第18話 お墓参り
瑠璃と竜二さん、お互いの状況を理解し合ったところで、話題は瑠璃のことを両親に話すかどうかに移った。
「話さないわよ」
「……そうか」
あっさり納得したなぁ。まあ、竜二さんが見えると言ったときに病院に連れて行った親だからな、簡単には信じないだろうし、下手すると俺と琴美が病院に連れていかれる可能性もあるか。
うん、俺も話さないに賛成だ。
「明日は?」
「墓参りだって」
「お前の?」
「そうよ?」
「……」
腑に落ちないといった表情の竜二さん。そりゃそうなりますよね、俺も同じ思いです。本人がここに居るのに墓参り行ってどうするんだよって話ですよね。でも義両親に話さない以上、墓参りは避けては通れないのです。俺が墓参り行きません、とか言ったら義両親きっと泣くよ?瑠璃の親から人でなしだと責められるのは勘弁です。
竜二さんは、首を傾げながら部屋を出て行った。
「ハァ~、色々驚いたわ」
俺に苦笑いを見せる瑠璃。
「俺もだよ。竜二さんにも色々あったんだな」
小学校に上がる前から見えることを隠して生きてきたなんて、自分なら耐えられただろうかと考えてしまう。
瑠璃が以前言っていた『自分と他人との間に見えないバリアを張っている』というのも無理ないと思ってしまう。自分と同じものを見ていない相手に心を開くなんて、本当に出来るのだろうか。
「家族なのに何にも知らなかったわ。でも私にくらいは教えてくれても良かったのに……」
少し寂しそうな表情の瑠璃。
うちもそうだったが、家族だからといって全てを受け入れることは出来ないし、隠し事も当然ある。竜二さんは、瑠璃に心配かけたくなくて話せなかったのだろう。
瑠璃もそこは分かっているし、兄を責めることはできない。それでもやっぱり話してほしかったというのが本音なのだ。
翌日の日曜日、午前中に墓参りをして、午後からは果樹園のお手伝いという予定になっている。
近くの小さなお寺の墓地に行き、松島家のお墓に参拝する。ここに来るのは三度目だ。納骨の時と、一周忌の法要で来て以来だな。二回ともずっと泣いていた記憶しかない。
ここはいつ来ても静かだな、鳥の鳴き声しか聞こえてこない。初めて来た琴美が物珍しいのか、キョロキョロしている。墓地なんて普段来ないもんな。
掃除をし、お花を供え、線香をあげる。後ろで琴美が不思議そうに見ていた。瑠璃はどんな気持ちでこれを見ているのだろう。
合掌して目を閉じる。だがどうすればいい?何を祈る?誰に?……あっ、そうだ!大学2年のときに死んだ瑠璃のお祖母ちゃんに祈ろう。
瑠璃のお祖母ちゃんに挨拶して、義両親と交代した。
お義父さんが手を合わせながら肩を震わせていた。まだ二年だもんな、二年なんて長いようで短い。大事な人を失った悲しみが二年やそこらで薄らぐものじゃない。瑠璃がここにいると分かってなければ、たぶん俺も泣いていただろうな。
家に戻って昼食後、いよいよ琴美が楽しみにしていた果樹園のお手伝いだ。と言っても桃やブドウの木の根元に生えた雑草を抜くだけ。
「うーんしょっ!」
まだ力のない琴美は一生懸命に雑草を抜いている。力入れ過ぎて、後ろにすってんころりんしてしまうのはご愛敬。やはり琴美は何やらせても可愛いな、雑草抜きのCM出演依頼が来ても不思議じゃないな。
「ごくろうさま。桃のジュースを作ったから飲んでね」
お義母さんが桃果汁百パーセントのジュースを作ってくれた。産地超直送、何という贅沢だろうか。
「琴美ちゃんのおかげで、来年も美味しい桃ができるわ。ありがとね」
「やったー!」
琴美、来年も桃を貰う気満々だな。バンザイして喜ぶ琴美を見るお義母さんの目がとても優しい。
「浩太さん、明日はどうするの?」
「俺たちが通った高校を見に行ってこようと思ってます。琴美にも見せておきたいんですよ」
これは帰省する前から瑠璃と決めていた。二人が出会った高校をもう一度見ておきたいと言ってたんだよね。
「そう、送りましょうか?」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。瑠璃が乗っていたバスに乗って行ってみます」
明日も晴れるといいな。
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