11/26 故郷
実家に帰ってきている。といっても、在来線で二時間あれば着く距離だ。特急ならもっと速い。さすがに毎日の通学には遠いだろうと一人暮らしをさせてもらっているが、見ようによっては贅沢なのかな、と思う時もある。誰にも何も言われたことはないのに、実家はどのへんなのと聞かれたとき、県や地方の名前だけ、ふわっと伝えたりする。
特に久しぶりでもない。今日は兄はいなかった。父は近所の人とゴルフの打ちっぱなし、母は家にいたが、ちょっとゴンちゃんの散歩行くからあんた適当になんか食べててね、と言い残して犬の散歩に行ってしまった。ゴンちゃんはたぶん、娘が家を出たからさみしくて飼い始めたとかではなく叔母の友達の家で思ったよりたくさん産まれた子犬をたまたま引き取っただけで、電話で名前だけ聞いてガッチリした柴犬っぽいのを想像していたらふかふかの白ポメラニアンだった。かわいいけど、お互いちょっとよそよそしい。
二階の六畳の私の部屋は、変わらない。いつ帰ってもいいように、というよりは、使う用事もないからそのままにしてあるのだろう。それでもきれいに掃除をして、カーテンやシーツが季節に合うものに変えられて毛布も出してくれているのを見ると、ああ、ありがたいな、と思う。ベッドに寝転がる。タブレットもパソコンも持ってこなかった。スマホは持っているけど、SNSを見る気にもなれない。もし、ゼミの子たちのアカウントに、このまえのことが書いてあったら。
リプライやメッセージがあれば通知だけは届くようになっているけど、あの日から今日まで、私のスマホには何の通知もなかった。
枕元のラジカセのスイッチを入れる。一人暮らしの部屋はなぜかラジオの電波が入らないが、実家にいた頃は、テスト勉強しながらよくラジオを聴いていた。ローカル局の、聞き覚えのある番組のテーマソングを聴きながら、いつしかまどろんでいた。
ゴンちゃんの散歩と井戸端会議から帰って来たらしい母は、暗くなってから私の部屋を覗き、ぎゃっと悲鳴を上げた。慌てて飛び起きると、あーごめんごめん、おばけかと思った、とけろりと言う。
「え、ちょっと寝てたの、明日学校じゃないの?」
休講だから今日泊まる、と言うと、あっそうなの、夜カレーだよー、と言って階段を降りて行った。ああ、どうして、なんで私はこんなふうに生まれてしまったんだろうと思って、起き上がって初めて涙が少し滲んだ。
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