第五話 敵の意思?
第一六目 二回目の探索
食事を終えた後。サイヤンは第五閉架書庫へ、そして俺とエイラは昨日と同じ偵察部隊用の軽鎧を着装。武器はエイラが昨日と同じ重魔法行使用魔法杖で、俺は突撃槍を選択。
「今回は長剣ではなく槍なのですね。ただその槍はゴーレム騎兵用と授業で習った気がします」
確かにエイラが言う通りだ。突撃槍は本来ゴーレム騎兵用。ゴーレムの脚力で高速で接近し大型魔獣に突き刺す為の槍。
重く、大きく、そして長い。本来は手で持つことは想定していない。ゴーレムのランスホルダーに装着し、手では上下左右に向きを操作するだけだ。全長が四延あるので建物内では持ち歩くのも一苦労。
しかし俺にとってはその重さ、大きさ、長さ、そして頑丈さが利点となる。
「これくらいごつい武器があるとマンティコアが出ても楽だ。剣だと折らないように戦う必要がある。その点これは何も考えないでいい。突き刺そうがぶん殴ろうが頑丈だからまず壊れない」
「普通の人なら両手で持つのがやっとの重さだと思うのですが……まあアラダなら問題なく振り回せるのでしょう」
その通りだ。俺は蓄力の天授により
どうやら納得して貰えたようだ。
「それでは移動します。場所は最初に移動した広場です」
軽い浮遊感の後。荒れ果てた風景の中に出た。空気がひんやりしている。
此処から遺跡までの木々が焼けて残骸となっている。また右側には木が倒れているのが見える。火災と爆発の影響だろう。
おかげで遺跡の形状がよくわかる。サイヤンが言っていたように円錐台だ。
「周囲二〇〇〇延には人はいないようです。ただし南側およそ一五〇〇延の地点に四級のゴブリンが三体。更にその西側三〇〇延地点に四級のゴブリンが二体います」
「つまり普通の森程度の状態か。それにしても明るいところで自分の目で見ると、かなり強烈な風景だな。自爆の威力は通常の爆発魔法より数段上のようだ」
火属性B適性くらいの魔法士が使用可能な爆発魔法はここまでの威力はない。クレーターが出来ても深させいぜい一延程度、爆発方向を制御しても森林を五延四方吹っ飛ばすのがやっとだ。
「自爆魔法は魔力の他に術者の質量も威力に転化使用します。ですので術者の資質にもよりますが、通常使用可能な爆発魔法のおよそ五〇倍から一〇〇倍程度の威力を発揮するとされています」
「あまり近づきたくないものだな。それじゃ遺跡の方へ歩いて行けばいいか?」
一応先導は俺がやろうと思う。エイラなら俺以上に周囲の魔力反応に敏感だろうからあまり意味はないかもしれないけれど。
「お願いします。遺跡についたら右側から回って下さい。ゆっくり歩く程度の速度でお願いします」
「わかった」
言われたとおりゆっくり歩いて行く。周囲は中途半端な高さとなった焼け残りの幹が所々に立っている。
この辺は最初に火炎魔法で焼かれた場所。だから枝や葉等、比較的燃えやすい部分は残っていない。水分が多く燃えにくい幹の太い部分だけが焼け焦げた杭のように立っているだけだ。
そしてこんな状況であってもこの舗装部分、上に焼け残りとか灰とかが落ちていない。間違いなく魔法的に処理しているだろう。確かに何らかの魔力は感じるが専門ではない俺にはどういう性質のものかはわからない。
三歩程歩いて気がついた。人に見られている気配がする。ただし近くからではない。遠視魔法を起動し、遠くから見ている者がいる。
「エイラ?」
「ええ、とりあえず回りましょう」
エイラは既に気づいていたようだ。だから俺も最大限の警戒はしつつ、前進する。
遺跡前に到着。気配は消えない。ただ動きもない。ただ見ているだけと感じる。
「右から回るんだな」
「ええ、お願いします」
気配を意識しつつ、右へと歩き始める。
こちら側は自爆兵四名が自爆した方向だ。森が既に他と違う状態になっている。倒れて上側の枝だけが燃えた樹木。明らかに他と違う臭い。そして木々すら無くなって穴が開いている地点。
穴の中には昨晩の雨水が貯まっている。それでも本来の地表から穴の中の水面まで、一延くらいの深さがある。なかなかに強烈な威力だったようだ。
しかしマンティコアはこの爆発に耐えたのだ。授業で大抵の魔法攻撃には耐えると教わったが本当のようだ。
だからこそ対抗策として突撃槍なんて大物を持ち込んだのだ。しかしエイラによるとマンティコア、今日は近くにはいないらしい。
出遭わなくて良かったのだろう。そうは思うが本気で身体を動かしてみたかった気がする。二級以上の魔物相手に戦ったのはまだ二回だけだから。
木も草も無く穴が開いている場所を通り過ぎ、木々が一方向へと倒れたりしている場所を通過。
遺跡の真西側を過ぎれば森はほぼ最初に来たのと同じ状態だ。勿論異臭その他細かい部分で違いはある。だが直接的には火炎魔法や自爆の影響をうけていない。
遺跡の南側を過ぎるとまた火炎魔法の影響が大きくなってくる。ほどなく最初の広場への分岐へと到着した。
「さて、どうする?」
そう言った直後、俺達を見ていた気配が動いた。周囲の景色が歪む。
咄嗟に歪み具合を視認。歪みの中心は俺の右側五延先の高さ一延地点。
突撃槍を振り回し可能な限りの速度で歪みの中心を突く。手応えがあった。しかし何かを貫いたという手応えでは無い。分厚い防壁で止められた、そんな感触だ。
直ちに突撃槍を引いて次の攻撃に備える。
俺が突いた歪みは薄くなりはじめた。転送なり移動なりを諦めたという事だろう。俺は全感覚を動員して周囲を探る。
魔力の揺らぎを感じた。やはり転送か移動の気配だ。しかし直接攻撃出来る場所ではない。遺跡を挟んで反対側だ。
ダッシュしても間に合わないだろう。
「エイラ、防げるか。俺は無理だ」
「私も無理です」
出現したのは人間だ。一人だ。ただしこの強そうな魔力に覚えがある。夕食時に出現した二人のうち一人、昨晩兵を連れて出てきたのとは違う方だ。
「英雄クラスです。撤退しましょうか」
「いや、様子をみよう」
そう返答した直後、伝声魔法で大陸共通語の声が入った。
『今は戦う気はない。話がある』
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