第二四目 古代遺跡内へ
「もう連続で戦闘という事はないよな」
歩きながら何とはなしにそう言ってしまう。何せ今は格好が酷すぎる。あとサイヤンもエイラも大分魔力を消耗している筈だ。これ以上連続で戦う余裕はないだろう。
「心配はいらないだろう。この遺跡についてはバタラの独自行動だったようだ。神によって動かされたのだろうが、ベルデド教国にここへ移動可能な者が残っている可能性は低い。いたとしてもさっさと遺跡内に逃げ込めばそれまでだ」
「別棟を襲撃したのは親衛騎士団第一中隊第三小隊のようです。他にアルト様とセレア様の魔力反応も確認しました」
なるほど。それで誰が俺達を襲おうとしたかがわかった。
「ファシア様か。親衛一の三はファシア様直属部隊だ。それにアラダ対策としてアルト百卒長とセレア十卒長をつけた訳か」
サイヤンの言うとおりだろう。部隊所属で誰が動かしたかは明白。
アルト・レナ・ドゥザーク百卒長は親衛騎士団魔法部隊副長で攻撃魔法関連の天授持ち。セレア・バゥガニタ・コーロウ十卒長は第一中隊副長で近接攻撃では帝国最強の1人、おそらくは俺と同じような天授持ち。
一般兵で制圧出来ない可能性に備えて二人をつけたのだろう。俺とエイラ対策として。
「まあその辺については遺跡内に入って落ち着いてから話そう。今後の事もさ。それでは……」
サイヤンは俺にはわからないフレーズを口にする。
遺跡のこちら側の壁の一部が消えて入れるようになった。ベルデド帝国の神殿と同じような状態だ。
「今度は何処へ向かうんだ?」
「ベルデド帝国の時とは逆、入ってすぐ左側だ。これは遺跡の下層へ向かう通路になっている。少し行けば宿泊用のブロックがある筈だ」
中へ入る。小さめのホール、警備兵がいない事以外はベルデド教国の神殿と同じだ。
サイヤンが何かを唱えると入口が壁に変わった。もう切れ目も何もわからない。
左の通路へ。確かに下り勾配になっている。
「この先に泊まれる場所があるのでしょうか」
「読んだ本ではそうなっていた。非常食等もある筈だと」
なるほど。でもさしあたって俺が欲しいのは。
「何か俺が着れる物があるだろうか」
「そこまでは僕も確認していないな。最小限の生活物資はあると書いてあったけれどさ」
遺跡全体の四分の一くらい歩いただろうか。外側の円周方向へ行く他、右側へ入って行く通路があった。
「ここは入口を隠していないんだな」
「ああ。こっち側は古代でも許可無く入れた場所らしい」
通路は幅三延位で天井までは二延ちょっと。ただしここから天井と壁が白色で艶のある金属のような素材になっている。そこまではあの神札が授与された部屋と同じだ。
曲がって一〇延程度歩いた場所の右側壁に他と違う質感の金属プレートが貼られていた。目の高さより少し低い位の場所で、プレートの大きさは長さ二〇短、高さ三短位。読めないが多分文字列と思われるものが書かれている。
サイヤンがふうっと息をついた。
「到着だ」
金属板に手を伸ばす。すっと壁の一部が消えて入口になった。
「話したい事は山ほどあるけれどさ。流石にもう疲れた。とりあえず一眠りして、明日ゆっくり起きてから話すことにしよう」
確かにそうだ。気になる事は山ほどあるが、俺もかなり疲れている。
「そうですね」
入口の先は部屋ではなく通路だった。幅二延くらいで、手前右横の壁に長さ二延、幅六〇短くらいのテーブル状の出っ張りがついている。
サイヤンがまたわからない言葉で何かを呟いた。そこそこ長い文章という感じだ。
テーブルの上に神札とほぼ同じ大きさの金属っぽい板が三枚出現した。それぞれ色が違い、オレンジ、黄色、水色だ。
「オレンジはエイラが、水色はアラダが持ってくれ。これを持ってこの先に進むと壁がカードと同じ色になる場所がある。そこを手で触れれば扉が開く仕組みだ。
中にはベッドやテーブルの他、トイレも簡単な風呂もある。窓は実際には外に通じていないが外の景色を映している。テーブルには簡単な食料と飲料、そしてアラダの部屋にはとりあえず用意できる範囲での衣服が置いてある筈だ。
時計は帝国のものと見方は同じだ。明日朝八時になったら連絡する。それまでゆっくり休んでくれ」
何というか……
「至れりつくせりですね」
エイラが俺の思った事を代弁してくれた。サイヤンは頷く。
「そうなるよう注文したからさ。この古代遺跡、予想以上にサービス精神旺盛で注文に応えてくれるようだ。トイレや浴室も間違えないよう扉に帝国語でそう書いてくれるそうだ。
実際この古代遺跡のトイレや風呂、帝国様式とかなり違うらしい。くれぐれも間違えないように。間違っても実害はないらしいけどさ、気分的に」
「何だそりゃ」
俺だけでは無い。エイラも意味がわからないようだ。そういう表情をしている。
「僕もわからないが、実際に見ればわかるらしい。それじゃそろそろ僕も疲れた。寝るぞ!」
サイヤンが黄色のカードを手に取り歩き出す。3延くらい先右側の壁の一部、カードくらいの大きさで黄色になった。
サイヤンはそこに右手で触れる。ふっと壁が消えて人が入れる大きさの穴が開いた。
「それじゃあとは明日だ。おやすみ」
サイヤンが入ると穴は閉じて壁に戻る。もう光った部分とか穴が開いた場所の痕跡は残っていない。
「何かわからないが、とりあえず真似するか」
「そうですね」
俺達はカードを手に取り前へと歩き出す。手前すぐの壁の一部がオレンジに、奥五延くらいの壁の一部が水色に変わった。
半信半疑で俺は水色の部分に触れる。一瞬金属っぽい感触がしたかと思うとふっと消え、目の前の壁が開いた。
中は白っぽい部屋。ベッドとテーブルの形は帝国のとほぼ同じだからすぐわかる。正面に窓があり、夜の森が見えている。右側壁は扉らしい場所がが三つあり、それぞれ『トイレ』、『洗面所』、『風呂』と書かれている。
テーブルの上にはピッチャーに入った水と、四角いクッキーっぽい食べ物が入った皿、そして白い衣服っぽいものが置いてあった。
とりあえず着用出来るか試してみて、それからトイレに行って、そして寝ることにしよう。疲れた。いい加減俺も限界だ。
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