第13話 舞台上のキラキラ
「遅いぞー」
ミフナロウの家の使用人に案内されて、壬生菜の闘技場へやって来た2人に着物の少女は口を尖らせる。1000年も生きているにも関わらずそれを感じさせない幼さがあるが、肉体に引きずられるのかそういう性格でもないと長生きできないのか。
ルルケと兵士の戦いはついさっき決まったばかりにも関わらずまばらに観客が入っていた。手には串焼きや骨付き肉が握られており、魔族領では戦いというイベントは充分娯楽になり得るのだろう、腕に覚えのありそうな奴らが獰猛な笑みを浮かべていた。
そういえば、ポーラは起きてすぐ飛竜に乗せられたままここまで来たため、朝食をとっていない。焼けた食べ物の匂いが空腹を思い出させた。
「ポーラさん、どうぞ」
お腹を押さえていたポーラを見て、のルルケが朝作っていた朝食の入ったバスケットを差し出した。
蓋を開けると、野菜と薄切り肉の挟まれたサンドイッチが入っている。
これから金貨を賭けて戦うというのに余裕があるものだ、とポーラは感心するが、ルルケは少し困ったように眉を寄せた。緊張しているからこそこうして気を紛らわせているのだ。
それにしても、ポーラはサンドイッチを齧りながらルルケを改めて見る。
おっとりとした眼鏡の女性が強いようには見えない。ミフナロウも外面だけ見れば強そうには見えないのだが、ファーストインプレッションがアレだったし、のじゃ口調が一周回って強者感がある。
完全に個人の感想でバイアスのかかりまくった色眼鏡である。
「よーし、そろそろ始めるぞ。2人とも舞台に上がるのじゃ」
ミフナロウから声がかかり、ルルケと兵士が控え室から出ていく。
またね、と手を振るルルケを見送って、ポーラとファスカは観客席へと移動する。
「ルルケさんは勝てるのかな」
「ミフナ様が間に立っている以上勝負にはなると思いますが、ポーラ様はルルケ様に勝って欲しいのですか?」
黄金卿と聖皇女のどちらに肩入れするものではないが、昨夜の一宿、サンドイッチの一飯の恩がある、知らない黄金兵士よりは応援したい。正直にいえば自分の意思を無視してどちらかに金貨を渡す流れになっていることに思うところはあるが、ベルトルーガから良くしてもらったし、これからもプレイヤーにお世話になるのだろうし、初期所持品に執着を見せている場合ではないだろう。
「あの兵士は人間味がないから、それよりはってのもあると思う」
ぼんやりとした感覚だが、傀儡より意思がある方を応援したいポーラであった。
そんな会話をしている間にミフナロウによるルルケと黄金兵士の紹介が終わり、2人は距離を空けて向かい合う。兵士は剣を構え、ルルケは杖を突き出す。
「初め!」
ロウが手を振り下ろし、舞台から飛び退いた。
ガッと音が鳴り兵士が消えた。わずかに舞台の一部がひび割れて、ルルケが体を逸らした場所に剣が振り下ろされる。
避けたルルケを追うように兵士の顔がそちらに向いて、剣先が地面にぶつかる前に力任せに横凪に振る。ルルケの杖の前に光の陣が描かれており、陣ごと剣に押されるようにルルケの体が後方へ飛ばされた。
ルルケは空中でバランスを崩すことなく着地し、石突で地面を叩けば同時に兵士の足元に魔法陣が発生し、幾本もの氷の柱棘がが兵士を貫かんと天へと伸びる。最も陣が見えた時には兵士はルルケと逆の方向へと回避しており、棘は何者をも傷つけることはなかった。
砕けて散る棘を挟んでルルケは兵士の方へと杖を向けていた。もしルルケへと切り掛かっていれば手痛い反撃を喰らっていただろう。
それは今立ちすくんでいても同じだった。
ルルケが何かをする前に、兵士は舞台を蹴った。ポーラの視界からまた兵士が消える。
回り込むように移動していると気づいたのは、ルルケの向いている方向が変わったからだ。杖の軌道に合わせて魔法陣が動く。陣は淡い光を発しており、いつでも力を解放できるようだった。
始まりから息を呑む2人のやりとりに、会場の熱は上がる。
兵士が剣を振ればルルケが防ぎ、ルルケが魔法を発動すれば兵士が避ける、その度に歓声が上がる。
人数こそ少ないが、皆思い思いに声を張り上げている。
「凄い、ですね」
会話のつもりはなく、思わず漏れた感嘆の声。
ポーラからすれば2人の攻防を追えているファスカも充分凄い。そんな彼女から見て凄いというのであればこの2人はとても凄いのだろう。ここまでステージが違うと、具体的に何がどうという感想もない。
氷の魔法と、消えたり現れたりする金色の兵はキラキラ光って綺麗だ。
新しいサンドイッチを手に取って、ポーラは純粋に2人の戦いを楽しむことにした。
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