11/27 物語

 物語の中で、王は孤独だ。極悪非道な悪い王は置いておくとして、善い王様だったとしても。孤高、というのかもしれない。信頼できる家臣がいたとしてもそれは友達じゃなく家来で、配偶者がいたとしても、どうしても世継ぎや政治のことが絡んできて。決断をしなければならないし、裏切ろうとする者がいないか目を光らせなければならないし、自分が変わらなかったとしても世の中が変わってしまえば、反対する者が増えて、革命が起きて、その結果、さらし首にされてしまうこともある。

 それでも、善いまつりごとをした誠実な王は、その一時代だけだったとしても、人に尊敬されるだろう。人びとは王を慕い、尊敬し、城内には連帯感も生まれるかもしれない。心の奥に寂しさや、人に心を開けないつらさを抱えていたとしても。その行いは、のちの世にも語り継がれる。王の言葉が刻まれた石碑のまえで、いっときの裏切りや民衆の誤解によって切られた首の、塚の前で。

 

 王になりたかったわけではない。王の首を斬りたかったわけでもない。ただ、私は、物語の主人公になりたかった。いつも脇役の「その他大勢」だった。一生懸命メイクしてダイエットもして、容姿を悪く言われることこそなかったけど、化粧気がなかったり少しぽっちゃりしているほかの子のほうが、いつもかわいいと言われてきたこと。一生懸命勉強や運動を頑張って、テストではそれなりにいい成績を取れたけれど、絶対に一番にはなれなかったこと。もしくは、勉強や運動は苦手なほかの子のほうが、ある面で才能を持っていて、もっと注目されたこと。一生懸命空気を読んで気を回して、嫌われたりいじめられることこそなかったけど、ちょっとダルそうだったり天真爛漫なほかの子のほうが、ずっと多くのひとに囲まれていたこと。

 帝王になど、なりたかったわけではない。帝王の首塚を作りたかったわけでもない。ただ、ほんのちょっとだけ、特別な存在になりたかった。一目置かれて、憧れられて、素敵だとか、かっこいいとか、かわいいとか思われたかった。そして、一目置かれている子や、憧れられている子や、素敵だと、かっこいいと、かわいいと思われている子と、親しくなりたかった。

 そして、そして、そんなことを一度も思わずに生きている人に、なりたかっただけだ。

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