　刑事である私がこの事件を調べ始めたのは、事件の特異性のためではなく、犯人がまだ捕まっていない状況を鑑（かんが）みてである。警察内部での発表では、数年前、女性が襲われる事件が件（くだん）のトイレでは起こっており、その事件の犯人は捕まったが、その後、防犯のためにトイレの手前に監視カメラを置くようになったらしい。

　私は、その監視カメラのデータをもらい、警察署内のパソコンで見始めた。

　深夜2時、被害者の男が1人でトイレに入っていく様子が映っている。

　その映像で被害者の男は、女子トイレではなく、その横にある男子トイレに入っているのがわかった。

　トイレ内にはさすがにカメラは無く、男のその後の行動はわからない。しかし、これだけは確実に言える。男は事件が発覚するまで男子トイレから一切出てこなかった。ただ、男子トイレに男以外が入る様子は無かったが、女子トイレには、このトイレを囲むように女子大学の寮があるからだろうか、深夜にもかかわらず、女子大学生らしき、20代ぐらいの人物が２人出入りしていた。朝、中年女性が来るまでにこのトイレを利用したのはこの2人だけだ。

　1人目はベージュのダッフルコートに黒のロングスカート、2人目は黒の軽量ダウンにグレーのスウェットパンツ、頭に深くニット帽を被っている。そんな出で立ちだった。2人目は暑くなったのか、トイレを出た後は軽量ダウンを丸めてポーチに入れて外に出ていたのだろうか。軽量ダウンを脱ぎ、上もグレーのスウェット姿になっていた。上下セットで寝間着なのだろうか。

　これらの女性の内のどちらかが犯人かもしれない。2人目の女性が怪しいな、などなど私には色々と考えが浮かんだが、しかし、まだ、男性がどう女子トイレに行ったかまではわからなかった。

　私は、まず、その謎を解くために現場へ向かうことにした。