第二話 不明勢力の影

第七目 現地探索

 装備を調整して着装するまでおよそ一時間かかった。


「まもなく一六時だ。この付近での現在の日没はおよそ一八時だから二時間程度は大丈夫だろう。そこまでかける気はないけれどさ、今日のところは」


 確かに二時間かかるとは思わない。サイヤンの話では確か、それほど巨大な遺跡ではなかった筈だ。そこを一般の遠距離系魔法で確認出来る程度に回ればいいだけ。

 しかし一応再確認はしておく。


「遺跡は直径二〇〇延の円形でいいんだよな」


「ああ」


 サイヤンは頷いた。

 

「ぐるっと回って七〇〇延に足りない程度だ。全部を自分の足で歩いて回る必要すら無い。歩けない場所で目視可能な場所は移動魔法を使えばそれで済む。

 ただ連続で移動魔法を使うとけっこう魔力を消費する。だから歩ける場所は歩いて魔力を節約した方がいいだろう。


 それでは移動しよう。移動場所は針葉樹林の中、古代遺跡から五〇延東側だ。目標はとりあえず遺跡の周辺を一周すること。

 以上、質問や意見はあるか?」


 俺からは特にない。


「特にないな」


「私もありません」


 エイラも特に意見や質問は無い模様だ。


「なら移動しよう」


 ふっと景色が揺れる。景色とともに空気がひんやりした肌触りに変化。


 針葉樹林の中だ。ただし到着場所周辺の一〇延四方程度が石で舗装されている。石畳では無く一枚岩。継目や他の岩や石を組み合わせた痕跡等はさっと見た限りは無い。


 舗装部分は六延程度の幅で先へと続いている。その先正面には巨大な壁のような岩が見えた。木々に隠れて左右はわからない。


「あの壁みたいなのが遺跡か」


「ああ」


 サイヤンは頷いた。


「目視では木に隠れて見えない。だが遠視魔法を併用するとこちらの面から見た形がわかる。

 あと此処からなら僕の移動魔法でもさっきの別棟まで帰れるな。魔力的には二往復程度は可能そうだ。

 レイラはどうだ?」


 レイラは無表情のまま頷いた。


「移動可能です。あと報告です。周囲二〇〇〇延には人及び五級以上の魔物の反応はありません。また一八〇日以内に現在地を訪れた者がいないようです」


 エイラの魔法ではそこまでわかるようだ。

 無論それ以外の危険が無いとは限らない。それでも人や魔物に対しての警戒が必要ないというのは大分気分が楽になる。


「流石だな。僕だと八〇〇延位までがやっとだ。それに過去の魔力蓄積確認なんて授業ではやらないだろう」


「理論上は難しくはありません。周辺の植物及び土壌に残る魔力の付着や堆積を確認するだけです」


「僕には無理だな。そういった魔力痕なんて微少すぎて普通は感知出来ないだろう」


 サイヤンでも一応は優等生の範疇に入る筈だ。その奴にそう言わせるとは。やはりエイラの実力はとんでもない模様。


「それじゃ遺跡へ近づくとしよう。アラダ、先頭は頼む。僕は二番目でアラダの前に罠その他が無いか見ながら行く。

 エイラはいざという時に供えて魔力を温存してくれ。使うなという意味じゃない。全員で別棟に帰れる程度に残してくれれば十分だ。余裕があれば遺跡を魔法で調べて入口になりそうな場所を探してくれ」


「わかった」


「わかりました」


 魔物がいないのはわかっている。それでも用心のため剣を抜いた状態で前進開始。


 下が平らに舗装されているので歩きやすい。おまけに舗装面の上に草が蔓延っていたり土が被っていたりなんて事もない。不自然なまでに綺麗な道だ。

 ただそれが逆に気になる。舗装面が綺麗すぎるのだ。これは聞いてみた方がいいだろう。


「土が被ったり草が生えたりしていないのは魔法か?」


「おそらくそうでしょう。種類は不明ながら何かしら魔法が起動している気配があります。継続発動型の古代魔法だろうと思われます。サイヤンはわかりますでしょうか」


「わからない。ただ危険な感じはしないから大丈夫だろう」


 とりあえずはサイヤンが言った事を信じよう。俺は先へと警戒しながら歩いて行く。

 この舗装、他にも不自然な部分がある。石のつなぎ目や合わせ目が全くない。つまりは一枚岩状態なのだ。


 土属性魔法を使えば土から岩を生成する事は可能だ。だから理論上は巨大な一枚岩なんてのは作れなくはない。しかし石畳を組み合わせるのと比べると遙かに手間や魔力が必要になるだろう。


