第4話

事の次第を珠幸殿へ伝え、その礼として食事と酒を馳走になった。


「しかしあの程度のことでは師父の態度に釣り合わん。とはいえ未熟な俺では師父の意図を推し量り、詳らかに解き明かすなどできはしないがな」


口に出せば情けないことこの上ないが、厳然たる事実だ。

もっとも事の真相はいずれ明らかとなるだろうし、今回の一件は人の世の騒ぎというものがどの程度の物かということを知るための、言わば導入に過ぎないのであろう。


「それにしても人の付き合いというものは面倒だ。恩に礼を持って報いることは正道だが、過ぎれば嫌味となる。尽力という程の事でもないのに贅を凝らした料理など過剰もいいところだ。返礼は適当であることが肝要だというのに」


俺にしてみれば片手間仕事に過ぎないのに、大恩に報いるような豪華な宴は過分だ。


「いや待てよ。仮にも相手は邑の長。立場のある者はその地位に相応しい振る舞いを見せなければならない。道士を招いて難事を解決したが礼を慎ましく終えたとなれば他者から器が小さいと見られかねない。こちらが心広く礼を受けとめれば円満となるなら、敢えて角をたてることもない」


うむ。己のことばかりで考えては俺こそ失礼者となる。気をつけねばなるまい。

とは言ったものの、かかる煩わしさは俺の望むところではないのだ。

たとえ相手が大恩に感じようと俺にとっては些末事であるならば、礼など塩漬けの根菜一つと酒一献で十分なのだ。


「騙り者の道士であれば木札に墨筆と外観を繕うのに金がかかろう故に、礼金をせびるというな。だが俺は、必要なものは己で作りそろえる故に金は不要。邑の者を占う程度なら無銭でよい。妖怪変化等の禍いを退けるのであれば干し芋に茶の一杯でもあれば十分だ」


もちろん大きな禍いを退け、それを内外に示すために盛大な宴で祝うということは大切だ。禍いにより乱れた陰陽の気を均し整えることにもなるからな。

そう考えれば今回の一件も、放置がために北の山が邪気に穢れされてしまったものを祓い清めたのだから、宴を開き大いに祝うことは必要であろうし参加することも否やはない。


「ふむ。師父が時折読ませた書物に描かれた世俗の道士とは考え方が噛み合わないな。これでは上手く人の世の道士として振る舞えているとは言えないのではないか? 師父の命は『人の世の道士として振る舞い、世の理を知れ』であったな。ならば私心は抑え、世俗の習いに従ってみるか」


うまい飯を食い、香り高い茶を楽しむ。

術のための道具も人の世で賄い、そのための金銭を得るために民を占い凶事を祓う。


「うむ。俺が俺でなくなりそうだ。師父の真意は量りかねるが、こうして頭を悩ませることそれ自体が修行なのかもしれん。あの人ならあり得ない話じゃない」


俺がそう結論付けたところで玄関より俺を呼ぶ声がした。

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