第3話 lapin qui rebondit 跳ねるウサギ


 前回からのあらすじ。


 サモハン・○ンポー似のギルドマスター。サモヤン・キンプーに呼ばれ、話し合いをする事になった、ツバキ一行。

 当然、1階で暴れた事に対するお咎めかと思いきや。カカトツルツル、フットケア王国の侯爵、寄生細虫のような名前のフィラリア・ブラックフライ侯爵に仕えろ。 という内容の話だった。

 いう事を聞かないと、フィラリア侯爵の執事バトラー、タチバナを刺客として向かわせる。 と言うが、ピコンさん情報ではツバキのパッシブスキルのみで対応可能だと言う。

 無敵だなツバキ?

 そんな事よりも、アニエスはツバキとチョメチョメできるのだろうか!


 チョメチョメって…。




      *




 宿屋に到着をした。

 閑静な住宅街に立つレンガ造りの宿屋。 豪華な扉の前に立つ小綺麗な格好の男が2人。

 俺たちが階段を上がると、右側の男が話しかけてきた。


「お食事でしょうか? 宿泊でしょうか?」

 丁寧な口調だが、目つきは鋭い。

「両方でお願いしたい。 できれば5日ほど連泊したいんだけど、可能かな?」

「おそらく、可能かと。 ご案内いたします。」


 豪華な扉を開け、俺たちをラウンジに進める。

 

「こちらでお待ちください。」


 豪華な応接セットのある場所に、俺たちは案内され、俺とアニエスは大きなソファーに腰を下ろした。

 5人は座れそうな、ゆったりとしたソファーの中心に俺が座ると、アニエスは俺の横で清楚なお嬢様のように座っている。

 先ほどいたギルドでは若干、脚を開き、左足に左手を置き、サモヤン & 与一を威嚇していた態度が、幻影であるかのようだ。


「お待たせいたしました。」

 そう言って現れたのは、初老の男性。 


「いえいえ、お気になさらず。」

「恐れながら、失礼致します。」

 初老の男性は俺たちの前に腰を下ろした。


「私は当ホテルの案内人コンシェルジュを務めます。 シンゴ・イカリと申します。」


 惜しい!!

 エヴァまでもう一声!


「は、初めまして。 ツバキ・アオカミです。 連れはアニエス・アオカミ。 そして俺の後ろで浮かんでいるのは…。 ピ、ピコンさん? なんで浮かんでるの!?」

 ピコン!

「マスター、ピコンです。」

「いや、わかっているから!」

「マスターのおかげで、最終形態になれそうです。 それもこれも、マスターの知識をたくさん取り込めたからです。おそらく明朝にはアニエス以上に可愛らしい最終形態となる事でしょう。 ウェーイ! アニエス、ウェーイ!」

「フッ…。 ピコンさん。 何を仰っておりますの? 先ほどツバキは私を アニエス・アオカミと紹介したんですのよ? この意味がわかってらっしゃるのかしら? オーホッホッホッ!」


「あっ、すみませんシンゴさん。話を進めてもらっても良いですか?」

「はい。」

 アニエスとピコンさんの絡み合いを見て、微笑むコンシェルジュのシンゴさん。


「それでは当施設のご案内をさせていただきます。 初めに、当施設は5泊以上の連泊はできません。 それは王家の方や地位の高い方も、同じようにとさせていただいております。 食事は朝食と夕食のみでございます。 昼食をご希望の場合は都度、お支払いとなります。 湯浴みは別館にて予約制となっておりますので、ツバキ様と奥様が一緒に湯浴みをすることができます。」

 

 今のシンゴさんの一言で、アニエスの目つきが変わった。


「そして最後に、ツバキ様。 私、いかり 慎吾しんごは152年前に日本より転生した天空人族てんくうびとぞくです。 この世界は狂っております。 どうかツバキ様のお仲間に入れてはいただけないでしょうか?」

「152年前って…。 そうか、碇さんは天空人族だから、詳細鑑定ができるのですね? でも、こんなお話をここでしても大丈夫ですか?」

「私のスキルは各属性魔法です。 神聖から闇まで全て使えます。 今は結界魔法で、ここの会話をただの世間話に変換しております。」


 各属性ってすげーな。


「碇さん、失礼ですが、ご家族は?」


 しばしの沈黙の後、碇さんは話を始めた。


「152年前…。 私は12歳でした。 戦後の日本、空襲を受けた各都市では私が生きるには幼すぎたのです。 瓦礫の中で見つけた兄と母の無惨な姿に絶望し、私も他界する決心をした時に気を失いました。 次に、目を覚ました時、蒸し暑い草原で横たわっておりました。」

「目を覚ました場所は俺と同じですね。」


「その後はツバキ様と同じです。 ピコンさんと同様に私にも従者がいました。 その従者の最終形態は人族でした。 その従者は私の想い人が大人になるとこんな感じだろうと思い、名をその女性と同じ名のマリナと名付けました。 私が20歳になった時に、王国で魔道師団の入団試験があり、私はマリナからの勧めから、その入団試験を受けたのです。 結果はもちろん合格です。 しかし、貴族というものはプライドが高いのでしょう。 私を寄って集って嫌がらせをするんです。 最終的には私の大事な…。 マリナを…。」


「碇さん。 その後はお話をしなくても…。」


 その貴族たちのしたことは想像がつく。


「碇さん。 俺たちの仲間になる事に関しては吝かではありません。 俺もこの世界を変えたいとは思っております。 俺もアニエスは大事に思っております。 できれば今すぐにでも結婚をしたいと思うくらいです。 ですが…。」


「ツバキ様!?」

 アニエスは立ち上がり、俺を見ると同時に気を失ってしまった。


 ピコン!

「マスター、ピコンです。」

「はい、知ってます。」

「アニエスったら、嬉しさのあまり、気を失ったようですね。 今夜の夜伽は無理そうですね…。」

「それはさておき、碇さん。とりあえず今は部屋に案内をお願いいたします。」

「そうですね。かしこまりまりました。」

 

 俺たちは部屋に案内をされ、アニエスはベッドに寝かせた。


「ピコンさん。」

「なんでしょうか?」

「ピコンさんも人族になれるの?」

「それはわかりません。 マスターのそばにアニエスが居なかったら、そうであったかもしれませんが、今の状況下でもう1人、女性を欲しておりますか?」

「どうだろ? 女性じゃなくても話し相手は欲しいかな?」

「もし、碇氏が仲間になればアニエス以外の話し相手はできますよ?」

「はは。それもそうだね。」

「マスター。 私もアニエスのようにマスターを愛してみたいです。」


 ピコンさんはフワフワと浮かびながらソファーの方へ行った。


「マスター。 どうやら最終形態へ向け、スリープモードに入ります。 明朝、お会い…、できるこ…、とを…、楽しみ…。」



 どうやらピコンさんはスリープモードへと入ったようだ。


 さあてっと。 アニエスは寝ちゃったし。 俺ったら結構、やる気満々だったのにな…。

 疲れたし寝るかな…。




      ☀️




「マスター! 起きて〜!」


 ん?


「マスター! 最終形態になったよー!」


 女性の声?

 最終形態?

 そうか! ピコンさん!


「ピコンさん! って! なんで!?」


 俺の目の前に、嬉しそうに飛び跳ねる。


 真っ白い、ツノの生えた…。



 

 ウサギがいた…。



 「ぴょん!」

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