第八話 次の状況
第二九目 状況解説
「さて、それじゃ神から譲渡された知識を使って解説をするとしようか」
サイヤンはいつもの調子でそう宣言し、そして続ける。
「先程僕を乗っ取った神からの情報によれば。ここは神力を魔力に変換し、地上に配布する状況を確認する事が可能な場所だそうだ。
ただ確認するだけじゃない。配布の割合を調節するなんて事も可能らしい。という事でこっちの壁を見てくれ。配布状況をわかるように映しだして貰うからさ」
サイヤンは例によって古代語らしい何かを唱える。
白い壁の色が変わった。一色では無く青や緑、茶色等が混じっている。
一秒くらいで見覚えがあるなと気づいた。そう、これは。
「古代地図ですか。学長が持ってきたあの地図の外側部分を含めた」
またエイラに先に言われてしまった。でもその通りだ。中央上部分があの古代地図とほぼ同じ形になっている。
「ああ。あの地図と同じさ。
違いは二つ。これはあの古代地図より広く、ほぼこの世界全部を写しだしているらしいこと。それともうひとつ。映しだしているのは古代では無く現在の状況だという事だそうだ。
さて、次。この地図に魔力を配布する遺跡を表示する」
サイヤンがまた何かを唱える。地図のあちこちに赤い点と黒い点が出現した。
「この点が魔力を配布する遺跡の位置らしい。赤い点は現に魔力を配布している遺跡。黒い点は壊れた等の理由で現在は魔力を配布していない遺跡だそうだ」
地図の何処に何があるのかわからないからよくわからない。ただここの場所は何度かあの古代地図で見たからどれかはわかる。赤い点、稼働中の場所だ。
「さてこれからこの赤い点、それぞれの遺跡で、どれだけ魔力を配布しているかを表示して貰う。赤い円が大きい程魔力の配布が多いという事になるそうだ」
サイヤンの呪文で赤い点が赤い円となった。円の大きさは場所によってかなり異なる。小さいところは直径一短程度で点とそう変わらず、大きいところは直径二〇短以上。
なおこの遺跡を示す円は五短位で平均的な大きさだ。そして大きな円があるのは同じ大陸の中心やや右側付近。次に大きな円があるのが一番大きな円のすぐ下側。
「見たとおり魔力の配布は均等じゃないようだ。これは現在の設定が『魔力を使われた分だけ補充する』という設定になっているかららしい。
つまり魔法の使用が多い場所ほど配布量が多くなる。故にいくら魔法を使っても魔力が足りなくなる事はないそうだ。しかし」
サイヤンが何かを唱える。地図が表示されている隣の壁面にグラフが表示された。
右に行くにつれて徐々に上に向かっていく赤い線とその上にまっすぐ横に引かれた青い線がある。赤い線の右端部分は点線になっていて、青い線より上に出ている。
「この青い線が魔力として配布可能な神力の量、赤い線が魔力として実際に配布した量だそうだ。点線部分は今後の予測。つまりこのまま行くと使った分の魔力を配布できなくなるらしい。
そうなると今まで通りに魔法を使う事が出来なくなる訳だ。結果として魔法の効果が落ちたり、今まで起動した魔法が起動しなくなったりする。
これが『神から見放される』と学長が言った事態らしい。これを解決する策のひとつとして僕達が遺跡に派遣された訳だ。
この魔力の配分具合を調整して魔法の威力低下という事態を防ぐ、そういう方法論で解決する事を目指してさ」
なるほど、そう話は繋がった訳か。ただここでちょっとだけサイヤンに聞いてみたい事がある。
「サイヤン、今説明したのは何処まで古代書に書いてあったんだ?」
「壁に情報を映しだす呪文を含め、八割方は神の置き土産さ。僕を乗っ取ったあの神のね。
今の説明は僕の知識では無理だった。あの古代書にはここまでこの遺跡の知識は載っていなかったし、この後にやることの説明なんてのは何も無かったからさ。
そういう意味では確かに僕より導き役として適役だったんだろう。乗っ取られた僕としてはたまったものじゃないけれど」
なるほど。ここは少し冗談めかしてこう言っておこうか。
「なら案外サイヤンがおかしいなんて事を指摘しないのが正解だったかもな。完璧な知識を持つ案内役にガイドして貰えるという意味で」
「勘弁してくれ」
サイヤンは顔をしかめた。いつも通りわざとらしく。
「意識があって目も見えて音も聞こえるのにさ。一切意思表示が出来ず他者に身体を使われるってのはなかなかに辛い状態だぞ。
実際外周路から右に曲がった時点からさっきまでの間だけなのに結構なダメージだ。あんなの一日もやられたら自我がボロボロ状態になってしまう。
伯父上の自我がたまにしか戻らない理由がよくわかったよ。こうやって壊されたんだろうと。自分が自分であるという意思をさ」
うーん。言葉や態度、動きで俺は感じる。サイヤンには悪いが……
「あまりダメージを受けているようには見えないんだが」
「そうですね」
エイラも同意見のようだ。サイヤンははあっと大きくため息をつく。
「すんごく厳しかったぞ。僕が僕でなくなるというのをもろ感じるんだ。耳は聞こえて言葉は理解出来る。しかし目が見えるのだが視点を自由に動かせない。更には身体も自由に動かない。
多分アラダは気づくだろうとは思っていたけれどさ。いつ行動を起こしてくれるだろうか。それまで僕は自意識を保てるだろうか。伯父上みたいになってしまわないか。
あんなに不安になったのは久しぶりだ、まったく」
「アラダが気がつくと思っていたんですね。それでも」
エイラの言葉にサイヤンは頷く。
「魔法的な何かなら必ずエイラが気づく。それ以外ならアラダが何とかするだろうってね。
実習その他で嫌と言うほどに思い知らされているんだ。アラダの戦士的感覚はなかなかに凶悪だってさ」
その他というのは公にはされていない事案二件を指している。今ではサイヤンと俺と、あとは学長を含む教授陣数人しか知らない筈の。
結果として皇位継承権持ちの皇子二名とそれに近い貴族子弟が三名消えた。一級上の学年と俺達の学年から。
もっとも学園から学生が消えるのは珍しい事ではない。学園で育てる価値が無いと判断されれば直ぐに放逐される。学業不振、反体制的言動、社会性に欠けた性格その他で。
さて、そろそろ本題に戻ろう。
「本題に戻るぞ。魔力の配分を考えるにせよもう少し情報が必要だろう。この魔力使用量の差は何なのか。単なる人口の差かそれ以外に特殊な要因があるのか。
どうせ神からその辺についても情報を得ているんだろう」
「ああ」
サイヤンは頷いた。
「それじゃその辺の説明に移るとしよう。ついでにこの事態、『神に見放される』のを防ぐ他の方法とかについてもさ」
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