第2話 誕生日パーティー

 今日は琴美の誕生日。早いもので6才になる。


「来年はもう小学生かぁ~」


 琴美が2才のときに家族3人で撮った写真を見ながら、しみじみ感慨にふける。


 男手ひとつで育てているので、色々と不自由な思いをさせているかもしれない。なので今日は精一杯楽しんでもらおうと、馴染みのケーキ屋にバースデーケーキを注文、ちゃんと『ことみちゃんハッピーバースデー』のチョコレートプレートも作ってもらった。


 誕生日プレゼントには欲しがっていたジルバネアファミリーのお家セットも用意した。部屋も少しだが飾り付けて雰囲気を盛り上げている。


 と言っても誕生日パーティーの参加者は俺と琴美の二人だけ。友達も呼んでいいぞと言ったのだけど、呼ぶ友達がいないらしい。


 保育士さんからも、ちょっと大人しすぎて友達作りに苦労しているようだと言われている。俺の娘だなぁ、と思ったね。俺も学生時代は陰キャのボッチだったから。


 でも娘よ、そこはママの遺伝子を前面に出しても良かったのだぞ。瑠璃は俺と違って友達も多く、高校でも常にクラスの中心だった。と言っても瑠璃のことは高3のときからしか知らないけど。



 俺と瑠璃は高3で初めて同じクラスになったんだ。県内でもそれなりに有名な進学校で、先生は生徒の成績を上げて、少しでも良い大学に入学させることしか頭にない感じだった。校舎には『○○大学○人合格!』なんて大きな垂れ幕が掛かってた。俺もそんな学校の雰囲気に煽られて、東京の有名大学を目標に勉強にいそしんでたんだ。まあ友達もいなかったから勉強以外にすることがなかったとも言える。

 彼女?はて、それは何語ですか?って感じ。


 自慢じゃないが、これでも中学ではそれなりに女子とも仲良く話せていたんだよ?嘘じゃないよ?まあ彼女ではなかったけど。


 それなのに高校に入ってからというもの、なぜか女子から異性と言うか、恋愛の対象には全く見られなくなったんだよね。そういうのって何となくわかるじゃん?俺が何の面白みもない、ただのモブだってバレてしまったんだろうな。高校行ったら彼女作りたいと思っていたから、その時はかなり落ち込んだよ。


 でも3年になって、同じクラスになった瑠璃が僕を見つけてくれたんだ。




 瑠璃が授業で分からないところを隣の席の俺に聞いてきたことがきっかけだった。


 俺は嬉しくてニコニコ顔で教えてあげたよ、聞いてない所まで懇切丁寧に。そしたら瑠璃が教え方が上手だと褒めてくれてさ、嬉しかったなぁ。その日は一日中ニマニマと顔を緩めてたと思う。


 なんせ俺、顔は中の下だし……いや中の中くらい?運動神経皆無だし、背も平均より低いしで、取り立ててなんも良いとこないわけよ。唯一自信があるのは勉強だけだったから、それを他人に認められ褒められるというのは、とにかくすごく嬉しかったんだよね。


 しかもそれが、とっても可愛い女の子なわけ。2年間女子からまともに相手にされてなかった俺が舞い上がるのも無理ないでしょ?


 それからというもの、瑠璃は分からないことがあると、すぐに俺に聞いてくるようになったんだ。


 気が付くとすっかり仲良くなっていて、放課後も図書室で一緒に勉強するようになっていたんだ。あれは楽しかったな、まさに青春の一ページだ。


 その頃ちょうど俺の両親が離婚するしないで揉めてて、家の中ブリザードが吹き荒れてた頃だったから、なおさら俺は瑠璃との時間が特別に思えていたんだ。


 夏休み前、瑠璃は俺が東京の大学に進学するつもりだと知って、「私も東京に行く!違う大学になるけれど!」と宣言して猛勉強を始めた。そんな彼女がいじらしくて可愛くてさ、「一緒に頑張ろう!」とか言って応援したよ。


 あ、なにもずっと勉強ばかりしてた訳じゃないんだ。たまに学校帰りに二人でクレープ食べに行ったり、参考書を探しに本屋に行ったりしてた。まあ、あれがデートと呼べるかって言ったら微妙だけど。


 そんな猛勉強の甲斐あって、二人とも第一志望の東京の大学に合格することができた。合格発表の後、俺から瑠璃に交際を申し込んだんだ。


 もっと前に告ってもOKもらえたと思うけど、自分の中で受験が終わってからって決めてたし、たぶん瑠璃もそう思っていたんじゃないかな。決して俺がチキンだったからじゃないよ?


 大学生になって本格的に付き合い始めたんだ。大学を卒業すると同時に結婚して、琴美を授かり、育児にヘロヘロになって、初めて言葉を話したと大喜びし、初めて歩いたと大泣きしたっけ。本当に毎日が幸せで充実してたなぁ。


 そんなことを思い出しながら一人で誕生日パーティーの準備をしていたら、なんだろう、少し泣けてきた。

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