第16話 カウントディフェンス
「魔導装甲開発部」はゴーレム作成に金属でロボを作ろうという取り組みから始まったクランである。始まりは不恰好だったゴーレム達は段々と精錬されていき、AI設定の強化など公式サポートもあり着々と数を増やしていった。
ロボットを取り扱ったゲームは他にもあったのだが、奇人変人というのは普通のゲームだからロボを作りたいと言う天邪鬼めいた思考をしたりする。存在は認知されながら、これはそういうゲームじゃねぇ、とゴーレムに関係のないアップデートはなかったが、それも1000年前までの話。ことゲームが現実となれば彼らはこの理想郷で生きていかねばならない。
幸い、最低限生きていくための金はあった。そして目の前には電子の世界では達成し得なかった高容量、高精度を可能とする金属ゴーレム達。彼らは一心不乱に夢を追い求める。
基本的に内に篭り、必要な素材を集める時にだけ外に出る彼らであるが、ロボットを作る理由の一つに戦いがある。生活を便利にする機械も作らなくはないが、それも理由の一部に過ぎない。生活の全てはロボットに置き換えられると言うのが魔導装甲開発部の理念である。
白鋼はロボットの戦闘面に取り憑かれた男だ。引き篭もりがちな魔導装甲開発部では数少ない外部に顔が割れた有名人で、新型ロボットを繰り出してはデータ回収を行なっている。
最近停滞気味だった開発に新しい風を取り込むべく、新たに現れたポーラにちょっかいを出しに来たのだった。
「起動せよ! ブラックバレット!!」
機械の白腕を高く掲げ指をガチンと鳴らすと、黒い小型の人型兵器、彼らはブラックバレットと名付けた、が舞台上の3人に襲いかかる。
ブラックバレットは質量兵器として打ち込んだ後、敵の領域内で暴れることをコンセプトとした兵器である。強度の高い装甲にシンプルな駆動系を持ち、稼働時間に制限をかけることで瞬間的に被害を拡大させる尖兵だ。
最終的にボディを破片として再利用させない爆弾にする仕組みもあるが、今回はあくまで遊びであるため、その機能は取り除いてある。人死は望むところではないし、ミフナロウの機嫌を損なえばそれこそ面倒だ。
実際、踏み込んだことに対して苛立っていたミフナロウだったが、白鋼が装甲を纏った瞬間に目を光らせた。本来ならばブラックバレット程度では足止めもままならないが、白鋼が挑む前提でよしなにしてくれるだろう、と算盤を弾いている。戦魔神を相手にすることは簡単なことではないが、相手はPvP廃人、楽しむためには多少の不利を飲み込むだろうという信頼は厚い。
「皆よ! この壬生菜で好き勝手させても良いのか! 腕に覚えのあるものは中で人型の相手をせよ!」
自らに飛び掛かる人形をいなしながらミフナロウが叫ぶ。
何事かと見守っていた観客達だったが、交戦的な彼らが会場参加型のイベントに躊躇する理由はない。そもそも急に決まった黄金卿と聖皇女の代理決闘にやってくる魔族が戦うことが嫌いなわけがないのだ。嬉々として会場に飛び込んだ。
そこかしこで乱闘が始まる前に、ルルケは銀凍世界を解除する。広範囲に影響を与える能力は1vs多ならまだしも集団戦には向かない。舞台の氷が次々と砕けて、キラキラと破片が舞って消えていった。
「ミフナ様。あとでお話がございます」
「それはあいつに言って欲しいんじゃがなぁ」
ルルケのじっとりとした視線もどこ吹く風、ミフナロウは楽しそうに白鋼を見やる。余計にルルケの視線がキツくなるが、ブラックバレットには関係がない。クルーエルも含めてしっかりと説明するようにだけ言って、飛びかかってきたブラクバレットを吹き飛ばす。次から次へと飛び掛かってくる人型兵器にうんざりしながら、乱戦に巻き込まれていった。
「新人ちゃん。先に言っておくよお、ごめんねえ」
白鋼はポーラにそう声をかけて腕を振るう。舞台から飛んできたミフナロウが白鋼の機械の腕にぶつかった。高速で振り抜かれた腕だが、その勢いを適度に殺しミフナロウはふわりと観客席に着地する。
「ルールはなにが良い?」
「私が勝てそうなのはカウントディフェンスですかねえ。30でどうです?」
「30じゃな、良いぞ」
着物の袖に手を入れてゴソゴソと探り、手のひらに乗る程度の正方形の箱を取り出す。30セット、スタート、箱にそう呟いて観客席に置いた。
白鋼は装甲の奥で覚悟を決める。
腕を前に構えた瞬間に強い衝撃、ミフナロウの掌底が装甲を僅かに凹ませていた。
「正直言ってえ、長老相手は30でも長いんですよお!」
「かかか、ろぼっとを作る端からワシに突っかかってたのは何処のどいつじゃ。この問答も時間削りじゃろが!」
喋りながら装甲をとっかかりにミフナロウは追撃を狙う。対して白鋼は延滞に搭載された推進器によって体制を崩さずに後退するが、ミフナロウは更に空中を蹴って、白鋼の頭部を狙う回し蹴り。
白鋼はあえてミフナロウへと突っ込んで、蹴りが最大威力を発揮する前に打点をずらす。質量差で押し込めるなら苦労はない、多少の損傷はあるがそれで稼いだ時間は値千金だ。
「もう5カウント進みましたよお!」
まだ5カウントしか進んでいない。
そんな思いを飲み込んで、白鋼は笑う。
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