凸人事件

村田鉄則

1 事件発生

 朝の5時、毎朝、ジョギングをしている中年女性が尿意をもよおして、いつも走っているコースにある、公園のトイレに用を足そうと駆け込んだときのことだ。女子トイレで、1つしかない個室(和式トイレ)がすでに埋まっていた。横に男子トイレもあるが、行くのは気が引けるので彼女は行かなかった。

 彼女は異変に気付く。個室の中から何か鉄のような生臭い匂いがしたのだ。

 彼女は尿意や便意を催したら、普段から常に、このトイレに駆け込んでいたのだが、そういや…いつも、個室が埋まっていることは無かった、と思い返した。

 彼女はこの状況を不審に思い、トイレをノックした。

 

 返事はない。

 

 そのため、更に追加でノックした。しかし、何度叩いても…

 やはり、返事はなかった…

 

 彼女は中で人が倒れているかもと思い、ドアの下にある隙間からそろーっと個室の中を覗き見た。すると…

 

 壁が一部、赤に染まっていた。

 

 そして、その赤いものの前にピクリとも動かない人間の下半身があるのも見えた。

 トイレの中は薄暗く、ドアの下のわずかな隙間から見たというのもあって、はっきりとは見えないが、赤いもの…その正体は血痕だと考えられた。

 彼女はそれを見た後、恐怖で息が詰まったが、すぐに110番をし状況を警察に説明した。

 

 数分後、公園の管理人の男性と1人の女性警官が駆け付けた。

 現場に来るやいなや、脚立を使って、トイレの中を女性警官が覗き込む…


「キャアアアアアアアアアアアアアア」


 女性警官の悲鳴がトイレ中に反響する。

 彼女は眉をしかめて、ひどく何かに怯える様子だったが、手を震わせながらも、身を乗り出して、内側からトイレの個室の鍵を開けた。

 その後、彼女は茫然自失という感じで、暫くトイレの個室の前で立ち竦み、個室のドアを開けはせず、無線で応援を呼んだ。個室の中で、あったことを再度1人で確認する勇気が無かったのであろう。

 通報した女性と公園の管理人はその様子を見ていたが、2人とも血の気が失せていた。警官が見ても、言葉を失うほど惨たらしいことがその個室では起こっている、それを目の前で肌で感じ取ったからだろう。


 更に数分後、応援の警察官が2人駆け付けた。皆、男性である。

 女性警官が、駆け付けた男性警官に泣きついていた。

 男性警官の1人が、恐る恐るトイレの個室のドアを開けると…

 

 そこには…


 死体があった。


 


 その局部は何者かに切り取られたかのように無くなっていた。

 局部から出た血で壁の一部分は赤く染まっていたのだ。

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