第17話 30カウントの攻防
前提として正攻法では、白鋼がミフナロウを相手にして勝機はない。
ミフナロウは当然の事実として、白鋼自身もどうしようもない現実として理解している。
その差を埋めるための魔導装甲の開発であるが、残念ながら1000年という年月は限界を越えるには短かった。
しかし、だからこそハンデ戦が成立する。
カウントディフェンス、致命的なダメージを設定したカウントまでに与えることができるかを賭けた古から続く決闘方法の一つ。
ミフナロウは白鋼であれば20カウント耐えられると読み、白鋼は20カウントは耐えられる程度の装甲を用意した。本気で挑めばもっと長く戦えるが、白鋼は戦魔神を相手に長時間戦える人種ではなく、なるべく短期で勝負をつけられる強さを設定した。
残り11カウントをどうやって稼ぐかが今回の課題である。
もし、逃げに徹すれば即座に叩き伏せられてしまうだろう。だから圧倒的な暴力を前に白鋼は前進を選びミフナロウに戦いを楽しませなければならない。
「はあああああ!」
白鋼の叫び声に合わせて、腕に取り付けられた推進器を全開にして殴りかかる。
小柄な少女など容易に吹き飛ばせそうな一撃は、小さな手に阻まれる。巨腕は勢いそのままに逸らされて、内側に踏み込まれてはカウンターが本体に突き刺さる。まず間違いなく致命と判定される一撃だった。
極端な話をすれば機械装甲は強さに直結しない。
正確には機械的な機構そのものは魔術的なメリットを持たない。歯車やシリンダーの組み合わせで補助するより、装甲を直接動かす方が早く、全てを魔力に変換できる世界では単純であればあるほど扱いやすい。
全ては意思が物理法則を凌駕し、空想と現実の間は常に揺らいでいる。
ではメリットはなにか。
それは異様なまでの執着が成せるイメージの拡張。人ならざる姿は異常とも言える挙動を想起させやすく、装甲を纏うことでより感覚を特化できることにある。
「ほう」
掌底が胴体に突き刺さる前に入る前に、全身の推進器を作動。宙を泳ぐように全身をくねらせて勢いそのままにミフナロウの上を飛び越える。鎧では考えにくい動きを見て、ミフナロウは感嘆の声をあげる。
乗り越えた先で、腕に搭載された魔術砲塔から光弾を射出。本来であれば避けられて終わりだが、今この瞬間は別。ミフナロウを挟んでポーラがおり、光弾の幾つかはポーラに当たるように設定してある。当たれば結晶化は免れない威力だが、躊躇なく撃ち込む。白鋼は信頼していた、ミフナロウは絶対にポーラを守る。
ダメージこそ入らないが、カウントを稼ぐには充分だった。
しっかり着地しろよ、と光弾の中ポーラとファスカを掴んで放り投げる。
「新入りを巻き込むのも作戦のうちか?」
「だって長老ならしっかり守れるでしょお? こうでもしないととても耐えられませんよお」
ここまでは白鋼の想定通り、あとは残り時間を消化し切れるかどうか。
最速で飛び込んでぶつかる直前のタイミングで避ける。字にすれば簡単だが、ミフナロウの攻めっ気を抑えつつ遂行するのは精神を磨耗する。最善に最善を尽くしてようやっと成立する細い橋だった。
「でもまあ、なんとかなりそうだねえ」
暴れても巻き込まれないよう、空へ空へと押し上げられて、闘技場からだいぶ離された。
残りカウント5もあれば、超火力で押し切って終わり。
牽制で置かれる爆発が、自分の身を脅かす段になって白鋼はミフナロウに改めて向かい合う。
「ここまで来たから言いますけど、今日の私は悪役なんですよねえ」
闘技場から距離があるということは、ポーラから離れているということだ。
「新人ちゃん貰ってくよお!」
ミフナロウが気づいた時にはもう遅い。
容赦にない爆撃が白鋼の装甲をバラバラにするが、爆発の中から落ちていく無傷の白鋼を見て舌打ちする。
「30! 迷ったらダメですよお長老!」
ハハハハハ!と笑い声と共に落下する白鋼。その先にはポーラがいた。
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