壁だ。


「サイヤンなら何か呪文を唱えるところだな。何処か入口はあるのは確かなんだが」


「神札が使えるかもしれません」


 エイラがそう言ってポーチから銀色の札を出す。今まで単に壁だった場所の何カ所かが白く光り始めた。それを見て俺は気づく。


「なるほど。泊まった部屋等と同じか」


「そのようです。それで何処を見てみましょうか」


 そう言われても土地勘なんてある訳はない。


「左側の端から順に見ていこう。どうせ時間はあるだろうから」


「そうですね」


 正面から見てホール左側の壁から一延程の場所にあった白く光る壁にエイラが触れる。すっと穴が開き通路が出てきた。俺達は先へと進む。


 ◇◇◇


 幾つもの廊下や部屋を回った。しかし何処が何の部屋なのか、意味はまるでわからなかった。


 ほとんどは白い廊下か白い小部屋。小部屋には以前神札を作ったようなテーブルがついていたりする。

 テーブルの位置は正面か左右、もしくは正面と左右の三方向。しかし呪文を知らないからか、手をついたりしてみても反応はない。


「古代語とこの遺跡の使い方がわからないと出来る事は少ないようです」


「みたいだな」


 劇場のような場所もあった。扇形の部屋で中心を向くように椅子が並んでいる部屋。ただし舞台部分は台と床以外無く、正面は白い壁で何もない状態。


 幾つもの部屋を見た後。俺とエイラはこう結論を出した。


「サイヤンがいないと駄目だな。どの部屋が何の意味があってどうすれば使えるのか、全くわからない」


「そうですね。入る事は出来てもそれ以上は出来ないようです。一度戻りましょう」


 戻るのはそれほど難しくない。方向を見失っても、通路の先が開いている場所へ進めばいいだけ。

 あっさりと入口ホールへ戻ってきた。


「何か疲れたな。一度部屋に戻るか」


「そうですね」


 そうやって外壁内側に沿って部屋に戻ろうとした時だ。背後に気配が出現した。すぐに誰かは気づく。


「おっと、こんな所にいたのか」


 サイヤンの声だ。


「ああ。遺跡内を見回ってみたんだが、白い部屋ばかりで何が何だかわからなかった」


「ああそうか。特権有りの神札があるから基本何処でも入れる。けれど部屋の意味と祈祷文がわからないから操作が出来ない。

 更に言うと外を意識して観察しない限り、バタラが何をしようとわからないし気づかない。

 悪かった。そこまで気づかなかった」


 どうやらこっちの状況を理解したらしい。


「それで必要な情報は得られたのでしょうか」


 エイラの言葉にサイヤンは頷く。


「ああ。何せ質問に対して回答してくれるという方式だったからさ。楽しい寄り道無しで答が出て来るんだ」


 質問に対して回答してくる?


「誰かそういった事を調べる人間がいるのか、此処に?」


「いや、そういう意味じゃ無い。一番近いのは神かな。神に質問を奏上して言葉を賜るという感じだ。

 実際には神というより神の分霊みたいなものだけれどさ。細かい事はあまり気にしないでくれ。

 そんな感じだから余分な知識を楽しむなんて事は出来なくてさ。せめて本形式にしてくれればもう少し楽しめるだろうに。

 そんなこんなでさっさと帰ってきた訳さ」


 相変わらず神を神とも思わぬ言い方だ。しかしサイヤンの方が俺より神については詳しい筈だ。元々皇族としてかなりの事を知っている上、一度乗っ取られるなんて事もあったのだから。

 だからあえて気にしないことにする。


「それではバタラに対する対抗手段は思いついたのですね」


「ああ、問題無い。パラミス国の遺跡入口の広場で迎え撃つさ。

 それじゃ部屋に戻ってその相談をするとしよう。それにそろそろ昼食の時間だしさ」


 そう言えばそうかもしれない。全く気づいていなかった。

 そう思いつつ外周路を元の部屋の方へと向かう。


 ◇◇◇


 今日の昼食は肉野菜と炒めたスパゲティだ。パンで無い理由は簡単。


「パンはサイヤンが全部食べてしまいました。次のパンを作らないと在庫はもうありません」


「わかった。それじゃパラミス国の遺跡に入ったら作って貰っていいか? どうもパンが無いと食事をした気にならなくてさ」


 そんな前置きを言って、それでもスパゲティを食べながらサイヤンが説明を始める。


「まずはバタラが僕らを追いかけてきた方法について。どうやらバタラは祝福の神殿こと遺跡の中にある、監視室の使い方を知っていたらしい。


 監視室からは稼働している遺跡全てを監視する事が可能らしい。更には各遺跡へ、正確には各遺跡の東側にある広場へと魔法で移動する事も可能なようだ」


 なるほど。しかしそれならだ。


「ならそうやって誰かを送り込んで、その後戻ってきてという形で場所を覚えさせた後、遠距離移動で大量に兵を送り込むなんて事が出来るんじゃないか?」


「それは出来ないようなんだ」


 サイヤンはそう言って、それから続ける。


「この方法で移動した場合は制限がある。一度遠距離魔法で自分の知っている場所に戻るか、誰かの遠距離魔法で移動するまでは、

 ○ 遠距離移動をする為の場所を覚えられない

 ○ 遺跡外周路及び東側広場までの通路、及び東側広場から一〇〇延以上離れた場所には出る事は出来ない

となっているようだ。


 つまり移動先として覚えて次に自分の魔法で行くなんて事は出来ないし、軍隊を派遣して遺跡を拠点に侵攻するなんて事も出来ない。


 この辺の制限、どうにも不自然だからさ。きっと神が意図的に作った規則か何かなんだろうと思う。

 とりあえず以上がバタラが自分なり兵なりを送り込んだ方法と、その欠点だ」


 なるほど。


「その方法で移動させる場合、移動範囲はどの位までなのでしょうか。あの広場以外にも移動してきたように見えるのですが」


「さっき言った範囲。つまり遺跡関係の通路から一〇〇延以内なら何処でも移動出来るようだ。そしてそれだけの範囲を監視可能なようだね。

 正直そんな機能があるとは僕も知らなかった。知っていたら情報収集に使ったんだけれどさ」

 

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