第一話 今日の方針
第五目 今日の方針
はあっ、サイヤンが本日何度目かの大きくため息をついた。どさっとソファーにべたっともたれかかるよう座り直し、アイテムボックスからビスケットを出してカリッと囓る。
「面白い事にはなったが疲れるな。腹の探り合いなんてのは」
「それにしてはやたら饒舌だったな」
サイヤンは時と場合によっては結構饒舌だ。ただし今回は普段と態度や口調がかなり違ったなと感じる。一人称も私になっていた。
ただしサイヤンはこれでも皇族だし頭も回る方だ。口調や言葉遣いをその場に応じて変える位は出来て当然。
目の前でやられると違和感たっぷりではあるのだけれど。
「僕だって必要とあらば饒舌にも横柄にもなる。何せ基本的には文弱だからさ。少しでも有利な条件を獲得しておかないとあとで詰みかねない。
あとエイラも楽にしてくれ。面倒なのは消えた。監視魔法の類いがかかってないのはエイラの方がわかるだろう」
「ええ。ですが殿下の御前ですから」
そういえばサイヤンは殿下だった。俺は二人の時はほとんどそう意識しないようになってしまっているけれど。
「第三以下の皇子なんて実質的には殿下じゃない。それはエイラも知っているだろ」
「国に捧げる生贄としては有用では?」
エイラ、なかなかエグい表現をする。先程の『卒業後は長生きできそうに無い組み合わせ』を受けての言葉なのだろうか。
「それはここにいる三人とも同じだ。基本的に身分が高いとされるほど選択の余地が無くなる。アラダもこちら側へ来てしまったからわかるだろう、特例奨学生なんて制度で。自由とは隷属なのさ、この国では。
それでは探索するにあたり、もう少しぶっちゃけた話といこう。学長の依頼や今回の遺跡についてわかる限りの情報とか」
エイラが頷いた。
「学長の言葉に嘘がない事は真偽魔法で確認済みです。つまり、
① 天識の天授で古代遺跡探索という選択肢を知った
② 古代遺跡についてはこの地図以外の事は知らない
③ 天知であるファシア様と連絡及び許可をとっている
以上は事実と判定します」
なるほど、学長の言葉を思い出す。
『何なら真偽魔法で確認してくれてもいい。今は対抗魔法を使用していない』
その結果がこういう形で信用となる訳か。
「それじゃ次は僕からだ。この遺跡はここから西に三〇〇
遺跡の周囲は針葉樹林だ。見える範囲には人家や集落等は見当たらない。
大きさは敷地的には直径二〇〇延の円形に見える。外観は円筒の上に円錐台が乗ったような形状だ。素材は遠方からぱっと見た限りでは石か金属か判明しない。
今わかるのはそんなところだ」
「この遺跡をご存じなのですか?」
エイラが驚いたような口調で尋ねる。サイヤンはかぶりを振ってそれを否定した。
「いいや、知ったのは此処へ呼ばれた後だ」
「ならば何故わかるのでしょうか。遠隔系魔法、遠視魔法や移動魔法は術者が知らない場所へは起動できません。
仮に移動魔法が使えるよう把握出来たとしても、方向や正確な距離はわからない筈です」
サイヤンはエイラの言葉に頷く。
「移動魔法、遠視魔法、転送魔法ともに術者が実際にその場に行って認識した場所、または現に視認できる場所以外には効果がない。それは目的の場所を自分の記憶や経験から割り出しているから。普通の魔法ならその通りだろう」
サイヤンの言う通りだ。移動魔法を使えない俺でも基本的知識として知っている。
エイラも頷いた。
「ええ。しかし古代魔法は違う。そういう事でしょうか」
「ああ、そういう事だ。話が早くて助かる」
サイヤンは頷いて、そして続ける。
「古代魔法の場合、具体的には目的の場所の指定方法が異なる。本当は他にも大分異なるんだが、それはおいおい話すとして。今回の肝はこの地図の、この部分だ」
サイヤンは先程学長が地図上で指した場所直近に書かれた記号らしきものを指した。
俺には意味がわからない記号群。しかし話の流れからそれが何かは想像がつく。
「古代文字か? これは」
「ああ。数値を表す古代文字だ。古代は数値を使って場所を指定していたらしい。古代魔法でもこの方法を使う」
「つまりこの文字で示した内容を理解出来れば、術者が行ったことがない場所であろうと古代魔法なら移動や遠視が可能という事でしょうか」
「その通りさ」
サイヤンは頷いて、そして続ける。
「他に現在地を示す数値を求める魔法とか数値から地図上の位置を求める魔法なんてものもある。これで求めた数値を使えば今いる場所が地図上では何処なのかがわかるという寸法だ。例えば今いる場所はこの辺で、学園の許区はこの辺だ」
学長がテーブル上に置いていった地図上をサイヤンは左右の人差し指で示す。学園本来の許区は地図上の右上側にある小さな緑色の塊部分で、今いる場所はその左下にある緑色の塊部分。
そして遺跡の場所はやはり地図の右上側だが、学園本来の許区や今いる場所から左少し上に行った場所になるらしい。
ただし俺がこの地図を見るにあたって、重大な問題がある。
「この地図はどうやって見ればいいんだ? それぞれの色の意味が俺にはよくわからないんだが」
サイヤンめ、明らかに苦笑という表情を浮かべやがった。
「そうか。考えてみれば当然か。地図は禁止知識だし軍事演習での地形図はこうやって色で描かないしさ。
まずこの青いのが海だ。この辺の青いのは湖でこの青い線は川。まあ青系統は水を示してると思ってくれ」
なるほど、そうやって見ると何となく意味がわかってくる。
「つまりそれ以外の部分が大陸なり島なりって事か」
「ああ。学園やここの別棟は島にあって、帝国やベルデド教国はこの大陸にある。この大陸の何処にあるかは不明だけれどさ。あと上が北で下が南、右が東で左が西だ。僕の方から見ると、だけれどさ」
なるほど。ただ地図上の位置がわかっても不明な事がある。
「此処や学校許区は当然帝国内だろうけれどさ。遺跡のあるこの場所は帝国内なんだろうか」
「そこまでは僕にもわからない。この古代地図には国境は書いていないからさ。わが帝国の地図だの国境線の位置なんてのは皇位継承権十三位程度じゃ知るべきとされていない」
「そうか」
つまり調査対象の遺跡は他国領域という可能性もある。学長に確認しておけばよかったなと思うが後の祭りだ。
国境に関する事だから教えてもらえなかったかもしれないし、学長自身知らないという可能性もあるのだが。
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