第15話 闖入者

 舞台上の戦いは連続して魔法を放つルルケと金色の剣で氷を打ち砕く黄金兵士、その2人による距離を奪い合う戦いになった。凍った足場をものともせず距離を詰める黄金兵士に対し、ルルケは上下左右に浮いた氷の足場を使い攻撃を躱す。移動した先で槍を打ち込めば、黄金兵士に砕かれた物以外は新たな足場となる。

 ただ時間が経てばフィールドはルルケの有利になっていく。だが、ルルケは一瞬たりとも気を抜けなかった。あのミフナロウが天秤にかけたのだ、この程度で勝てるなどとは思っていない。

 事実として、今なお決定打を与えることなく黄金兵士はルルケへと向かってきている。まだ喉首に剣がかかる距離では無いが、それもいつ詰められるかわからないし、戦況が運悪く黄金騎士に傾けばそこで終わってしまっても不思議はない。

 ルルケが札を1枚切ったが、黄金兵士は未だ手札を隠したままだ。黄金色の剣を抜かせてはいるが、ミェルケトが表舞台に出てこないこともあって、黄金兵士の情報は少ない。ミフナロウなど過去からのプレイヤーならば知っているが、ルルケの知る限り聖教会の黄金兵士の資料は無かった。


 ゴウ、という風切り音がルルケの耳に届く。

 自分に届く黄金兵士の振るった斬撃は氷の槍で相殺したが、割れた足場の幾つかは制御を失って砕けて散った。魔術的な核により維持された氷塊は、その核を失えば存在を維持できずに消えていく。氷の世界の中であっても、戦い始めた時に使っていた棘のように現実に痕跡を残さず崩れてしまう。


(感知能力に優れている? それとも偶然?)


 ここまでの攻防で黄金兵士の判断力が高いことは充分に理解している、出鱈目に振るっているわけではあるまい。そうであれば、時間が味方とも言い切れない。

 ルルケは杖を握る手が少しだけ強くなる。もっと集中しなければ。


 だから、この襲来に反応できたのは黄金兵士だけだった。


 黄金兵士が急に背を向けて、ルルケの意識がわずかに乱れた。

 どう考えても次に繋がらない特大の隙を見せる黄金兵士に困惑しつつ、しかし原因はすぐに判明することになる。ルルケよりももっと高く、闘技場の外から飛来するいくつもの黒い塊が、ルルケに黄金兵士に降り注いだのだ。


 唖然とするルルケの前に、黄金兵士がその身を盾に黒塊を撃ち落とした。


「おい、どういうつもりじゃ、白鋼!」


 最も多くの飛来物に狙われていたミフナロウはその全てをいなして、観客席へと叫ぶ。

 それはポーラ達の方向で、ポーラの隣に黒いスーツ、黒いシルクハットを深々と被った男が拍手をしながら座っていた。


「長老、ご機嫌麗しゅう。なにやら楽しそうな事をしているじゃないですか、混ぜてくださいって遊びにきましたよお」

「黒鉄の指図か?」

「まさかあ、あの人は玩具にしか興味ありませんよお! この新人ちゃんが玩具になるなら分かりませんけどねえ!」


 戦魔神を前に、ヘラヘラと笑う男。


「黄金と聖女を敵に回すって理解しとるのか?」

「それがおかしいんですよお、こんな楽しいことに私たちを呼んでくれないなんて」

「黒鉄にも連絡したが興味ないと言っとたぞ」

「いーつも言ってますよねえ! あの人気分屋なんだから私に話持ってきてって!」


 なんだかやけに実感が籠った声、苦労しているのだろうか。


「お前はお前で無駄に引っ掻き回すじゃねぇか」

「そりゃーそうですよお! 人生潤い大事ですよお!」


 前言撤回、こいつはこいつで面倒臭いやつだ。横で繰り広げられる応酬に、ポーラは何が何やらわからない。白鋼は聞いたことがないが、黒鉄はある。13人の既知外の1人、二つ名は確か鉄鬼人。


「お嬢さん、動かないでくださいよお」


 顔はミフナロウに向いたまま、ポーラを白鋼から遠ざけようとしたファスカに対して牽制が入る。

 視線こそ向いていないが、突き刺さるような感覚に動きを止める。


「露出狂、クラウン、純愛過激派あたりは新人ちゃんに興味津々だと思うわけよお。そこに私達も噛みたいなーって、ねえ?」


 両手の指を合わせて、白鋼は笑う。

 同時に、舞台上の黒い塊が形を変えて、立ち上がった。

 合わせて白鋼が立ち上がると、黒いスーツを覆い隠すように白い装甲が現れる。

 それは人を二回り以上大きくした、人型の鎧。


「長老、こう言うの好きでしょお?」


 闘技場に現れたのは数十体の機械兵士、ロボットだった。

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