11/25 灯り

 一昨日のことを書いておこうと思う。

 ゼミのグループ課題の締切が迫っていて、空き時間に集まっていた。私は午前中が休講で、遅くまで寝てしまったのでギリギリに行った。結構夕方遅くなってしまったけどなんとか形になって、最後まで残っていた数人で、ご飯でも行こうか、という話になった。橘さんと、佐久間くん、未美ちゃん、久米さん、大場くん、北野さん。橘さんはこういう集まりには来ないイメージがあったのに、帰ると言い出さなかったので嬉しくなった。私の家に来ることになったのは誰が言いだしたのか、自分で言いだしたのだったかもしれない。一人暮らし組の大場くんや北野さんのアパートよりも私がいちばん学校から近かったし、今月のはじめにAmazonで安いプロジェクターを買ったから、たまたま話題に上がっていたドラマがテレビより大画面で観られるからいいと思ったのかもしれない。近所のスーパーでお惣菜やお菓子や飲み物を買って、とっぷり暮れて寒さの増す乾いた夜の道、いつもは一人で歩く道を数人で歩いて、ほどなく私の部屋のあるアパートに着いた。ほんとに部屋汚いよと言いながら足音をひそめて階段を上がり部屋に入る。廊下とワンルームの部屋を仕切る軽い扉を開ける瞬間、ブワァと血の気が引いた。一瞬嫌な予感はしたのだ。行くとき眠たくてぼおっとしながらも帰りは夜になると思って、カーテンを引いて電気も消してきた。それなのに、扉の真ん中の申し訳程度の摺りガラスに、なぜぼんやりと明りが灯っているのだろうと。あの日、未美ちゃんに絡まれた日だ、帰ってから私はまず橘さんの生首を画面の一番端に移動させその反対の端に未美ちゃんの生首を作った。学祭のとき得意げな顔でピンクのメイド服を着た未美ちゃんの、首だけでなくヘッドドレスのリボンも途中で切り落とされ血が滲んだ。未美ちゃんと橘さんとの間を埋めるようにして、未美ちゃん側にこれまで出会った嫌いな人、小学校から高校までの卒アルと実家から持ってきたアルバムを開いて私に嫌なことを言ったりしてきた人、それから、べつにそうでもない人たちの生首を作り、そこからグラデーションを描くようにゼミの子たちの生首を作って、真ん中少し橘さん寄りに桃田さんの生首も作った。大画面に映しながら作った。私は、意外と多くの人の写真を持っているんだなと思った。どこか変なところをクリックしてしまったのか、画面がいっぱいになると生首たちは勝手に喋り始めた。あんまりにも一斉にしゃべるので聞き取れないし、どうやって止めたらいいかもわからない。とりあえずパソコンの音量だけ下げてざわめきぐらいのボリュームにして、そして、生首たちのおしゃべりに耳を傾けながら夜明けとともに眠りにつき、昼すぎに目覚めて、そのまま大学に行ったのだ。入らないで、と声をあげたときにはもう、狭い入り口から順番にみんな部屋に入り始めていた。やめて、と私は叫んだ。すてきだなと思ってここに決めた白い壁の一面に、最大限まで画面を大きくした「帝王の首塚ドットコム」の画面、今、私の部屋に入ってきた人たちの首もある、生首ひしめくマイ生首のページが大写しになっていた。狭いはずなのにスイッチまでの距離が果てしなく遠かった。私はもつれまろびながら部屋の中を進み、プロジェクターをなぎ倒しパソコンを床に叩きつけた。そのあとの記憶はない。昨日は大学をやすんだ。

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