第二〇目 神の目的

 いきなり強烈な事を聞いた気がする。何処まで自分の意思かわからず、操られている可能性があるだなんて。


 少し頭を整理して、そして気づく。


「でもそれは矛盾していないか。俺達には遺跡を探索させようとしていて、バタラ王子には俺達を邪魔させているというのは」


 天識により学長を操りサイヤンを遺跡に向かわせる。その上でバタラ王子を遺跡に向かわせ妨害させる。

 もしこの双方を同じ神がさせたのなら矛盾している。


「いや、必ずしもそうとは限らないんだ。神は往々にして矛盾する指令を出すようだから。

 だいたい神が矛盾なく世界を動かしているなら国は幾つもいらないだろう。


 この大陸には我がメクサネール帝国の他、ベルデド教国、テカスス連邦、エルスラ王国、フラリド共和国、ボニート連合と合計六か国もある。ごく小さい都市国家とか島嶼国家を除いてさ。


 神が最善手を一つだけ打つのならこんなに体制が違う国を作る必要はない。そう思わないか」


 確かにそうかもしれない。ただしそうだとしたら……


「神はすべての皇族、王族の家系を同じように支配しているのでしょうか」


 そう、エイラが言う通りの疑問が生じる。


「確かめる手段はないね。しかしそうだろうと僕は思っている。幾つか傍証もあるしさ。


 わかりやすいのは体制かな。国ごとに権力システムの形は違う。しかし結局は神からの指令を実行する最高権力者と、この世界を人としての目で観察して指示を下す全知との二重権力体制だ。これって偶然にしてはおかしいんじゃないか。


 あと神話なんてのもわかりやすい。どの国の建国神話も、支配者家の先祖たる建国者が神に誓っていたりするんだ。与えられた正しい体制を守り、国民を存続させていくと。


 他にもあるけれどさ。今の僕達にとって一番わかりやすいのはバタラだな、やっぱり。

 質問に答えられなかっただろう、二回聞いて二回とも。あれって自分以外の意志にコントロールされているって認めたようなものなんじゃないか?」


 もしそうだとするならばだ。


「なら神はわざと混乱させているのか?」


 サイヤンはかぶりをふった。


「いや。おそらく神は最善手がわからないんだ。だから幾つかの方法を同時並行的に試して、最善はどれかを知ろうとしている。


 そこそこ以上に大きい国が六つあるのもきっとそうさ。どの体制がいいのか試す為だ。だから全ての国は体制の形が違う。

 まあ実際は権力構造がほぼ同じだからそこまで結果的違いは出なかったのだろうと思うけれど。


 今回の神に見放される事案もきっとそう。何をどうしようとしているのかはわからない。しかし対処として幾つかの方法を同時並行的に実行させて試しているんだ。どれが最善手なのだろうってね。

 我々、遺跡調査の三名もその駒のひとつって事だ、おそらくは」


 サイヤンはわざとらしく肩をすくめてみせた後、更に続ける。


「ただすべて神の企てだなんて絶望する必要はない。だったらそれを利用して情勢を僕達の望む方向目指して動かしてやればいい。神が答えを知らないというのなら、僕達が望む方向を答えにするよう動くだけだ。


