第七話 遺跡中枢へ
第二五目 朝食まで
近くで魔法発動の気配がした。俺は目を覚ます。
周囲を見回す。部屋の中には敵その他の姿や気配、魔力反応は無い。
ただし部屋内は少し変化していた。具体的にはテーブルの上だ。
昨晩テーブルの上にあったクッキーは全部食べた。ピッチャーに入った水も半分位まで飲んだ筈だ。
そして置かれていた服は着て、サイヤンから借りたものは畳んでベッド上、寝ているすぐ脇に置いたのだ。
しかし見ると新たなクッキーが補充されている。水もピッチャーに満タンになっている。
更にその横に衣服のような物が置かれている。色は紺色。今着ているこの服よりも嵩がある。
おそらくは転送魔法で準備されたのだろう。今の魔法感知はそれだった模様。
とりあえず危険は無いようだ。そう判断した俺は改めて部屋の中を見回す。
窓から見える景色はもう明るい。これが本当の窓ではない事は気配や魔力でわかる。外の景色を映しているだけだ。
しかしこの景色が今現在なら、時間的にはもう朝6時かそれくらい。俺が目を覚ます時間としては遅い。
そう言えば時計があった。起き上がって壁の時計を見てみる。朝6時15分。景色とほぼあっているようだ。
俺は昨夜、この部屋に来てからの事を思い出す。
部屋に入った後、とりあえず置いてあった服に着替え、ビスケットと水で腹を満たした後、『トイレ』、『洗面所』、『風呂』と書かれた中を確認した。
そしてサイヤンが言った事を理解した。なるほど、あのトイレは確かに間違えそうだ。水を使用する為の井戸か水場と。
聞いていて助かった。しかしあんな水場のような綺麗な場所に排泄物を流して良かったのだろうか。未だにその辺が気になる。
さて、それはそれとして起きることにしよう。俺はベッドから出て、まずはテーブルへ。
クッキーは昨晩と同じ物、水はまあ水だ。ただし服は色が違うし明らかに布地が厚い。
服を手に取って確かめてみる。帝国の神殿勤務員に似た服だ。
上は羽織って前で重ねる分厚い織りの麻のような生地。
下はやはり紺色の麻のような生地だがもっと細かく織られたやや薄い生地で、やはり神官服のハカマと呼ばれるものと似た形。
現在着用している白い服が下着に近い感じだったので、上に着ることが出来る服というのはありがたい。
神官服の着方なんてのを思い出しつつ何とか着用する。足部分がダブダブなのでもっと動きにくいかと思ったが意外に動けそうだ。戦闘の支障にはならないだろう。
左襟の内側に内ポケットがある。中身が落ちないよう蓋が閉められるようになっている。
ここにあの神札を入れておけば良さそうだ。ポーチが無くなったので今までは手に持っていたけれど、これで仕舞っておける。
とりあえずはまともに外で着て歩ける服を手に入れた。一着だけだが感謝しよう。サイヤンか、それともこの神殿の神にかはあとで考えるとして。
さて、集合は朝八時だ。あと一時間四〇分くらいある。
トレーニングでもして汗を流すとしよう。ただ走ったり剣の素振りをしたりはこの部屋では無理だ。
かといってこの部屋から外に出るのもやめた方がいいだろう。勝手がわからないから、動かないのが正解。
この部屋で出来る自重トレーニングでもするとしよう。ただ汗をかいても着替えはない。
とりあえず誰もこの部屋にいないからいいか。そう思って俺は服を脱いで、全裸でまずは腕立て伏せから始める。
◇◇◇
八時ちょうどに部屋を出る。右側に気配と魔力反応。サイヤンもエイラもほぼ同じタイミングで部屋を出てきたようだ。
「時間厳守だな、二人とも。あんなハードな夜の後だから少し位遅れても問題ないと思うんだが」
「サイヤンだって出てきただろう、ちょうどに」
「どちらかが出てこなかったら一時間延期を提案するつもりだった。まあいいか。
とりあえず昨晩起きた事の確認と、これから何をするかについて話そうか」
そう言ってサイヤンは昨晩部屋に入る神札を入手した廊下のテーブル前まで歩いて行き、古代語らしき言葉で何かを話す。
そこそこ長く何かを話した後、テーブル上に濃い青色の神札が出現した。サイヤンはそれを手に取って俺達の方を見る。
「部屋が確保出来た。こっちだ」
壁に青色の部分が出現した。俺の部屋より更に奥だ。
寝室と同じ位の広さの部屋だ。ただベッドは無く、長辺に四人、短辺に二人の合計一二人が座れる位の大きさのテーブルと椅子がある。
正面の壁には窓、右側の壁には時計、左側の壁には扉二つ。
「アラダは新しい服になっていますね。寮あたりから予備の服を取り寄せたのでしょうか?」
「この遺跡に頼んで出して貰った。本来はこの神殿の神官用らしいけれどさ。一着までなら問題無いそうだ」
俺の代わりにサイヤンが返答。
「神官用の服か。道理で帝国の神殿勤務員用と似ていると思った」
「こっちがオリジナルだ。帝国の方はこれを形だけ真似したものだな。
ところでエイラとアラダは朝食は食べたか? アラダは収納魔法を使えないからあのクッキーだけだと思うが」
その通りだ。そう返答する前にエイラが口を開いた。
「別棟であらかじめ作っておいたスープや煮物を四鍋分。作ったパン試作品を一〇個。あと既に切って焼いてある塩漬け肉も収納しています。宜しければ出しましょうか」
それは非常にありがたい。
「出来れば欲しい。あのクッキーだけでは食べた気にならなかった」
「僕も食事として食べるならパンとおかずという方がいいな。ならありがたく頂きながら話をするとしようか」
「わかりました」
エイラの言葉とともにまず皿が数種類現れ、そしてスープ、パン、肉が皿の上に出てくる。
「まさか皿に入れた状態で収納していたんじゃないよな」
サイヤン、俺と同じ疑問をもったようだ。
「収納は鍋、皿、料理それぞれ別です。ですので皿を先に出した後、それぞれを必要と思われる量、出しました。同時に出す事も出来なくは無いのですが、少し神経を使いますから」
「やっぱりエイラの魔法制御は特別だな。普通は収納した時の状態でしか出せない筈なんだが」
俺自身はそういった魔法を使えない。しかし授業ではサイヤンが言った通りに習っている。
「その辺は私の天授もありますから。アラダのように自爆魔法、それも英雄級の魔法使いの自爆に耐えられる程に強力なものではありませんけれど」
あれについては一言言っておきたい。
「まさかバタラまで自爆魔法を使ってくるとは思わなかった。魔法を使えないなら多分勝てるだろうとは思っていたが」
「あれは私の失敗です。魔法禁止領域であっても自己に内在する魔法を体内起動する分には問題ありません」
サイヤンが苦笑いをしている。
「それを言ったら一番の失敗は僕だね。まさか別棟が襲撃されるとは思わなかったからさ。
どうやら学長、自分が思っているよりはファシア様から信頼されていなかったようだね。即断刑で処分されたよ。他国と接触した罪でね」
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