第3話

「さて、石喰鳥が妖異と化して穢れの石を霊山へと運んできたなどと。人界の混乱は目も当てられないな。この邑なら、正しく祭られればすでに先祖の霊は土地神となり今回程度の問題など自前で解決してしまえただろうに」


若輩と侮られないように取り繕っていた口調を戻して悪態をつく。

穢れは陰の気を招き、陰陽の均衡を崩す。

陰の気も陽の気も、それ自体が良い悪いというものではない。全ては均衡が保たれることが大事なのだ。陰の気は留まりやすく、過剰に集まれば均衡を崩すために正しく管理されねばならないというだけのこと。


「原因はすでに判明し、居所も把握しているとなれば速やかに祓うが上策か」


こういう程度のことに手間をかけても仕方がない。

だいたい師父の命で下山して、都合よく妖異と穢れが現れて困っている邑にいるなど、どう考えても師父の思惑の一端としか思えない。

であるならば、この一件が単純な話で終わるはずもなし。


思い立てば即座に動く。俺は珠月荘の裏山へとやって来た。

目の前には祠があり、祠の前には泥の如く濁り淀んだ気配を発する俺の背丈ほどもある岩が転がっている。


「思いのほか大きいうえに、この気配。理を知らぬ只人が近寄れば当てられるも已む無しだな。北の良相を成す霊山の気に障りが出ていて勿体無いし、散れ」


言って俺は指を弾いて鳴らす。

音には世界に干渉する力がある。清浄の気を乗せて響かせればこの程度の邪気など朝日に消ゆる露の如し。たちどころに雲散霧消する。

また音を運ぶは風の理。故に風は木行に属し、能く土行に克つ。すなわち岩は砕け、砂塵と化して吹き散るのみ。


「これで祠は良し。石喰鳥は何処かなと」


軽く気配を探れば山頂に禍々しい気配を纏ったものが見つかった。先の岩と同質の気配だし、間違いはあるまい。


「風矢、導きに従い濁たる気配を撃ち抜くべし」


口訣を諳んじて弓矢の構えを取り、引手を放せば見えぬ矢が宙を舞い、僅かの間の後に低くしゃがれた断末魔が響く。

俺は地を転じて瞬時に現場へと赴くと、本来なら白岩の如き美しくも硬質な羽を練炭の如き黒に染め上げた石喰鳥の屍がひとつ。


「なるほど、これほどの大きさであればあの岩を運べるも道理ということか。小さな納屋くらいはあるな」


ついその大きさに目を奪われたが、俺の風矢に射抜かれて邪気を散らされたとはいえその身はすでに芯まで染まっている。

このままではこの骸が先の岩と同じと成りかねん。


「真火、穢れを焼き清めよ」


口訣とともに印を結び、純粋な火気である真火でもって石喰鳥の骸を焼却した。

これで災いとなることもなければ、災いをもたらすこともなかろう。

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