2 凸人事件

 トイレの個室で起こった、くだんの事件は、内容が内容であるだけに、テレビのニュースに流れることもなく、報道は地方新聞にひっそりとされただけだった。 

 が…1人の人間がSNSで事件の内容を報道した記事の写真をアップし、その事件の特異性が注目され、SNSのユーザーによって事件の内容が拡散され、瞬く間に有名な事件になった。犯人を予想する考察系Youtuberや、事件の謎を解き明かそうとする専用の5chのスレッドまでできた。しかし、皆が皆、考察合戦をするだけであり、誰も犯人を突き止めることはできなかった。

 残虐な内容とは裏腹にインターネットではこの事件は『とつ人事件』と呼ばれた。なぜ『凸人事件』なのかというと、凸という漢字は男性の局部に似ていて、”とつ”と”さつ”でゴロが良く『さつ人事件』ならぬ、『とつ人事件』。ただそれだけである。不謹慎な呼び名だ。

 被害者の男性は既に特定されており、名前も顔も家族構成も全てインターネット上では流出していた。

 被害者の名前は、沢村和郎さわむらかずろう。34歳。回転寿司屋で店長をしていた。独身で、事件のあった公園の近くで実家暮らしをしていた。勤務態度は真面目で、性格も優しく、リーダーシップもあり、シフトの調整も上手かったのでバイトの高校生や専門学生、大学生、パートさんからも慕われていた良い店長だった。バイトの子が急病やテスト期間などで休みの時は、自分が休日であっても駆け付け、バイトの子の代わりに出勤して働いていたらしい。

 そんな絵に描いたような優しい店長がなぜか殺されたのである。

 考察合戦が進むのは無理もない。


 ネットでの考察はたくさんあるが、主にあげられるのはこの3つだ。

 ①”バイトの子に手を出して復讐で殺された”

 ②”援助交際に手を出して復讐で殺された”

 ③”阿部定あべさだみたいに女性が彼を愛しすぎて局部を持ち去った”


 ”バイトの子に手を出して復讐で殺された”、”援助交際に手を出して復讐で殺された”これは、一見あり得そうだが、何故、わざわざ局部を持ち去ったのかが謎である。最後の”阿部定みたいに女性が彼を愛しすぎて局部を持ち去った”これがまあ一番あり得る話ではあるが、そんな女性が果たしているのだろうか。被害者は独身であり、結婚歴も無い。家の近くのガールズバーの常連だったらしく、そこに勤めていた女性によると、彼は自分が彼女いない歴=年齢だということを常日頃ぼやいてたらしい。

 

 謎は深まるばかりだ。

 

 殺害場所がトイレで、密室に近い場所だったと言うのも気になる。何故犯人はわざわざ女子トイレの個室という狭い場所で殺人を行ったのか?

 恨みがあるなら、普通の場所で殺せばいい。わざわざ女子トイレで隠れて殺す意味が分からない。個室とはいえ、多くの人が利用する公園にあるトイレにあるもので、いつか必ず死体が見つかる場所であるし…

 

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