第42話 瑠璃の日記 Ⅰ

 4月△日


 今日から日記を書くことにしました。別になにかあった訳じゃないけど、中学二年生にもなったし、そういう習慣があっても良いのかなって思ったから。


 毎日は無理だろうけど。書きたいことがあったときだけ書きます。


 まずは何について書こうかな。


 お兄ちゃんについて!


 私のお兄ちゃんはちょっと変わっている。すごく無口で不愛想。不愛想は違うかな?家族だから分かるけど愛想が悪いわけじゃないと思うの。表情の動かし方が分かってないだけかも。あとたまにボーッとしている。どこか一点を見つめて固まっているときがある。異世界にでも行っているのかも。


 でも女子にはすごくモテる!なぜかモテるの!体は大きいし、空手とかやってるからガッシリしてる。話してみると意外と可愛いとかで、ギャップ萌え?とかでモテるらしい。本人はあまり気付いてないっぽい。鈍感系主人公?って言うらしい。




 9月△日


 初めて告白された!ヤバい!


 隣のクラスの永井君に付き合ってほしいって言われたの!でも永井君は佐伯さんと付き合ってたはず。だから「佐伯さんは?」って聞いたら、もう別れたから大丈夫とか言ってた。なにが大丈夫?


 なんかすごくイヤな感じがしたから断った。佐伯さんのことがなくても断ったと思う。永井君とはあんまり話したこともないし。下の名前すら知らない。


 友達には、永井君モテるのにもったいないって言われた。知らんがな。




 4月△日


 今日から中学三年生!受験だって、なえるわ~。勉強はきらい!勉強しなくてもいい高校にしよう。美容師の学校?専門学校?とかでも良いかも。




 7月△日


 運命の人に出会った。


 今日、友達の付きそいで私立高校の説明会に行ったの。その帰りにその人はいた。


 バスでお婆さんに席をゆずってた男の子。すごく可愛くてやさしくて、アメをもらってそのお婆さんと笑いながら食べてた。なんだかその人の周りだけ柔らかい感じがした。バスの中でずっとその人を見てた。目が離せなかった。


 恋っていまいち分からなかったけど、これが恋に落ちるってことなんだと理解した。理解させられた。


 でもどうしよう、その人の名前も通っている学校も知らない。もう二度と会えないかも。名前聞けばよかった!泣く。




 7月△日


 ルリはひらめいた!あの高校の説明会に来てたんだから、私があの高校に進学すれば同級生になれるってことじゃん!天才!


 でもあの高校は偏差値高すぎ。今の私では絶対ムリ。じゃああきらめる?NOー!勉強する。今からガンバレば何とかなる!ガンバレ私!




 7月△日


 勉強はたいへん。疲れる。


 夏期講習を受けることにした。お母さんに言ったらすごくビックリしてた。そりゃそうか。今まで勉強なんかしてこなかったもんね。


 担任の道瀬に城南高校を受験したいって言ったら、即やめとけって言われた。ひどい。


 見てろよ!夏休みは勉強以外しないぞ!


 でも見たいアニメだけは別。




 9月△日


 城南高校に行くと親に宣言した。お母さんは応援してくれた。お父さんとお兄ちゃんは、ヘーって顔してた。あとで泣かす!




 12月△日


 ひたすら勉強勉強。初めは反対していた道瀬も応援してくれるようになった。昔のことは許してやろう。


 お母さんの夜食が楽しみ。きのうは天ぷらうどんだった。勉強も良いもんだ。




 3月△日


 城南高校の受験だった。


 私はあの男の子が来てるか心配で必死に探した。一瞬だけ違う教室に入っていく男の子を見ることができた。テンション爆上がり!覚えた英単語、軽く30個が頭から消えた。




 3月△日


 無事合格!合格発表を見に行ったけど、あの男の子には会えなかった。自分の受験番号を探しているときは心臓が飛び出るくらいドキドキした。




 4月△日


 私立城南高等学校入学式


 あの男の子がいた!!見つけたときは飛び上がって叫んでしまった。周囲から変な目で見られた。でもそんなことはどうでもいい。私はやった!


 違うクラスで残念だったけど、知り合うチャンスはある。三年間の間に絶対私のことを好きになってもらうんだ!頑張れ私!




 4月△日


 男の子の名前判明!須崎浩太くん♡


 そっかー、私将来は須崎瑠璃になるのかーエヘッ。




 5月△日


 高校で仲良くなった女の子グループの一人が須崎くんと同じクラスだった。積極的に仲良くなった。不純?打算?


 須崎くんは部活に入る気ないみたい。一緒の部活に入って仲良くなる計画が崩れてしまった。




 6月△日


 どうしよう、後藤さんが須崎くんのこと好きだって。後藤さんは可愛いし頭も良いし胸も大きい。私に無いもの全部持ってる。


 でも負けたくない。私の方が先に好きになったし、想いの強さだって私の方がずっと強いはず。でもどうしよう。




 6月△日


 私は最低だ




 7月△日


 噂がどんどん大きくなっている。須崎くんが中学時代に彼女を妊娠させて堕ろさせていたってことになっていた。


 私が流したのは中学の頃から付き合っている子がいるって噂だけだったのに。須崎くんに迷惑かけてしまった。




 7月△日


 妊娠の噂は間違いだって、いくら否定してもダメだった。一年の女子で知らない人はいないくらいに広がってしまった。


 後藤さんもそれを聞いて告白するのは止めたそうだ。むしろ顔も見たくないとさえ言っている。複雑な気分になった。




 9月△日


 後藤さんのクラスに遊びに行った。須崎くんをチラチラ見てしまう。須崎くんはいつも一人でいる。噂の影響だろう、本当にごめんなさい。


 誰かに相談したいけど、誰にも相談できない。こんなことなら噂なんて流さなければよかった。後藤さんと須崎くんが付き合うのを我慢すればよかった。




 9月△日


 成績が超低空飛行。勉強してないもんな。てか、手につかない。




 10月△日


 文理選択に悩む。須崎くんはどっち?




 10月△日


 須崎くんは理系を選択するみたい。私も理系にする!数学さっぱりだけど!


 そしたら二年で同じクラスになる可能性が上がるよね。




 12月△日


 廊下で須崎くんとすれ違った。俯いて歩く須崎くんに声がかけられなかった。噂のこと、もう知っているよね。




 4月△日


 今日から高校二年生。須崎くんとはまた違うクラスだった。後藤さんはまた同じクラスになった。本当はあの二人が運命の糸で結ばれていたのかもしれない。私が切ってしまったのかも。


 今からでも噂のことを全部後藤さんに話せば……無理、そんなことできないの分かっている。卑怯で最低だけど、須崎くんの隣には私が立ちたい。


 自分がこんな嫌な女だって知らなかった。




 12月△日


 お兄ちゃんに「何か悩んでいるのか?」って聞かれた。意外と鋭い。でも言えなかった。あなたの妹はこんなに卑怯な女ですよって……




 3月△日


 もうすぐ三年生になる。


 今度のクラス替えで私が須崎くんと同じクラスになれず、後藤さんと須崎くんが同じクラスになったら、洗いざらい全部二人に白状しようと思う。


 だってそれって、運命の赤い糸はあの二人が繋がっていたってことだもんね。でも嫌だな、二人に嫌われるのは。

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