第三一目 次の移動先
六カ国それぞれの現況を調べるのに三日間かけた。
この調査は魔力調整の為だけではない。この後俺達が何処へ移動して生活するかというのも含まれる。
そして結論が出た。
「魔力調整内容はとりあえず、『ベルデド教国内の遺跡二箇所については、魔力使用量が増加しようとも、現在の値以上に魔力供給を増やさない』でいいか」
「ああ」
これで当分の間は問題は出ない筈だ。
勿論今後、他の国が魔力を多大に消費するような政策を考え出すなんて可能性は否定出来ない。だからある程度は継続的に監視をする必要があるだろうけれど。
あとこの方式だとベルデド教国にも被害があまり出なくて済む。供給量を減らすといっても現状程度までなら魔法を使えるのだから。
「ここで魔力供給量を変えた事に、各国は気づくのでしょうか?」
エイラが質問する。
「気づくというか知るだろうね、各国の長レベルは。あの辺は神に直結しているからさ。
ただ全知はわからないだろうと思う。全知は目に見える現象以外は知覚範囲外だからさ。今回の操作が行われたのは全知の能力の範囲外である遺跡内部だしね。
だからベルデド教国もすぐに対策は取ると思うよ」
なるほど。ただそうなるとだ。
「全知が気づかないとなると、特にベルデド教国では政策で教主と筆頭枢機卿の対立が起こったりしませんか」
例によって俺より先にエイラが質問する。
「起こるだろうね。でも問題はないだろうと思うよ。
どの国も長の方が全知より権力が上になるよう出来ているんだ。それこそ王家全員を葬り去る位の勢いで権力奪取を図らない限りはね。
だから筆頭枢機卿が何を主張しようと教主によって政策が変更されるんじゃないかな。使用魔力をこれ以上増やさない別の方法にさ」
なるほど、つまりは。
「世界は変わらない訳だ。少なくとも俺達の知っている六カ国は」
「そういう事さ」
サイヤンは頷いた。
「その気になれば僕達は世界を一変させる事だって出来た筈だ。矛盾や不条理を感じる今の体制をぶっ壊すなんて事もさ。その国にある遺跡の魔力供給を調節する、それだけで。
ただ僕達はそれが出来なかった。もちろん理由はある。現状変更によって多くの人が死ぬだろうとかさ。
それでも結果は結果だ。当分はこのまま続いていくのだろう。平民に自我が無い教国も、どの階層に生まれようと希望を持てない我が帝国も、それ以外のやはりどうしようもない四カ国もさ」
今の俺達はその四カ国についてもそれなりの知識を持っている。だからどの国もどうしようもない事を知っている。
帝国と似た体制だが商人の力が強く、大体は贈賄で国政が動くとされているエルスラ王国。
共和国と言いつつトップは世襲。食料をはじめとする物資不足で末端は腐りきっていて体制はボロボロ。治安最悪で大統領一家以外はしょっちゅう入れ替わるフラリド共和国。
独立した国の連合体と言いつつ実際はエルク党主席が絶対権力を持ち、監視と密告で国体を支配しているテカスス連邦。
自由都市国家による連合という体裁だが、実際は他国からの防衛を担う合同騎士団が権力を持ちほぼ軍事独裁となっているボニート連合。
大本の外形は違えど中身はほぼ同じだ。そう思った俺にある疑問が生じた。
ほぼ同じ救いようのない体制。こうなったのは人間のせいなのか。それとも神のせいなのかと。
その答はひょっとしたらまもなくわかるかもしれない。なぜなら……
「さて、それでは目的地へ向かうとするか」
行き先は消去法で決まった。
まず帝国やベルデド教国、テカスス連邦への移住は無理だ。何せ居住場所と住民が完全に管理されている。余所者が行ったらすぐにバレてしまうだろう。
フラリド共和国も似たようなものだ。そして国そのものが貧しくて余裕がない。
エルスラ王国は金さえあれば問題無いかもしれない。ただそういった先立つものが俺達にはない。
『残念ながら別棟から逃げる際、大したものは持ち出せなかったな。食料の七割、あとはせいぜい自分の私物と装備くらいだ』
『サイヤンが収納した残りの食料全部と倉庫の装備半分くらいは持ち出しに成功しました。ただ残念ながら金銭や貴金属類はありませんでした』
以上、二人が持ち出せたものである。エイラ、流石というか何というか……
なお俺は収納魔法を使えない上、着ていたものまでバタラ王子の自爆で焼けてしまった。
そうなると残りはボニート連合しかない。
「大陸の西側、大山脈を越えた先にある三カ所の遺跡でも魔力補充は少ないけれどあるようです。魔力を使用しているなら人間が住んでいる可能性は高いのではないでしょうか」
おっと、そういう考え方もあったか。
ただサイヤンは否定的な表情だ。
「ただそっち側の遺跡は三カ所とも山の中にあってさ。古代魔法で見える範囲に人が映らないんだ。だから国とか体制とか生活の程度が全くわからない。
そして言葉すら通じるかどうかわからない。そんな何もわからない場所へ行くよりは、言葉が使えるだけましな場所に行った方がいいと思わないかい」
「どんな言葉でもサイヤンなら理解出来るのでは?」
「ああ。僕はね。ただ標準語が使えない場合、エイラとアラダは 現地の言葉を一から覚えなきゃならない。この年になってそういう事をしたいという勤勉さがあるなら、まあそれはそれで立派だと思うけれどね」
サイヤンが言う事が正解だろう。
「そうだな」
「という訳で今日までの調査でお勧めなのはボニート連合の西側パラミス国、大山脈に入る際にあるこの遺跡だ」
移動先は遺跡がある場所に限られている。古代魔法で使用可能な位置情報がわかるのはそれだけだったからだ。
「この遺跡周辺には街はない。ただ北北東側一長延くらいのところに道があるようだ。二日かけて観察した結果、三組八名の移動を確認した」
「道を移動ですか。それは歩いて長距離を動くという事でしょうか?」
許区外への移動は基本的に禁止されていて、行う場合は役人による移動魔法で行われる。物品の移動も転送魔法だ。
だから歩いて長距離を移動する、なんてのは感覚として一般的ではなかった。しかし此処ではそういった移動方法がまだ実用とされている模様だ。
「ああ。ボニート連合のうち西の山岳側に位置する二領域、パラミスとサザードは許区制度を採用していない。つまりは移動魔法でも歩きでも移動出来るという事さ。
そして現に歩いて移動する人もいると確認できた訳だ」
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