第20話 失礼すぎる二人

 竜二さんの車は、意外と言えば失礼かもしれないが流行りのSUVだった。勝手な印象でアメリカンなピックアップトラックとかだと思っていた。なんかゴツイ感じで似合うかなって。


 助手席に瑠璃、後部座席に俺が座っている。車内はスローなジャズが流れていた。これは竜二さんのイメージにピッタリだな。



「婚約した」


「へぇ~……はぁっ?!婚約?お兄ちゃんが?」


 走り出してすぐ、竜二さんの爆弾発言が飛び出した。瑠璃も取り乱している。後ろで聞いてた俺もビックリして前傾姿勢になった。


「お兄ちゃん大丈夫?結婚ってね、生きてる人としか出来ないんだよ?いくら見えるって言っても死んでる人とはダメだからね」


 瑠璃が竜二さんを心配して、世間の常識ってものを諭し始めた。


「待て瑠璃、さすがに失礼だろ。竜二さんだってそれくらいは分かっていると思うぞ。ですよね?今のは冗談か何かでしょ?いくら竜二さんでも死んだ人間と結婚しようとは思わないですよね?」


 俺はすかさず竜二さんをフォローした。義弟の俺が兄の威厳を保ってやらなければ。


「……二人とも失礼すぎる」


 憮然とする竜二さん。おかしい、フォローしたつもりだったのに。


「ちゃんと生きてる人だ」


 おっと、生きてる人だった。これは瑠璃が悪いな。


「お兄ちゃん、結婚願望なんてあったの?」


 まだ半信半疑の瑠璃、驚きすぎて竜二さんを見る目がまん丸になっている。


「一昨日、お前に言われたからな」


 早く結婚して安心させてあげなさいよって瑠璃言ってたな。それですぐ婚約とか、素直だな竜二さん。


「私に言われたから結婚することにしたの?」


「いずれしようとは思っていた」


「ふーん。お兄ちゃんにもそんな人いたんだ。ねぇ、どんな人?」


 途端にニヤニヤし始める瑠璃。あー、こうなったときの瑠璃は止められないぞ。質問責めになるな。


「……会ってみるか?」


 説明するのが面倒になったな。百聞は一見に如かずと言うし、会わせた方が手っ取り早いと考えたのだろう。


「会いたいっ!お兄ちゃんが好きになった人だもん、超興味ある!」


 助手席で座ったまま跳ねる瑠璃。


「ちょっと待ってろ」


 竜二さんは車を路肩に止め、スマホを取り出して婚約者に連絡し始めた。


「俺だ、今からそっちに行く。知り合いも一緒だ」


 そう言ってプッっと切ってしまった。


「え?終わり?」


 早っ!相手の返事聞いてたか?業務連絡でももう少し話すぞ?思わずツッコんでしまったよ。


「それで?どんな人?美人?背高い?お兄ちゃんのこと何て呼んでるの?」


 瑠璃の質問攻撃が止まらない。


「会えばわかる」


 相手にしない竜二さん。さすが兄妹だけあって、瑠璃の扱い方を心得ているな。



 それから10分ほどで目的地に到着。六階建てマンションの来客用スペースに駐車した竜二さんは、慣れた様子でスタスタ歩いていく。カルガモのヒナのように竜二さんの後について歩く俺たち。


 302号室の呼び鈴を鳴らすとドアが開いた。


「いらっしゃい。ようこそ」


 和風美人と言えば伝わるだろうか、切れ長の目と、色白で品のある顔立ちをした、控えめに言っても凄い美人が部屋から出てきた。背が俺よりもある、170後半だろうか。竜二さんと並ぶと絵になるだろうな。


「ほえ~っ……」


 瑠璃もその美人度に圧倒されたのか、見上げたまま呆けた顔を晒している。


「初めまして、本郷京香です。先ほど松崎竜二さんの婚約者になりました」


 和風美人が丁寧にお辞儀をしながら挨拶をしてきた。


「あ、初めまして、須崎浩太と申します。竜二さんの義弟です。こっちは娘の琴美です」


 隣の瑠璃もペコリとお辞儀。ん?先ほど?先ほど婚約者になったって言った?


「あのー、先ほどとは?俺たちも今さっき聞いたばかりなのですが、先ほどプロポーズされたと言うことですか?」


「はい、先ほど電話でプロポーズされました」


「はっ!?電話で?お兄ぃ……伯父さん、電話でプロポーズしたの?」


 焦って『お兄ちゃん』と言いそうになる瑠璃。にしても電話でプロポーズとは……。


「はい、電話でいきなり『結婚するぞ』って言われました」


「うは~っ!それでそれで?」


 食いつき過ぎの瑠璃。


「『わかりました』と答えると、電話を切られました」


「「……ありえない」」


 瑠璃とハモった。

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