 神を畏れるな。利用しろ。まあ僕にかつてそう教えてくれたのが伯父上だったりするからその辺微妙に絶望も感じたりするんだけれどさ。まあ基本姿勢としてはそんなところ。


 以上、ここで僕が話すべき内容その一。バタラへの質問と、それに付随する皇族直系ならではの情報は以上だ」


 確かにそうだったなと俺は思い出す。この話は本来『サイヤンがバタラ王子にした質問の意味』だったのだと。


 サイヤンはスープの具をガシガシと一気に片づけ、スープを飲み干す。

 そしてパンにバターをたっぷり塗って三口ほどかじった後。


「さて、それじゃ僕が話すべき内容その二。書庫の古代文書を調べた結果について」


 そう言って、パンの残りを一気に口に放り込んだ。

 微妙に気になるので聞いてみる。


「大丈夫なのか、そんなに一気に食べて」


「問題ない。このパンはふかふかだからさ、こうやって思い切りよく食べた方が腹にたまりそうだ」


 どうやら今の食べ方が気に入ったらしい。サイヤンはパンをもう一個取り、またもバターをがっしり塗りたくって口の中に放り込んだ。

 今回はパンのおよそ半分までかじりとって飲み込んだところで口を開く。


「まずはあの遺跡に入るための神札についての学長の返答からだ。

 学長によるとそのような神札は少なくとも学園には存在しないそうだ。ファシア様もご存じないらしい。勿論学長経由で聞いた話だけれども」


 つまり学長やファシア様経由で神札を手に入れるという方法論はなくなった訳か。そう俺は理解する。


「そして神札を授与可能な他の神殿についての情報もファシア様はご存じ無いそうだ。全知で知る事が出来る範囲に無いか、単に学長がファシア様に知らされなかったのかはわからないけれどさ」


 サイヤンの口調はあくまで軽い。まあ皇族に関する話からはじまった先程の聞き様にとっては真っ暗な話であってもそうだったけれど。


 だから真意が何処にあるのかわかりにくい。そう感じるのは俺だけではないと思う。

 

 さて、聞く方が駄目なら書庫探索の方はどうだったのだろう。

 エイラが俺より先に尋ねた。


「それで書庫調査の方の結果はどうだったのでしょうか。あの遺跡に入る方法は見つかったのでしょうか」


「ああ、見つかった」


 サイヤンは頷いて、そして続ける。


「あの遺跡に入るための神札を授与してくれそうな入れる遺跡を確認出来た。その遺跡内で神札を授与してくれる部屋も古代書に書いてあった。

 遺跡の中へと入ってその部屋まで行けば、神札は問題なく授与されるだろう。そうすれば目的の遺跡に入る事も可能になると思う」


 サイヤンの口調に微妙な何かを感じる。何かある。隠している、もしくはまだ言っていない何かが。


「思った以上に早く見つかりましたね。半日程度しか調査していないのですけれど」

 

「資料そのものは体系だって揃っていたからさ。揃った形で発見されて書庫に持ち込まれたおかげのようだけれど。


 索引にあたる本を見つけた後は簡単だった。必要な部分を索引で引いて、該当部分を読めばいいだけだからさ。


 ついでに後で必要になるかも知れない部分まで調べさせて貰った。腹が減ったと気づいたらこの時間だった訳だ」


 それは流れとしてわかった。しかしサイヤン、おそらくは肝心な事をまだ言っていない。

 だからここは俺がつつかせて貰おう。いきなりではなく、それなりに順を追って。


「それでその、神札を授与してくれる遺跡へ行く方法はあるのか。その場所へ行けたとして中へ入れるのか」


「行く事は簡単だ。学長から貰った古代地図に場所が書いてあるからさ。古代魔法の移動魔法で行く事が出来る。入口が開いていて中に入れる事も確認した」


 怪しい。間違いなく怪しい。だから俺は更に追及する。


「それでその遺跡は何処にあるんだ。我が帝国なのか、それとも別の国か、それとも何処の国かわからない場所か」


「神札を授与可能な神殿は大陸内に最低一六箇所あるようだ。しかし現在まで遺跡として残っていて、かつ遺跡としての機能が残っていて、入口が開いているのは残念ながら一カ所だけ。古代魔法の遠視で確認したから間違いない」


 サイヤン、肝心な部分を言っていない。つまりそれだけ面倒な場所なのだろう。

 だがここで聞かないという選択肢は存在しない。


「それでその遺跡は何処にあって、どんな状態なんだ」


 サイヤンはふっとため息にも似た息をついて、そして口を開く。


「ベルデド教国だ。教国風に言えば『祝福の神殿』、それが目的の遺跡さ。

 国内の三歳児を集めて祝福の洗礼をするベルデド教国の最重要施設。そこなら入口は開いているし神札授与可能な部屋まで行く事も不可能じゃない」

 

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