第2話 Le bruit des oiseaux(鳥の鳴き声)

 前回からのあらすじ。

 町の入り口ではマメタンクに絡まれ、冒険者ギルドでは殺されかけ、まさに踏んだり蹴ったり状態のツバキ御一行。それもこれも、天空魔人族てんくうまびとぞくとなった麗しき、アニエスさんのおかげであることに、ツバキは気づかずにいた。

 そしてそのツバキ一行はというと、今はギルドマスターとその部下、与一よいちさんの両名による、ことの顛末てんまつを報告しているところであった。

 ん?

 与一?

 バリバリ日本名じゃね?




      *




 冒険者ギルドでの登録が無事終わり、モンハンで貯まった素材も無事にサバけたツバキ一行。

 今、僕たちは何故かギルドマスターの部屋に招かれている。

 何故かって? 理由はわかっているんだけどね…。



「初めましてだねツバキ君。 私はここ、ブラックフライのギルドでおさを務めるサモヤン・キンプーだ。」


 は?

 何言ってんのこの人?

 あんたサモハン・〇ンポーその人でしょ!


「えっと…。 ツッコんだほうが良いですか?」

「はっはっはっ。 何をかな?」

「いや、その、名前とか?」

「名前? ツバキ君の言っている意味はわからんな。 そしてこいつは私の部下で、私のサブを務める与一だ。」


 日本名かーい!

 しかも漢字なんかーい!


「うぇ~い! 与一だぜ~い! よろしくだっちゃ!」


「ラ〇ちゃんかよ!?」

 思わず口から出てしまった!


「〇ムちゃん?」

 ギルドマスターのサモヤンさんに突っ込まれた。

「あ、いや、なんでもないです。」


「こう言っちゃなんだが、ツバキ君。 君は心ここにあらず。 だな?」


 ツッコみどころが満載のあなた達のせいでしょうが!!


「まあいい。 今から話すことは他言無用でお願いをしたい。」

「いえ、我々はいとも簡単に他言いたしますので、おいとまさせてもらいたいです。」

「帰せる訳がないだろう! 領主の部下を何人もやっちまいやがって! しかもウチの冒険者も何人かやっちまったよな?」

「先に手を出してきたのは両者の部下達ですが?」

「それとこれとは話は別なのだ…。 言いづらいが、今のこの現状ではツバキ君は追われる身だ…。」

「と言いますと?」

深淵しんえんの森で、魔族の娘をさらったであろう? あれは貴族同士の賭け事に使われていたようだ。」


 ピコン!

(マスター、ピコンです。)

 ピコンさんが念話で話しかけてきた。 

(わかっている。 ここで怒りを爆発させたりはしない…。)


「それで? その娘をどうしたいんだい? まさか、その娘を返せと?」

「どうやら、その娘に執着はしていないようだ。 その貴族たちはどちらかと言うと、君を欲しているようだ。」

「何を馬鹿なことを…。」


 俺は呆れてものも言えなくなった…。


「関所で執事バトラーに会っただろ? あの男は王国と帝国でも腕利の男だ。 名前をタチバナという。 曇天シェルネージュのスキル持ちだ。」


 ピコン!

「マスター、ピコンです。」

「はい、知っています。」

曇天シェルネージュというスキルを調べてみました。 どうやら相手スキルを一定時間無効化し、自分の身体能力を向上させるようです。 特に素早さに特化しているようですね。 しかしマスターのパッシブスキルで、充分過ぎるほど対応は可能です。」

「なるほどね。 しかし、シェルネージュか…。 かっこいい名前だな…。」


「マスターツバキ。 あにゃたの名前の方がとても魅力的でしゅ!」


 カミまくり!?


「あ、ありがとうアニエス。 アニエスの名前も素敵だよ。 アニエスにとても似合っている。」

「あぁ。 感無量でございます、マスターツバキ。 愛しております…。」

 アニエスはそう言って俺に抱きついてきた。


「サモヤンさん、俺たち、何を見せられているんすか? 羨まし過ぎるんですけど!」

 与一君、久しぶりに話してそれかい?


「は! 脆弱な人間風情が、我がマスターを羨ましがるなんて身の程を知れ!」

 

「人間風情とは? ツバキ君は人族では無いのか?」

 アニエスの言った人間風情という言葉に対して、サモヤンさんが突っ込んできた。

 ああ。 まったくアニエスは余計な事を…。


「サモハンさんの見たままということにして下さい。」

「サモハンでは無い! サモヤンだ! サモヤン・キンプーだ! これでも俺は元A級冒険者だ!」


 ピコン!

「マスター、ピコンです。」

「はい知ってます。」

「早いとこ話を進めてもらって、宿屋に行きませんか?」


「そうだね。 それで、そのタチバナがどうしたの?」

「ブラックフライの領主が、いう事を聞かなければ、ツバキ君にタチバナを仕向けると言っている。」


 くだらない…。


「了解しました。 アニエス、ピコンさん。 宿屋へ行こう。」


 そう言って、俺たちは立ち上がった。


「待て! ブラックフライ領主は フィラリア・ブラックフライ侯爵だ。 フットケア王国の侯爵閣下だぞ! この話を断ってしまったら、人族の地では生きていけんぞ!」


 待て待て待て!!

 フィラリア?

 フットケア?

 ブラックフライから始まり、この世界の名前はどうなっているんだ?


 フットケア王国の国民のかかとはツルツルか?


 もういい。 とりあえず、ここを出る事にしよう。


「サモハンさん、タチバナが来ても、こちらで対処します。 どうか俺の事はお気になさらず。」

「ちがーう! サモヤンだ!」


 俺たちはギルドマスターの部屋を後にした。



 ギルドマスターの部屋がある2階から、1階へと向かう階段からは、先ほどまで見えなかった、ギルドの職員たちがいる。どうやら床の清掃や、壊れたテーブルと椅子の片付けをしているようだ。

 階段を降りてくる俺たちの姿を見て1人の男が駆け寄ってきた。


「先ほどはありがとうございます! この酒場とギルド事務所はアイツら、スカルラッツファミリーに乗っ取られていて。 これでここのギルドも通常運転ができます! 本当にありがとうございました!」

「スカルラッツ?」

「はい、残虐非道のファミリアです。マスターサモヤンでもどうすることもできませんでした。」


 ん?

 さっきはウチの冒険者って言っていたよな?


「スカルラッツというのは、この冒険者組合のメンバーでは無いのですか?」

「名目上で言うと組合員です。 ですが…。」


 ほうほう。 これは何か裏がありそうですな…。



「ツバキ、もう行きましょう! 早く宿に行きましょう! もう待ちきれないです!」


 アニエスさん?

 何をそんなに急いでいるんですかえ?



 ピコン!

「ウェーイ! マスター、ウェーイ!」



  




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