第三目 依頼の内容
「神に見放されるというのはどういう意味ですか」
サイヤンの言葉に思わず俺は頷いてしまう。学長が言った言葉がどのような意味を持っているのか、俺には理解出来なかったから。
しかしサイヤンは本当はわかっているのかもしれない。わからないふりをして学長に説明させようとしているだけという可能性がある。
それ位は出来るしやる奴なのだ。その気になればだが。
なおエイラは黙って座っているだけに見える。反応があったのは別棟という言葉が出たときと真偽魔法の話が出た時だけ。
俺に至っては一言も発していない。エイラと違って表情や態度で反応してはいるだろうけれど。
結果、会話はサイヤンと学長の間で続いていく。
「そこまでは天識は教えてくれなかった。ファシア殿によると全知でもわからないそうだ。ニュアンスから天授を与えてくれなくなるというだけでは済まないように感じたそうだが。
しかしそれだけであっても大事だ。天授を失えばこの国の組織が大幅に弱体化するだろう。おそらく他の国も同様だ。
故に私は天識にて答を求めた。神に見放されずに済むにはどうすればいいかを。結果、幾つかの方法を知った。
そのひとつが古代遺跡に調査隊を派遣する事。その古代遺跡の場所は図書館の閉架書庫に収納されている地図に記載されている。そこまで天識によって知る事が出来た。
それがこの依頼であり、この地図だ」
神に見放されない為に、古代遺跡に調査隊を派遣する。因果が全然繋がっていない。何故そうするのか、それにどういう意味があるのか、俺には理解出来ない。
しかし学長がそこを理解出来ているかは不明だ。理解しているにしろしていないにしろ、『天識によって知った』で済まされてしまう気がする。
あと先程から話に出てくるサイヤンの天授、これが何か全くわからない。移動手段に関わるような事を言ってはいた。しかし俺の頭では話と上手く結びつかない。
「もしそうならば国に協力を求めるのが普通でしょう。あえて協力を求めず独断で行うのは何か理由があるのでは。そう疑わざるを得ません」
サイヤンの言っている事はもっともだ。なおエイラは相変わらず何も反応しない。ソファーに座ったまま、無表情で学長の方を見ているだけ。
「神に見放されずに済む方法を幾つか知った。そう私は言った筈だ。つまり方法は他にも存在する。
帝国は私が選んだのとは別の方法を選ぶだろう。そして他国はまた別の方法を。しかし国によっては我々と同じ方法、つまり遺跡探索をこちらより先に成功させようとする可能性がある」
「遺跡探索は競争となるのですか」
「その可能性があるという事だ」
学長は頷いて、そして続ける。
「その上、他の方法とも競争となる。何故なら他の方法のひとつとして、『他国を倒して大陸を統一する』というものがあるのだ。
ベルデド教国がこれを選ぶ事は天識及び天知で判明している。おそらく数日で戦争が激化するだろう。他国の都市・政庁探索戦も、国境域における直接戦闘も。これらが激化する前にこちらの対策をある程度は進めておきたい」
戦争は今も継続中だ。国境域とされる地点では常に睨み合いと小競り合いが続いている。
国境の警戒が薄い部分から連続魔法移動で敵国の地理的情報、都市や重要施設の位置を探る探索戦も継続的に行われている。
戦争が始まって既に一〇〇年以上、既に国境に物理的距離が近い許区は全滅状態らしい。あくまで噂で事実は不明だし、そもそもそういった地理的情報は一切公式発表はないのだが。
「我が国はどういった対応を取るのでしょう」
「それは言えない。だがファシア殿は皇帝が決めるその方針に賛成ではない。故に我が計画に協力してくださっている」
国の方針、及び遺跡調査と大陸統一他の方法については知らせないという方針のようだ。
一方でファシア様の協力は本当だろう。エイラの真偽魔法が発動中だろうから嘘は言えない。
