第31話 疎外感

「キャーッ!」


「おぉっ!」


 箱型の乗り物に乗っていたら、いきなり恐竜が現れたのでちょっとビックリした。子供向けのアトラクションだと油断していたよ。ちなみに俺は後部座席。運転席と助手席に琴美と時川さんが乗っている。


 この遊園地は小さな子供でも楽しめるアトラクションが多いので、琴美も楽しめるはずだ。


「琴美ちゃん、次はどれにしようか?」


「えーと、これ!」


「いいねぇ!行こ!」


 手をつないで早歩きの二人。琴美は人見知りな子だと思っていたのだけど、場所が遊園地だからか、テンションが上がってすっかり時川さんと打ち解けている。


 とても良いことだ。良いことなんだが琴美、後ろにいる俺のこと忘れてない?さっきから視線すら合わないのだけど?



「琴美ちゃん!そこっ!」


「キャーッ!えいっ!」


 銃で悪い奴らを撃ちまくり、天才的な射撃センスを披露する琴美、すっごく楽しそう。


 そしてここでも俺は後部座席。前に座った二人の楽しそうな後ろ姿を、俺は銃を構えたままぼんやり見ている。


「琴美ちゃん、お腹すいた?」


「すいたー!」


「じゃあ~お姉ちゃんお勧めの店に行こう!」


「行こ~!」


 タッタッタッて走り出しちゃったよ。琴美ぃ~頼むから少しは振り向いてくれよぉ……。



 時川さんが案内してくれたのはバーベキューハウス。何も用意しなくても手軽にバーベキューが楽しめるとあって、園内でも人気のレストランだった。



 ジュ~ッ!


「おぉっ、けっこう本格的だな」


 時川さんが予約していてくれたらしく、待たずにバーベキューを始められた。肉を焼く匂いに食欲をそそられる。


「パパ、はやくはやく!」


「ハハハッ、まあ待て待て。もう少しちゃんと焼いてからだ」


 バーベキューと言えば父親の出番。ここまであまり存在感がなかった俺の見せ場!ジューッと焼かれている肉に、琴美と時川さんの視線が離れない。


 ジュ~ッ!


 しっかり両面焼いて~ハイッどうぞ!それぞれの皿に焼けた肉や野菜を置くと、待ってましたとばかりに食べ始める二人。満面の笑みだ。あぁっ、俺は満足だ!


 おっと、のんびりしてられないな、スペアリブも焼かなくては。


 ジュジュ~ッ!


 骨付き肉に肉食系女子二人も視線が釘付けだ。ここはひょっとするとアトラクションより楽しめる場所なのではなかろうか?もう今日はずっとここにいても良いのでは?などと考えながら俺は焼き続けた。




「よーし、じゃあ次はこれにしようか?」


「いいよー!」


 食事が終わると、二人はまた手をつないでアトラクションに走って行く。それを後ろから追いかける俺という構図。


 遊園地のパパは皆こんな感じなのだろうか……お義父さん、俺、今こそお義父さんと酒を酌み交わしたいです。琴美に相手をされず、寂しそうにしていた岡山のお義父さんの顔が脳裏にチラついた。



「パパー!」


 ゴーカートに乗って俺に手を振ってくれる琴美が尊い。二人乗りのゴーカート、当然のように助手席に座っている時川さんも楽しそうだ。俺も手を振り返す……外から。



「琴美ちゃん、次はアシカショーだよ!」


「あしかー!」


 琴美、お前ノリで返事してるだろ。アシカが何か分かっているのか?


 実物のアシカを見た琴美は、その大きさに驚きながらもショーを楽しんでいた。次は水族館もいいな。




「あ~たのしかった!また来ようねパパ!」


 その後も色々なアトラクションを思う存分楽しんだ琴美は、遊園地からの帰りに弾けるような笑顔を見せてくれた。あぁ、天使がここにいる。


 あれ?そう言えばパレードなかったな……まあ良いか。


「そうだな、また来ような。次は水族館に行こうな」


「すいぞくかん!」


 テンションが上がっているからか、またしてもノリで返事する琴美。


「時川さん、きょうは本当にありがとう。琴美も大満足のようだし、助かったよ」


 途中で疎外感を感じたけども!ゴーカートに琴美と乗れなかったけども!


「いえ、琴美ちゃんが楽しめたなら良かったです。私も楽しかったですし」


 会社とは違うリラックスした表情で答える時川さん。ええ子や、俺のポジションを奪ったことは許したる。


 帰りにファミレスで晩飯。琴美と時川さんは仲良くハンバーグステーキ、俺はシーフードのトマトクリームパスタ。君たち、昼あれだけ肉食ったのにまた肉なの?



 けっこう遅くなったので、時川さんを家まで送った。相嶺さんとの件を家族に話していたみたいで、家から出てきた時川さんのお母さんにやたら感謝されて少し困った。



 午後8時にようやく帰宅。あ~疲れた。でも仕事の疲れとは全く違う、心地よい疲れだね。


 家に着いたときには既に電池切れかけの琴美を風呂に入れて寝かしつける。ホットミルクを用意して瑠璃が来るのを待つ。



「お疲れさま」


 パジャマ姿の瑠璃がリビングに入って来た。


「いやホント疲れたよ。遊園地があんなにハードな場所だとは思わなかった」


「でもけっこう楽しんでたじゃん?時川さん、やっぱり良い子ね」


「まあね、でも本当は瑠璃と琴美と三人で楽しみたかったんだけど」


「いいじゃない。琴美も本当に楽しかったようだし。時川さんに感謝しないと」


「まあたしかに俺一人だと、琴美をあそこまで楽しませてあげられなかっただろうし」


「……ねえ、時川さん、本気で考えてみたら?」


「またその話?時川さんはこの間のお礼で来てくれただけだから、変に勘違いしたら今度は俺が彼女のストレスの原因になってしまうよ」


「んなことないって!コウくんに好意がなければ、いくら石野さんから言われたとしても遊園地には来ないから!」


「そうかなぁ……」


「私はだと思うよ?琴美も今日一日ですっかり懐いたみたいだし」


「ん~……まあ考えとくよ。でも今日は琴美の笑顔でお腹いっぱいだから、何も考えたくないな」


 ちょっと無理矢理に話を終わらせた。正直、俺は今のままが良いんだけれどな……。

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