第三〇目 生殺与奪の権利
「さて、何故魔力消費量が増えたか.
まず先程の地図で、遺跡ごとの使用量表示を一〇年前と昨年の使用量両方の表示にしてみる。水色の半円が一〇年前、赤い半円が昨年の使用量。大きさの違いで使用量の変化がわかると思う」
サイヤンが呪文のようなものを唱える。
地図が表示されている方の表示が変わった。ほとんどの場所が水色の半円と赤い半円が同じ程度の大きさ。
しかし明らかに大きさが違う場所が二箇所ある。先程目についた一番大きい赤い円のところと、その下側にある次に大きな円だ。
「つまりこの二箇所で大幅に魔力使用量が増えたせいで、魔力が足りなくなりそうな事態になった訳だ。
さて、ここで地図の中心部の大陸に僕達の知っている六カ国の国境を引いてみようか。メクサネール帝国、ベルデド教国、テカスス連邦、エルスラ王国、フラリド共和国、ボニート連合の。
どうやら世界には他にも国があるらしいけれどさ。今回の事態はこの大陸の中心部で起きているようだ。
もちろん許区等の制度があるし、国境付近は割と戦闘が多く境界が割と動いたりする。だからはっきりした国境なんて決められなくて大雑把な線になるけれどさ」
六カ国があるのは大陸の右三分の二を占める緑色、そして湖らしい水色がある部分のようだ。
上から三分の一位のところに大きな湖がある。その上側に大きな国が一つ。
湖の左側にそれに次いで大きい国が一つ。その国の下に国が一つ。
湖の真下に国が一つ。山を挟んでその右側に細長い国が一つ。そしてこれらの国の下に国が一つ。
大幅に魔力使用量が増えた遺跡二箇所は同じ国の中にある。湖の下、六カ国の中心にある国に。
それにしてもどうにも話がまだるっこしい。
「そろそろいいだろう、サイヤン。どうせ結論は出ているんだろ、何処で何が原因で魔力使用量が増えているか。そこで俺達はどうすればいいのか?」
「まあそうだけれどさ。一応神から得た判断情報は公開しておこうと思ったんだ。神から教えられた結論をいきなり言ってそれをやれじゃ、神から命令されただけって感じで納得できないだろうからさ」
なるほど。
「確かにその方が納得しやすいですね。神に駒としていいように使われている感じは拭えませんが」
「ああ。だからついでに背景情報、一気に説明させてもらう。
まずこの魔力消費量が増えている国はベルデド教国だ。ついでに言うと北の大きいのが帝国。中段左からボニート連合、ベルデド教国、エルスラ王国。下の左がテカスス連邦、下の真ん中がフラリド共和国となる。
まあこの辺は後にまた説明する機会があるだろう。だから今は覚えなくて問題はない」
大陸の何処にどの国があるなんて情報まで知ってしまった訳だ。こんなの思考監視官に見つかれば間違いなく即断刑だ。もう帝国へ戻る事はないだろうけれど。
「そして神に見放される事案の解決方法として各国に提示されたのは五つ。
① それぞれ指定した古代遺跡を探索して解決方法を見いだす
② 大陸を統一する
③ 戦争、事件、事故何でもいいので六カ国内で超過死亡数を三年以内に総計二〇万人以上増やす
④ 五年以内に六カ国の総人口を現在の九割までに削減する
⑤ 全国家において魔法使用者を七割程度に制限する
さっきの話とあわせればわかるだろう。つまり魔法を使う人を減らして魔力を節約してくれという事さ、①以外の選択肢は。
ほとんどの国が③を選んだ。仕方ないね。基本的にどの国家も戦争中だから合意で④や⑤は選べない。かといって②は無理だ。
なら自国以外で事案を起こして人口を減らそう。そのために各国は他国の許区探索を開始した。結果として『そちらへ進めば戦争相手の領土に至る』と判明している国境付近での戦闘が活発になった訳だ」
なるほど。その辺の判断は理解出来る。①が出来れば確かに理想だ。
しかし実際には古代遺跡なんて場所を探索して成果を出すなんてのは困難だ。なら①を実施しつつ、この中では何とか実現可能な③を目指すのが妥当だろう。
「しかしベルデド教国だけは違った。なぜなら元々②を目指して長期作戦を進めていたからさ。
