第二七目 理由

 食事を食べた後。


「それじゃ部屋を出て調査に行く前に。前提として僕が読んだ本で得た知識を簡単に説明しよう」


 サイヤンはそう言って俺達の方を交互に見て、それから口を開く。


「まず最初に。僕が第五閉架書庫で見つけた古代書。これは僕達から見れば古代書だけれど、この古代遺跡と比べるとずっと新しいもののようだ」


「古代遺跡が作られた古代に書かれた本ではないのですか?」


 俺と同じ疑問をエイラも持ったようだ。


「ああ。一口で古代といっても結構長い期間でさ。

 古くてそれこそ何でも出来たらしい時代がある。そしてそれよりは古くなく、出来る事もそこまでは多くないけれど、今よりはずっと知識も魔法も豊富な時代もある。


 僕らから見ればどっちも古代で今より豊かな知識を持っている。それでも違いは結構ある訳さ」


 なるほど。


「遺跡はより古く何でも出来た時代のもので、サイヤンが読んだ本はそれよりは劣る時代の物なのか」


「そういう事だ。そして僕が読んだ古代書はこの遺跡等について、言い伝えや経験、実地調査結果を基にまとめたものだ。


 だからこの古代遺跡の全容まではわからない。それでもほとんど全てが忘れ去られた現代から見れば貴重な内容という訳さ」


 そこで理解したかな、という感じでサイヤンは俺とエイラの方を見て、更に続ける。


「さて、この遺跡だが、これと同じ形、同じ目的を持つ遺跡はこの世界中に数十という数あるそうだ。

 古代地図に描かれていた遺跡は一六。しかし地図の範囲外にも世界は広がっていて、そこにも同じような遺跡は存在しているとあった。陸上だけでなく海の上にも」


「海上にもか」


「ああ」


 サイヤンは頷く。


「この本が書かれた時代の国々はまだ移動制限をしていなかった。だから陸上を長い距離移動したり、海を大きな船で出る事が出来たようだ。

 何せ陸上や海上、更には空中を走るより速い方法で移動する装置もあったようだからさ。もちろん移動魔法ではなくて。今の僕達では想像しがたいけれど」


 走るより速く移動か。許区の範囲を気にしないで、更に遠くへ。

 ロマンだなと思う。帝国に戻れないとわかっている今でさえ想像出来ない。自分がそういう事をするとか出来るとか。


「さて、その古代書によるとだ。

 天空から見えない方法で神力を受け取って、人間が使える魔力に変え、各地に魔力を行き渡らせ魔法を使えるようにする。それがこれら遺跡、神殿の役割らしい」


 魔法を使えるようにする神殿か。


「そう言えば昨日の昼、言っていましたね。魔法を司る神殿だと」


 エイラに言われて確かにそんな事を聞いたなと思い出す。

 サイヤンは頷いた。


「ああ。ただあの時点ではまだ詳しいところまで読んでいなかった。だからあんな感じで大雑把に言った訳さ」


 なるほど。


「さて、ここまでの話でエイラとアラダに質問だ。今僕が説明した通り、此処は神の恵みとして人々に魔法を使えるようにする神殿らしい。

 そして学長は言っていた。

『この国を含むこの世界の全ての人間が神に見放される』

 そして『神に見放されずに済む方法のひとつ』として『古代遺跡に調査隊を派遣する』事。

 これって何処か繋がっているような気がしないかい?」


 なるほど。やっと俺はサイヤンが何を言おうとしているのか理解した。


「神は人間が魔法を使えるよう神力を魔力に変換し分け与えている。神が見放すとはこの流れが壊れ、魔法が使えなくなる事。サイヤンはそう推測しているのですね」


 例によってエイラが俺より先に気づいて口にする。


「ああ、その通りさ。ついでに言うと神も人が魔法を使えなくなるのは望んでいない気がする。そうでなければ解決方法を教えたりしないだろう。

 さて、これからの行動について前提となる知識は以上だ。それでは行くとしよう」


 サイヤンは立ち上がる。


 ◇◇◇


 遺跡内には敵は出ないだろう。それでも一応注意はしつつ歩いて行く。

 

「これから行くのはベルデド教国の神殿で行った部屋の更に先。あの時に行った部屋は単なる受付みたいな部分らしくてさ。あの部屋の先に遺跡の中心となる部屋があるようなんだ。

 僕もまだ見ていないけれどさ。古代書にはそう書いてあった」


「その部屋に何があるのですか?」


「神力を魔力に変換して、各地に配布している状況の確認と操作。そう古代書には書いてあった。それ以上は僕も見てみないと何とも言えない。説明が難しくてさ、意味は通じるんだけれど理解が難しいんだ。

 なのでこれ以上の説明は現場で見て、ある程度理解出来てからだね」


 入口だった場所を通って、更に先へ。


「しかしそんな重大な事、いくら古代書に書いてあったとは言えよく出来るな。普通はそういった事を出来る人間は限られるだろう。上位神官とかさ」


 疑問に思った事を聞いてみる。


「ああ、その通りさ。実際古代書では『そういう伝承がある』という形で記されているんだ。つまり書いた本人は手前の、あの神札を貰った場所までしか行けなかった訳さ」


「それでも私達は入れる。そう確信しているのですね」


 俺もそう感じた。サイヤンは入れる事を前提に話していたように感じたのだ。

 だから俺は先程ああ言ったのだが。


「特別な神札を持っているからさ。あの神殿で手に入れた神札、あれは神殿の最重要区画まで入って操作を行えるという権限のを神から授かった証なんだ。つまりこれを持っていれば神殿で入れない区画は無い。基本的には。

 古代書を書いた人が授与されたのは一般用の神札だった。だから最重要区画は入れなかった訳さ」


 つまりは。


「あの神札を手に入れた時点でそこまでわかっていた訳か」


「まあね。一応僕は皇族、つまり神に最も近い一族だからさ。その辺融通が利くんじゃないかと思って試してみたんだ。

 せめてこういう時位は自分の生まれを利用しないとさ。これもまた神の計算かと思うとため息をつきたくなるけれど」


 何というか……


「サイヤンは随分と人が知らない事を知っていらっしゃるのですね。おそらく今回古代書を読んで知った事以外にも」


 エイラが言いたい事はわかる。

 話す機会が無かったというのは事実だ。それに知っている範囲全部を順序立てて説明なんてしてたら何時間あっても足りないだろう。


 それでも思ってしまうのだ。何か隠しているのではないかと。言っていない事があるのではないかと。


「いつの日にかと夢見ていたからね。想定通りの下っ端王子としての人生から抜け出せる日をさ。

 エイラだってそうなんじゃないか? そこまで魔法を鍛えるのって天授があっても難しいだろう、普通は。そこまで鍛える必要なんて、国としてはともかくエイラとしてはないんじゃないか?

 本当は来たるべき日、いつか枠の中から抜け出せる日を夢見て、そのために鍛えていたんじゃないか。違うかい?」

 

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