 こういう造りにしているのは何か理由があるのだろうか。それとも古代遺跡時代には今より遙かに強大な魔力を行使出来たのだろうか。


 そんな事を考えながらも俺は警戒しながら歩いて行く。魔物はもとより動物等の気配も少ない。いるのはそこここの木の下に穴を作って潜んでいるネズミくらい。


 生えている樹木の種類はタクシフォリアだろう。出身の農業許区や学園の森に生えているのと同じだ。俺にとっては珍しい樹木ではない。


 先程見えた壁、遺跡の外側が近づいてくる。

 警戒しながらの足取りでもあっさりと到着した。エイラが遺跡外壁を見て何か魔法を起動する。


「この遺跡の外壁は、少なくとも表面は今までの舗装と同じ材質です。魔法的に触れても反応はありません。

 成分そのものは周辺の土と同じです。しかし不明な魔法で構造と密度を大きく変えている他、表面処理で色を変えているようです」


 つまり魔法で作ったもので確定だ。エイラの分析によると。


「そういった分析は真似出来ないね。土風火水の基本四属性に命、金、空の合成属性3つ全部をA適性で使いこなすなんてのはエイラくらいだろ」


「それでも光と闇はまだ使えません。あと先程から古代遺跡、可能な範囲の精密表面探査を試みているのですが、今のところ破綻点は見当たりません。つまり出入口の可能性が高い不連続面は発見できていません」


「ありがとう。引き続き調査を頼む。遺跡本体だけでなく周辺、舗装や木々の配置からわかるかもしれない。僕も調べてはいるけれど」


「わかりました」


 歩きながらこういった調査が出来る魔法使いはそう多くない。

 ① 歩行するのに必要な注意力と意識を保持したまま

 ② 対象物を把握して分析に使用する魔法を起動し

 ③ 出てきた結果を考察する

作業を同時に行う必要があるからだ。


 しかも通常の魔法使いの場合、使用可能な魔法属性は一人につきせいぜい二~三属性。当然分析が可能な魔法属性も同じ。


 しかしこういった探索は往々にして複数の属性が必要になるらしい。土や岩をベースにした建物なら土属性が必須だし、隙間等を確認するには風属性があると楽というように。


 エイラのように光と闇を除く全属性にA適性があり、魔力も平均の数倍というのは滅多にいない。それは帝国の選良が集まる第一学園であっても。


 サイヤンも使える属性は多い方だ。しかし奴の場合、あくまでメインは風属性と土属性、そしてこの二属性の合成属性である空属性の三つ。


 水属性はあまり得意では無くC適性。火属性、及び水と土の合成属性である命属性は軽い怪我や毒分解が出来る程度のD属性、火と土の合成属性である金属性は使えなかった筈。


 俺自身に至っては命属性、それも自分を対象に起動するものしか使えない。これは天授のせいだから仕方ないのだが。


 ◇◇◇


 遺跡の周囲も同じように幅六延の舗装がされていた。だから警戒しつつ歩いても三〇分もしないうちに一周してしまう。

 俺の目には何処も同じように見えた。周囲の針葉樹林を含めて特異な変化を見つけられない。


「すみません。入口らしきものは発見出来ていません」


 エイラも見つけられなかったようだ。

 俺も一応報告しておこう。


「俺もそれらしいと感じた場所は無かった」


 サイヤンは頷いた。


「僕も見つけられなかった。しかしまあ当初の目的は達したし、今日はこれでいいだろう。今後は行き帰りや周囲の調査に普通の移動魔法が使える。

 あと一時間もしないうちに暗くなる。今日は一度戻って、別棟の方の確認をするとしよう」


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