その長期作戦とは、簡単に言えば戦力を増やそうという作戦だ。方法は戦闘に関わる人口を増やすこと。
具体的にはまず出産数を増やすそうだ。そして祝福の洗礼で戦闘能力中心に覚えさせた後、一〇歳位で戦力化して戦場へ送り出そうという感じらしい。
この位の年齢でも戦闘に必要な魔法だけを鍛えればそこそこの戦力になる。そうやって数で圧倒して、一国ずつ倒していこうという作戦だそうだ。
ベルデド教国の場合、国民は国の命令に確実に従ってくれるからさ。産めよ増やせよ位は簡単に達成出来る。
一時的に食料はギリギリになるが、戦力化した子供を継続的に戦場に送り出せるようになれば問題無くなるだろう。成長する間分の食料がいらなくなるからさ。
魔力使用量が増加したのはこの長期作戦のせいとの事だ。人口が多くなるとその分魔力使用量も増える。さらには増える人口を養うため、魔法を使用して穀物生産高を上げようとしたりなんて事もしているから」
つまり生まれてから兵士となるまでを短縮する事によって戦力を増強しようという事か。
方法論としては理解出来る。しかし……
いや、教国からみれば帝国の方が残酷なのかもしれない。何も自由にならないのに自由意志を持たせ苦しめるという意味で。
「僕が神から与えられた判断材料は以上だ。感想は色々あるだろう。
勿論もっと判断材料を集める事も出来る。此処からなら各国の情報をある程度は調べられるからさ」
レクチャーはここまで。ただし必要だと判断すれば此処である程度調べる事は出来るという事か。
なら最終的にやるべき事を確認しておこう。
「最終的に俺達がやるべき事はここで魔力供給量を操作する事、そういう認識でいいか? 遺跡毎に魔力供給量の出力を変えるとか、最大の供給量を決めてそれ以上出さないようにするとか」
「ああ」
サイヤンは頷いた。
「その通りさ。
なお魔力供給量はかなり細かい条件まで設定できるらしい。
全体の供給量がどれくらいになったら何処の遺跡の出力分を絞るというような形もとれるし、この遺跡は供給量をこの位までという形にする事も出来る。
文章で表現できるような条件なら概ね大丈夫だと思っていいようだ」
なるほど。
「神様からは指示なり希望なりがありましたでしょうか。何をせよとか、何をするなといったような」
「その質問なら答はNOだ」
サイヤンはそこで一度切って、一呼吸開けてから続ける。
「そういった指示は何もない。神が与えたのは基本的には情報だけだ。だから何をするのもしないのも、全てこっちの判断さ。
ただ期限はある。今から13日以内だ。この遺跡内に滞在できる期間は14日以内と決まっているようでさ。それを過ぎると47日間はこのタイプの遺跡に入れなくなるらしい。
まあ今回は決めないで此処にフルに滞在し、その後47日以上過ぎてから再度ここなり別の遺跡なりに入って、そこで決めるというのも有りではあるけれどさ」
その辺は俺達の選択を尊重するという事か。しかしそれなら……
「俺達の選択いかんで、場合によっては国なり人々なりの命運が決まるという事か」
「その通りだ。何を選んだとしても、選ばなかったとしても、何処かが地獄になるのさ、結局は」
結論をまず言って一呼吸置いて、その後に説明を続けるのはサイヤンの癖だ。
「神の目的のひとつに人類の存続というものがあるらしい。ただこれで存続させるのはあくまで総体としての人類らしい。個々の人間がどうかは考察に入っていないようだ。
なおこの人類というのは人間が作る社会というものも含めてのものらしい。更にその社会を何処まで含むか、何を社会として捉えるかは神自身も完全には定義しきってないようだけれどさ。
いずれにせよ神としては総体としての人類が存続していればそれでいいらしい。
だから何処かの誰かが地獄をみてもかまわないのさ、きっと。個々の人間という視点は神には無いようだから」
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