第14話 2人の舞台
「ルルケさん凄いなぁ」
ポーラは、杖と魔法で剣を避け、剣を受け、剣を弾くルルケの動きに関心しきりだった。
彼の常識でいえば魔法使いは後衛であり、剣士と戦直接戦うものではないからだ。それが当然のように近接戦闘をこなしている様を見れば、よほどの実力者であると考えるのも無理はないだろう。
一般的に魔術師と剣士の戦いは一般的に距離で決まる。
端的にいえば、距離を詰め切れば剣士が勝ち、距離を保ち続ければ魔術師が勝つ。
ただ、この世界ではそれは絶対ではない。
一定以上の強さを超えると、魔術師の攻撃が剣士の対魔能力を越えられなくなり、いやでも距離を詰める必要があるからだ。
圧倒的な実力差があれば魔力に物を言わせて力づくで打ち破ることも可能であるが、闘技場で戦う2人はおよそ拮抗していた。時折距離を空けるが一息つく間もなく至近距離での剣と魔法の応酬が続く。
一撃が通ってしまえば天秤は大きく傾く。だからこそお互いに致命的な攻撃を回避し、相手の余裕を削りあう。踊るように舞うように舞台で戦う2人は、その実一瞬の油断もなく、その瞬間を虎視眈々と狙っていた。
「今の所どっちが優勢なの?」
「黄金兵士ですね。まだルルケさんにも余裕がありますがそれは黄金兵士も同じですし、何より兵士の方は疲労がありません」
今は兵士も回避を優先しているが、被弾を恐れず斬りかかればもっとルルケを追い詰めることが出来るだろう。最も、その上でルルケが全てを捌き切れば黄金兵士が不利ではあるが、回復という手も残している。
今の所ルルケが不利でありなにがしかの手段が必要であるが、ファスカは7000万も使って『徴兵』された兵士など見たことがない、簡単なことではないだろう。
「剣は綺麗に避けてるし、黄金兵士の方が大袈裟に避けてるしルルケさんの方が追い詰めてると思ったけどそうじゃないんだね」
「よく言えば無駄が無いですが、ギリギリまで引きつけるリスクを負ってまで攻撃の機会を捻出しているとも言えますし、あんな動きをしていてもなお拮抗出来るというのが兵士の強みと言えますね」
黄金兵士は今度もルルケの氷弾を横に飛び回避する。
飛んだ先の足元から氷柱が立ち上るが、勢いのまま転がって身体に掠らせることもない。受け身をとって膝立ちしながらルルケの方へと視線を向ける。黄金兵士が立ち上がるまでに、ルルケは一度息を大きく吐いた。
「あ」
息を呑んで戦いを見守っていたポーラの横で、ファスカの気の抜けたような声。
ファスカの方を見ると視線が空へと向いている。
空には――
『銀凍世界』
気づいた時には、冷たい光を放つ魔法陣から氷の槍が降り注いでいた。黄金兵士は当然のように全てを避けるが、黄金兵士に当たらなかった槍は舞台に突き刺さり、地面を凍らせて辺りの気温を一気に下げる。
舞台の寒さとは別に、開場の熱はさらに上がっていた。
彼らは強さを至上とする魔族である。
ルルケの構える杖の周囲に氷の槍が幾本も浮かんでおり、先端は全て兵士に向けられている。
一気に放たれた槍は黄金兵士を貫かんと飛び去って、黄金騎士の剣の一撃で粉砕された。先ほどまでと違って、黄金兵士の剣が金色に輝いている。
放つ端から補充される槍が2度3度と切り払われて、ルルケが跳んだ。
宙に浮かんだ槍を踏み、黄金兵士の上に立つ。黄金兵士はバイザー越しに宙を見上げていた
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