ただしこれは『ファシア様が協力してくれている』と学長が信じている事が担保されているだけだ。ファシア様が本心から協力しているのか協力しているふりをしているのか。その辺は定かではない。
「戦争の激化によってこの学校に学徒出陣が要請される可能性は?」
「帝国に関しては気にせずとも良い。ベルドレイ教国の人口は帝国より少ない。その上ベルドレイ教国の戦法は兵力を他国より消耗する。
他国については現在以上に兵力を出す余裕はない。これは私だけの意見ではない。ファシア殿もそう見ているそうだ」
これも真偽魔法で確認が可能だ。だから嘘ではないだろう。
「ただしベルドレイ教国が積極的攻勢に出ることが確実である以上、放置してはいずれ街か政府施設が壊滅的な被害に遭うだろう。そのような被害を出す前に、遺跡探索により成果を出す事が望ましい」
遺跡探索の成果によって戦争の激化を防ぐか。
この因果関係はやはり理解出来ない。まあわからない事はサイヤンが確認するだろうけれど。
「遺跡探索の成果がどのように戦争を止めるのですか」
予想通りサイヤンがその質問をした。
「探索によって何かしらの力を得る事が出来るようだ。しかしそれが何かは天識でも、ファシア殿の全知でもわかっていない」
なるほど。これで大体の理屈というか構図は理解出来た気がする。
① 天識でこのままでは神に見放されるという情報を得た
② 動かなくては、少なくとも天授という能力がこの国から消失する可能性が高い
③ 更には戦争で多大な被害を受ける可能性がある
④ これらを防ぐ為に、どう関係があるかわからないにせよ、古代遺跡の探索を行うしかない
とまあこんな感じだ。
「取り敢えず、何故遺跡を探索するのかという理由と状況は理解しました」
サイヤンもそう判断したようだと俺は感じる。
「さて、それでは次の話だ。今回の目標となる古代遺跡はこの古代地図上では此処となる」
学長は地図上の×印が描かれた場所のひとつを指で示した。図では中央から見て右上に当たる位置で、よくわからない記号が幾つか記されている。少なくとも俺が知っている文字や一般記号ではない。
「サイヤン君ならこれを見るだけで、私が言った事の幾つかが真実である事を確認出来るだろう。例えばこの地図が真正なものである事。そしてこの地点に古代遺跡がある事が」
帝国では地図は禁止されている。この国の地理について、大きな大陸に存在しているという以上の事を一般国民は知るべきではないから。
故に地図を読むという知識はない。だからこの図が何を示しているのか、何処から何処が帝国なのか、俺にはわからない。
しかしサイヤンは地理についてそれ以上の事を知っているようだ。この地図が何処を表しているのかも、地図上の表記の意味も、そして今学長が指した未踏の筈の古代遺跡があるとされる場所の位置の読み方も。
「なるほど、確かに遺跡は現存するようです。移動も可能でしょう」
何故そういう結論になるのか俺にはわからない。行った事が無いなら移動魔法は使えない筈だ。
それともその遺跡がここから歩いて行ける範囲という意味なのだろうか。更に別の意味があるのか。
サイヤンの天授が関係しているだろうとは想像出来る。しかし今はそれ以上はわからない。
「そして未踏の遺跡へ行くという事であれば、サイヤン君はむしろ積極的に参加してくれるだろう。今まで言った理由があろうと無かろうと、そこに古代遺跡が未踏のまま眠っているとわかれば。違うかね」
これは天識でわかったのだろうか。俺にはわからない。
サイヤンはまたわざとらしい大きなため息をついた。
「認めます。ただし私を遺跡に行かせた事で生ずる結果については甘受していただきます。それは宜しいですね」
「それもまた神の意なれば」
この会話もどんな意味があるのか俺にはわからない。そしてエイラも全く反応していない。俺と同様わかっていないのか、それとも何かしらわかった上で反応しないのかは不明だが。
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