11/28 かわたれどき
ずっと実家にいるわけにもいかなくて、昨日の夜中に帰ってきた。私が台から払い落としたパソコンは打ちどころが悪かったのか壊れたようだった。デスクトップまでは起動するのだけれど、ブラウザを立ち上げると真っ白になってしまう。床に座ったまま何度も再起動をして、夜明け、ぼんやりとした頭で、「google」のブックマークをクリックしたら普通に表示された。それで、気づいた。いつからだろう、ブラウザを起動するとすぐ「帝王の首塚ドットコム」が表示されるように、ホームに設定していた。ということは。
タブレットでブックマークしている「帝王の首塚ドットコム」を開こうとすると、ページはやはり真っ白になっていた。何度か再起動したけれど、変わらない。そのまま床に突っ伏して、眠った。
起きたら何もかも終わっていればいいと思ったのに、まだ朝といっていい時間だった。ちょうど二限のゼミに間に合ってしまう時間。しばらく目を閉じたが眠りは訪れなかった。はちゃめちゃになった部屋の一角をそのままに、すっぴんのままマスクだけして家を出た。
ゼミの教室の前で立ち止まっていると、おはよ、と後ろから橘さんの声がして、私はびくっとした。
「あれ、体調大丈夫なの?」
「え、……見た、よね、あの」
「見た……っていうか、聞いた? なんかすごい音で転んでたから」
「え、……あの、画面は? えっと、壁に写ってたがめ、画面っていうか、写真、っていうか、っ、」
「え? なんかよくわかんないけど……わたし目悪いしなんか人っぽいことはわかったけど、薄暗くてなんも見えなかったんだけど」
「……!」
橘さんに、生首にした橘さんを見られていなかった。全身の力が抜けて倒れるのではないかと思ったが堪えた。そのまま教室に入ったが、ゼミのほかの子たちも私のことを避けたり無視したり罵ったりというようなことはなく、いつも通り、ごく普通だった。ごく普通の、なんでもない存在として、私に接した。いつもどおりレポートの進捗発表をし、ゼミの皆の発表を聞き、教授の説明を聞きながら、私の視界はずっと、すべての輪郭が白と灰色のあいだのような色に、ぼんやりとぼやけていた。
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